妖精のささやき
「珍しいわね、これフェアリー?ピクシー?」
レナとアイリスの周りをゲイルの中級妖精らしい使い魔がパタパタと飛び回っている
ロバート達男性陣は斃したばかりの天駆蛇の解体中
俺は解体して素材となった各部位を「アイテム化」してインベントリーに収めているところだ
予定の狩り目標じゃない大物なのでロバート達の背嚢や獲物袋には余裕が無い
ちなみに協会配給の初心者用背嚢では軽量化・コンパクト化の魔法が有ってもレベル15前後では200ポンド(約90Kg)相当しか運べない、体感重量は1/4くらいに軽減されはするが正直担いだままでの戦闘はしたくない
ある程度の量になればベースキャンプに戻って保管するのが狩りの基本である
収納して移動するだけならレベル110魔法背嚢<<マジックリュック>>と機動装甲<<スーツ>>搭乗で25000ポンド(約10t)は運べるが今はそこまでするほどではない
「熊虻<<ベアフライ>>の魔石そろったし次の狩り場に移る前に昼食とろうか」
斧と解体ナイフを小川で洗ってウェスで拭き取り鞘に収めながらロバートが言う
「わりとスムーズに行ったかな、この分だと午後で次の魔石そろうかも」
俺は水際から数メートルほど離れた地面を魔法で穿ちながら返事する
魔物の素材取った後の残りの部位は穴掘って埋める、そのままにして置くと通常動物が食って魔素取り込んで魔獣に変化する場合があるからだ
狩った獲物が小型で数体程度なら火炎魔法で焼き払って御終いだが、今回俺たちは100体以上狩った上
予定外の大物(天駆蛇)も屠ってしまったので後始末はちゃんとしないとな
魔物と魔獣の違いは大雑把に言って「人に害を成す存在全体を指して魔物」それは動物や植物、霊的存在など多様だがあまり賢いモノは無い
「魔獣」は魔素を取り込み元の野獣より体格・力・俊敏さなど大幅に増大して人に対して攻撃性を増している
なおかつ「知性」を獲得して魔法を駆使する個体も出現する
野獣から変化した魔獣までは元の性質残してて対策がとりやすいが
魔獣が討伐されず年古りてさらに変化を重ねると「妖魔・妖獣」となり「ユニークモンスター」「ネームドモンスター」と称されることとなる
聖別された武器とか魔法付与<<エンチャントマジック>>で強化が必須とか
それらはAランク冒険者がPT組んで討伐する対象で、正直今は出会いたいとは思わない
熊虻<<ベアフライ>>と天駆蛇<<ドラゴンフライ>>の遺骸を集めて穴に放り込み土を掛けて埋葬終了、ナムナム
ゲームだと倒したモンスターは光の粒となって消え去るのだが、解体という手間が居るこの世界は少し違う
片付けるまでその場に残り続けるのだからソロじゃない団体行動だと放って置くのは気まずい
ロバートと入れ替わりに小川で手を洗う、血まみれの手で飯食うのは嫌だしな
ベースキャンプに戻って宿屋で作ってもらった弁当を広げようとした時、燐光を放つ何かが近づいてきた
約40cmほどの人型で4枚の羽を震わせて切り株に座った俺の目の前1mほどひらひらと滞空している
さきほどレナとアイリスに愛想振りまいていた妖精、ゲイルの使役魔<<ペット>>か
顔の大きさは親指もしくは小指の長さくらいで5~6cmとしておおよそ6.5頭身てとこかな
髪の毛は蜂蜜色、やや赤味がかった黄色で額の上の前髪の一部が朱色のメッシュ
目の形は巴旦杏<アーモンド>のような端の尖った楕円形、白目の部分が少ない虹彩が大部分占めている
虹彩は黒かと思ってよく見ると瑠璃色<<ラピスラズリ>>にやや金の星屑が散った生きた宝石といった感じである
衣服は植物の葉を綴った様な裾丈の短いドレス、英国の妖精画といえば判り易いか
身体のサイズはあれより一回り大きい、ツ○ダの1/4ジャンボ○ィギュアが動いてるみたいな
ゲームで課金籤引<<ガチャ>>でしか手に入らない使役魔<<ペット>>であるがここでお目にかかるとはな
パソコンモニターでは細部まで良く見えなかったが確かに可愛らしさではトップランクと言うのもうなづける
だが、可愛らしさでトップランクだが連れて歩くプレイヤーは意外と少ない
それは育成に癖があり、育つと意図した方向とずれが生じるためである
使役魔<<ペット>>は主人とともに戦闘する事で魔素<<マナ>>を獲得し、成長・進化するのだが
妖精タイプの場合、前衛として戦わせるとナイトメア、サキュバスに進化して捻じれた山羊の様な角と先端が鏃<やじり>のような尻尾、蝙蝠の翼を持つ女悪魔外見となる、そしてサイズは人類の平均的女性より背の高いモデルさんくらいの背丈
それはそれで人気の種族とも言えるのだが飼い主の嗜好が……まぁ、いろいろ言われるのだ
