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精霊大陸紀行  作者: plekios
17/26

蟹交戦

今回主人公達は観戦者です

弁当を食べ終わり、皮袋に入れた葡萄酒で一息つく

ウッドワース国のグリンワルドは森と湖に囲まれ、水の豊かな地域だが生水飲むよりこうした果実由来の酒を飲むのが冒険者のスタイルらしい、宿の親父の言だけどな。

1リットル皮袋二つ分で銅貨15枚、白身魚のフライを香草のオイル和えと一緒にライ麦パンに(はさ)んだサンドイッチが二つ、それに瓜類らしき果実の酢漬けがついて銅貨10枚

食堂でとるのに比べて割高だが保存の魔法を掛けてるのでその分安心である

冒険者のアイテムボックスに入れれば同じ事ではあるが……。



午後に入っての狩りの対象は岩蟹(ロッククラブ)である

大きさは胴体幅80cm足の長さを入れて約150cm、高さは成人男性の腹から腰辺り、だいたい1m弱

一対の鉗脚(はさみ)と三対の歩脚を持ち、左右だけでなく前進後退を機敏に行える

我々の世界でいえばコメツキガニのような球体ボディの持ち主

彼らの主食は森の落ち葉や動物の死骸をちぎって食う、いわば森の『分解者(デコンポーザー)』の位置にある。

ノンアクティブで比較的脅威度は低いがハサミで攻撃されれば良くて骨折、下手したら腕切断の目にあう

攻撃対象物をハサミで捕らえると移動の足はほぼ止まるので棒を突き出してわざと捕らえさせ、ハサミを押さえてもう一人が岩蟹の弱点の目の中間を突き刺すのが狩りの基本パターンだ。