後衛として支援タイプで育てると完全に魔法タイプとなり、体力の低いホーリーエルフ、フェアリークイーンに育つ
回復<<ヒール>>とか対物理防御<<アンチマテリアルシールド>>などの補助<<バフ>>を掛けてくれるのだが、使役魔がそれを掛けるだけ成長した頃は飼い主にとって効果が薄く感じられる狩場となる不遇仕様
大回復<<ホーリーヒール>>や対魔法防御結界<<アンチマジックシールド>>などの補助なら活躍の場はもっと与えられただろうに
『アナタ ナゼタタカウノ?』
……話しかけてきた、自分の所有する使役魔はレベルアップ時に感情らしき反応を示すのだが、他人の所有する使役魔は本来飼い主以外に話しかけたりしないし感情をあらわにする事は無い
レナやアイリスの近辺を飛んでいた時も飼い主のゲイルからそんなに離れたりしてない
あとでレナ達に「妖精と話をしたか」と確認してみる必要があるが……
気になったのでシステムからチャットウィンドウを拡大してみる
ノーマル/パーティー/ギルド/トレードのフィルターが有り、今回確認するのはノーマル
聞こえる範囲での通常会話履歴<<ログメモリー>>である
意識してなくて聞き逃していた周囲の人の会話を白文字で表される、いわゆる「白チャ」だ
レナとアイリスが「かわいー」「おもしろい」と言ってたのが記録に残されていたが妖精が話していたような記録<<ログ>>は無かった
俺に話しかけた妖精の言葉はピンク色で残っていた、
区分で言うと1:1の内緒話、ゲームで「ささやき/ウィスパー」と言われるモードだ
『……アナタ ヒトジャナイ シト? ソレトモ……マジン?』
いきなりなんて言う事吐きますかこいつはっ
そりゃ異世界から来た(かな)と言う疑念は自覚してますが「人外認定」されると切れますよ?
つか「マジン」は「魔人」か「魔神」の意味として「シト」ってなんだ?
最初の問い「何故戦うか」と聞かれたときは適当に答えようかと思ったが
これは何かのフラグか、下手したら厄介事に巻き込まれそうな予感
追っ払うにしても杖を振り回したり魔法撃ったら拙い事は判る、ここはキャンプ場で国の衛兵も駐屯している
さきほど範囲魔法の試し撃ちで注意されたばかりだし
ぐぬぬと唸っていたらハンスとルークがこちらにやってきた、食事終わったのか、食うの早ぇぇな
「ベルさん、なに唸ってるの?」
「この妖精が『何故戦うの』と俺に聞いてきて戸惑っている」
食後で鼻頭をベロで舐め舐めしながらハンスが尋ねる、以前うちで飼ってた柴犬思い出すじゃないですか
あいつが喋れたらずいぶん喧<<やかま>>しいだろうなと失礼な事思いつつ慎重に答える
「そちらから話し声は聞こえませんでしたが……その妖精がそんな事を?」
ルーク、なんか顔が険しくなってますがそんなに気に障ることなの?この会話は
「ベルさん、その妖精の問いにはまだ答えてないですよね?」
「あ、あぁ、なにせ唐突だったのでまだ話して無いですが」
そう答えるとルークは右手を突き出し、人差し指と中指を伸ばして親指を曲げた薬指と小指を抑える形に組み
「セ・パ・ロ・タ」と唱えながら二重丸とバッテンを宙に描く
そして五指を押し広げて妖精を睨み「邪霊よ退け」と宣言する
ルークの剣幕に気圧されたのか妖精は数mほど後退し、俺のほうをちらりと見た後向きを変えて
『ジャマ サレタカラ カエルネ マタ アイマショウ』
そう囁いて飼い主の居るらしき方向へ飛び去った、なんだったんだ
「ふぅ、厄介な事になるところでした」
妖精の姿が消えたのを確認してルークは安心したかのように吐息をついた
え、なに?そんなに危ない状況だったの?
「妖精と会話するのは基本危ないのです」
知らなかったと呟いた俺に苦笑いしながらルークが話してくれた事、それは
『店で使役魔<<ペット>>として販売されている元素精霊<<エレメンタル>>や捕獲精霊<<スピリット>>は飼い主との間に契約が結ばれて上下関係がはっきりして主<<マスター>>を害しない制約が掛けられています』
『基本彼らは主<<マスター>>以外の存在には自ら話しかけることはしない』
それは俺も知っている事柄なので驚きはしないが、その後の内容を聞いて驚いた
『自我が強い使役魔は飼い主以外の強い存在に働きかけて己を解放させるよう仕向ける個体もある』
えーっと、「離婚に応じない亭主殺すため間男そそのかす」みたいなものですか、昼ドラ風に言うのも変ですが
ちと食欲が減退したけど食わないと午後の狩りにならないのでちゃっちゃと食べますか
………弁当の包みが転がって小蟹がちょっかい出してたのを蹴飛ばして拾い上げて食いましたよ、幸い齧られたのは小指の先ほど程度でしたけどね