岩蟹だけならここでの狩り対象では一番楽な相手といえるが

こいつの生息域には厄介なモンスターも潜んでいる

岩蟹の約三倍ほどの体格を誇る岩結晶大蟹(クリスタルシェル)だ。



「先客が居たか」

「ちょっとそばを通り抜けるわけにはいきませんかねぇ」


月影湖の南エリア

そこは沈水林が乾季で地面が露出する地域で香木や薬草採取ゾーンに指定されている

生産職は機動装甲と呼ばれる乗り物に乗り、指定された時間内に立ち入って採取や伐採を行う

したがってそのエリアでは範囲狩りとかトレイン(獣を引き連れて走り回る)行為はマナー違反と嫌われる。


「トレインや範囲狩りじゃないから違反とは言えないのだが…まいったな」


湖の小島と小島を木製の橋で繋ぎ、乾季の間の林道として利用されているのだが

その小島のひとつで冒険者と魔物の戦闘が行われているのだ

岩蟹は基本ノンアクティブで、もし戦闘になっても初心者を卒業したレベルの冒険者なら1対1で2~3分で片付けられる

これが岩結晶大蟹だと難易度は跳ね上がる

更衣室のロッカーを二つ並べて横にしたのが胴体の大きさ

歩脚は農具の(くわ)を2本半繋いだ感じで、鉗脚(はさみ)はテニスラケットもしくはスコップを拳ひとつ分大きくしたサイズ

それをブンブン振り回してくるのである

目と目の間の急所を上手く刺し貫く事が出来れば短時間で仕留める事は可能だが

岩蟹とは違いこいつは餌を掴んだら動きを止める事はしない

獲物をバラバラにして息の根止まったと確信するまでハサミを振るい続ける狂戦士(バーサーク)タイプ

おまけに時折範囲攻撃スキルの地撃震(アースパウンド)を繰り出してくる

ビル解体中の重機がタイムアタックで動いてるようなもので部外者が近寄れるようなものじゃない。


「ここを避けて北周りで岩蟹の巣を探すのは遠回りになるし彼らが岩結晶大蟹倒してからそばを通る方が良いかな」

PTリーダーのロバートは米噛(こめかみ)の部分を人差し指でポリポリ掻きながらメンバーに提案する

「苦戦している様でも無いですね、他の冒険者の戦い方参考にする機会になりますかな」とルーク

確かにフィールドで他PTの狩りをゆっくり見物する機会はそう無い

たいてい狩りが終わったあとの剥ぎ取り場面に通りかかるか、危険に瀕して助力求められる場合のどちらかだし。


相対している冒険者達は大蟹の正面に盾装備の重甲戦士、戦士の盾持つ側(左サイド)に黒の僧服(キャソック)着ている--たぶん僧侶--が節棍(フレイル)を構え

そのやや左背後にローブ姿の魔道士が魔杖(ワンド)を持ち魔法撃つ機会を窺っている

彼等から少し離れて大蟹から見た右背後に射撃士が位置取りし、足の関節部分を狙って武技スキルを放っているようだ。


「盾持ちが一人で蟹のタゲ取りで、あの射撃士がダメージディーラーですかね、少し人数的に火力不足な気がしますが」双剣士のハンスは呟く。


岩水晶大蟹(クリスタルシェル)をPTで対応するには魔道士の高火力で叩き、壁役が魔道士の盾となるか

戦士が戦槌(ウォーハンマー)か斧で装甲削るのが定石とされている

見ている限りではあのPTの魔道士の放つ魔法は初級魔法気弾(マナショット)のレベル3か中級魔法炎矢(ファイアアロー)のレベル1がせいぜいのようである

時たま歩脚に凍結(フローズン)を掛けて動きが止まったところを僧侶の節棍(フレイル)の鉄塊が叩くが

剥がれた結晶欠片も大蟹が魔力を放出して表皮露出部を再充填してなかなか本体にダメージ通らない。


重甲戦士は金属丸盾(ラウンドシールド)長剣(ロングソード)で大蟹の攻撃を上手く受け流し(パリィ)しているが長期戦となると疲労で受け損ねるのではないだろうか、まぁ鍛え方次第だろうけど。


(ぬし)級との戦いはある程度の時間が掛かるのはやむをえない

俺たち(ロバート)パーティーの背後に生産者らしい機甲(バレル)が数台通行待ちしてる

そのうち何人かは水筒に口つけてグビグビやっている

ちょっと顔が赤いのは怒りじゃなく酔っているのかな、飲酒運転で人轢かないでくださいよ……。

彼らとしても道がふさがってるのは腹立たしいだろうけど、アクティブモンスがそのまま徘徊するのはヤバイので退治されるまでは待つしかない

戦闘用に改造(チューン)されている機甲もあるけど燃費が悪いし貨物積載量も低くなるのでこの辺り(ウッドワース)では運用する人は少ない--ゲームではその耐久力から戦争で使用するプレイヤーは結構居たがそれらは「戦闘機甲(バトルタンク)」と呼ばれる--レベルの高い機甲は修理代も馬鹿にならない。



傍から見てちまちま削っていた様だが歩脚を二本折ったところで彼らの動きが変わった。


武技(アーツ)で畳み掛けるぞ、回復頼む」と盾戦士が大声で怒鳴り彼の身体が赤く輝いて陽炎のように二度燃え上がった

近接戦闘職の持つ武技「焼身熱血(ブラッドバーニング)」だ、体力(HP)の何割かを代償に闘気を満たし

その闘気で何らかの剣技(アーツ)を放つのだろう

火力担当であるDD(ダメージディーラー)遊撃手(アタッカー)が取るのはよく見聞きするが盾役がそれをするのは対ボス戦闘ではハイリスクを伴う。


「【 闘気四連咬牙(カトルファング)】!!」


ロングソードか青白く輝いたかと思う間もなく光の乱舞が岩結晶大蟹を包む

叫んだ技からして剣技咬牙(ファング)の最上位であろう。


【咬牙】は溜めた闘気を剣に乗せて刀身を伸ばし往復の斬撃で敵を切り裂く技法である

厳密に言えば金属の刃がそのまま伸びるのではなく、消防車の高圧放水かガスバーナーの炎のように

剣の切っ先から闘気が放出して相手に叩きつけるのだ

技が未熟だと激しく放出しても気がまとまらず体表面を流れるのみだが達人級になると分散せず光の(やいば)を形成して切れ味鋭く滑らかな断面を残す

これに対抗するには同質の闘気を防具に(まと)わせるか結界系魔法を施すしかない。


一撃の単純威力はその剣の持つ硬度、技者の腕力にも拠るが武技【袈裟切り(スラッシュ)】の快心の一撃(クリティカル)を100パーセントとした場合の7割か8割程度の威力だが往復の斬撃が命中すれば140から180の値

四連咬牙がすべて当たれば560パーセントから640パーセントの値を叩き出す

高品質(レア)武器ならボスモンスターも一瞬で滅殺出来るアーツである

もちろんそれだけリスクも有るが……。


戦士が技を放った直後、闘気の輝きが剣から消失した

だが岩水晶大蟹はその甲殻がボロボロになりながらも右の大鋏脚を振り上げた、生命力を削り切りそこねたか

四連咬牙は咬牙の数倍の威力と引き換えに技を放った後の脱力時間も長くなる

それゆえPTでの役割はダメージディーラーともアタッカーとも呼ばれる遊撃手担当の剣士が退避する余力を残した形で使用するのが本道、もしくは反撃の無い止めを刺すときに限られる。


武技使用直後で動きの止まった戦士の側頭部にハサミが振り下ろされる直前

僧侶が間に入り節棍(フレイル)の柄の部分を使って外回しで受け絡め(練り巻き)で軌道を変えてガードした

大蟹のハサミが僧侶の足元に押さえられた間隙を縫って魔道士の魔法が飛ぶ。


(あれは気弾(マナショット)では無いな、中級無属性の魔導弾(マジックミサイル)かな)


戦士が砕いた蟹の顔面(?)の装甲の合間の体組織露出部に命中、大蟹は断末魔の痙攣を繰り返した後地に伏した。

HPゲージが完全に左端に達しているので絶命したのは確実である

岩水晶大蟹から淡い(もや)が立ち上り魔道士のほうへ漂い、彼の身体に吸い込まれて一瞬その身を輝かした。

彼が最終一撃(ファイナルアタック)を与えたボーナス獲得であろう、揉めなければ良いが他所のPTなので口出しする事でもない。


「片が着いたならそこを通りたいのだが、大蟹(そいつ)をどかせられるかい?」

俺たちの後ろで観戦していた機甲乗りの一人から彼らに声が掛かる

大蟹の死骸は戦場となった小島のほぼ中央で通路をふさぐ形で転がっている

死骸を迂回するのは徒歩ならたいした問題ではないが機甲だとやや軟弱な地面を通る事となり下手すると転倒事故となる


「少々獲物に傷つくの認めてくれるなら俺たちの機甲(マシーネ)でどかして、道路脇で解体した方が互いに都合よいと思うか、どうだ? 」


足止め喰らっていたにしてはその口調は険がある様子ではなかった、家畜の群れの移動で街道がふさがった程度の事故(アクシデント)みたいなものだろう、この世界では。


合意が成立したので数台の機甲が重低音の発動機(エンジン)音を立てて始動する

赤油(ねんりょう)節約のため待機中は停止していたのだ

排気管の煙が黒から薄い白紫に変化した頃合に排気音に混じって笛が鳴る様な風切り音が聞こえる

赤油の燃焼に伴い含まれている魔素を分離して蓄霊器(コンデンサ)に溜める整流器(コンバーター)のマニ車が回転する音だ

薄い円盤に魔法式と図形が刻まれており、回転する事で呪文詠唱と似た効果を生み出すらしい

北の錬金術大国メタルギアで生まれた技術らしいが細かい部分はブラックボックスで封印された部品として各国に供給されている


蓄霊器の霊圧が安定したところで機甲がゆっくりと動き出す

機甲の機種により駆動タイプは異なるが、ここに居る機種は機体の移動は低圧タイヤが平行に二輪、機体前後に補助輪が二輪付いてあるタイプ、発動機からの運動エネルギーを歯車で転換してタイヤに伝えて移動する

二台の機甲が岩水晶大蟹(クリスタルシェル)の左右に位置取り、機体の下部左右からアウトリガ展開、接地

機体背部に折畳まれていた二本の腕部がガイドレールに沿って移動、作業時固定位置に人間で言う肩甲骨部品(パーツ)がガチンと嵌る音を立てて装着する、両手にあたる爪部分がワキワキと開閉

その姿はまさに異世界の建機、あの○立アル○コの車体を丸くコロコロボディにしたと言えば近い


木材伐採から鉱石採取兼用の五本爪で岩水晶大蟹を掴み上げ、街道から路肩やや離れた空き地へ移動する


(ゲームでの省略された作業とは違い凄い迫力だな)

この世界に来て初めて機甲の作業場面を間近に見ていささか放心状態だったみたいだ

気が付くとロバート達と大蟹倒したPTがなにやら話している


「……教会の試練とは言え、ここの冒険者協会(グリンワルド)の承認の問い合わせ無しで狩りしたのですか?」

ルークの声がいささか険を含んだ響きで聞こえてくる


「託宣が出たのだ、『やがて近いうちに魔の勢力が四カ国に侵攻する』と、我等は魔獣の出現状態調査に各国を巡る任務を受け賜わった者である」


うん? あちらのPTは僧服(キャソック)に金属胸当て着けた奴がリーダーなのか

革の兜を脱いで左脇に抱えて額の汗を手巾で拭っている

こげ茶色の髪を七分刈りした短髪で太眉毛・ギョロ目のやや角ばった人相である、なんか角獅子ぽい

(僧侶でも禿…もとい、()ってないんだな)

魔術士は機甲乗りの人達にぺこぺこ頭下げている、機甲乗りの人達は笑って手を振って気にすんなって感じか

盾役やってた重甲戦士は兜と面頬を外して皮袋に口つけて水を飲んでいる

武技(アーツ)の『焼身熱血』を行使すれば体温も高くなりスタミナ消耗するからな、ご苦労さん

ん? 『四連咬牙』を習得しているレベルにしてはずいぶん若いな、まだ10代半ばに見えるがこの世界でも「童顔」てやつか


あ……一人だけ離れて弓を撃っていた射撃士が此処にやってきた、見覚えがあるぞ、あの(つら)は…… 



間空いたので主人公の口調が変化したような

元に戻すかこのままで行くか模索中

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