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こちら筋肉防衛軍。  作者: マッスルハッスル。
第①マッスル ◆筋肉への誘い!!◆
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出撃!!

 食事を終えた三人は食器をカウンターに置くと、それぞれの部屋で待機しろという増山の指示に従い解散した。

「金平君、とりあえず部屋で仮眠をとってくれ。時間になったら呼びに行くから」

 増山はそう金平に言い残した。

 シャワーを使ってもいいと言われ、場所を教えてもらった金平だったが、計りしれない危険を感じたので曖昧に感謝だけした。

 面接時に見た、社長のイッちゃってる眼差しを思い起こすと、全身に鳥肌が立つ。不用意に社内を散策するのは得策ではない気がした。

 仕方なく、部屋に戻ってベッドに身を投げる。

 たかだか数時間のことだが、余りにも自分の置かれた状況が変わったことに疲労を感じた。

 そして、今さらながらに幾つかの疑問が頭の中で渦巻く。

 従業員達が揃いも揃って、何故あんなにガチムチなのか?

 第一、引っ越しセンターらしき業務をしている素振りが微塵もない。

 あまりにも不可解だった。

 家に連絡しなければとも思ったが、どうせ親も兄弟も、自分が家を空けても何も気に留めることはないのではないか……と、真っ白い天井を眺めながら思う金平だった。

 携帯の時計を見ると、7時を過ぎている。

 腹も膨れて、ウトウトとまどろみが襲う。

 知らない部屋の知らないベッド。シーツの洗剤の匂い。

『あの食堂にいたお母さんが洗濯したのだろうか?』

 そんなとりとめもない事を考えながら、いつの間にか眠りに落ちた。


◆◆◆ 


 どれほどの時間が経ったのだろうか。

突然、けたたましいサイレンの音がビルの中に鳴り響いた。

「な、なんだ!?」

 熟睡していた金平は跳ね起きて、目やにで開かない瞼をこすりながら部屋のドアを慌てて開ける。

 廊下には更に大音量のサイレンが響いていた。

 見ると、廊下の奥から険しい表情をした増山、社長、チャック、三国が整然と一列に並び駆けてくるではないか。

 日中会った時の柔和な雰囲気はまったく無い。

「あ、あの」

 質問しかけた金平を遮り、スポーツ飲料を投げてよこす増山。

「行くぞ、金平君。それ飲んで目を覚ますんだ」

 冷えて汗をかいたスポーツ飲料をキャッチして、その冷たさにギクリとしながらも、金平は皆に続いて走りだした。

 もう何が何やらわからない。

 金平はカラカラになった口の中へ、スポーツ飲料を流しこむ。

 ビルの地下駐車場へと繋がるらしい階段を駆け降りると、思ったより広大な駐車スペースが広がっている。

 何台かある車を通り抜け、黒塗りのハマーに乗りこんで行く一堂。

 運転席には増山。

 助手席には三国。

 腕には何やら機材を抱えていた。

 後部座席には社長とチャック、金平。

 ハマーの後部座席には広いスペースがあるが、それでもチャックと社長が座るだけでかなり窮屈になった。

「三国さん、位置は?」

「ここから2キロほど東、山間部の麓ですね。いつも通り住宅地なんかはありません」

「よし」

 アクセルをガバッと開けると、ホイルスピンしながらダッシュし始めるハマー。タイヤを鳴らしながら工業団地を後にした。

 寝起きの金平はいまだに状況が飲み込めていない。

 ──ただ、漠然と思いついた事が一つ。

『もしかして、夜逃げ屋なのか?この人達』

 こんな真夜中に慌てて出かけるところから、金平にはそれ以外思いつかなかった。

 それならば、このヤクザな雰囲気のメンバー構成も納得がいく......と。

 黙っていた社長が唐突に口を開く。

「金ちゃん、緊張することないのよ、大丈夫、あたし達に任せて」

『ナニを任せろというのだ?』

 金平の心拍数が急激に上昇し始めた。

 しかし、この寒空の下、社長は相変わらずタンクトップに短パンだ。

 あの連続殺人犯的ないかつい顔に加え、こんな姿で街を歩こうものなら、警察に職務質問されるのは明白だろう。

 チャックと増山は同じグレーのつなぎを着ている。

 2メートルはあろうかという大男のチャックが、ルーフに頭がぶつかるので若干姿勢を斜めにして座っていた。

 顔は真剣そのもの。

 そんな姿を見て、ちょっと吹きそうになる金平だったが、置かれた状況を思い出すと気持ちを恐怖が覆う。

「あと300メートル、もうすぐです!」

 助手席の三国が手元の機材を見ながら、上ずった声を上げた。

 機材はノートパソコンのようだが、色々とカスタマイズしてあるらしく、アンテナらしき物が伸びている。

 車窓から見える景色は、工業地帯から山間部に進み、人家や商店は見当たらない。

『夜逃げの手伝いではないのか?とすると、いったいなんなんだ?』

 金平は持っていた飲みかけのペットボトルを強く握った。

 じきに車は停車する。

 そこは峠の入り口付近で、周囲には街灯も無い。

 つぎはぎだらけの荒れた舗装と、鬱蒼とした茂みに囲まれ、峠へ上る道と県道が三叉路になっている。三叉路の中心はわりかし広く、ハマーがUターンできるぐらいのスペースがあった。

「増山ちゃん、みんなに薬を」

 アイドリングの音しかしない車内の静寂を破り、社長の真剣な眼差しが増山を見据える。

「はい」

 増山がつなぎの胸ポケットから、小型のタブレットケースを取り出した。

 それを開けると、ブルーとホワイトのカプセルをザラザラと(てのひら)へ。

 2粒づつみんなに配り始める。

 自然と金平にも回ってきた。

「さぁ、金平君、飲むんだ」

『いやいや、飲むって』

 車内を見渡すと、なんのためらいもなくカプセルを口にする面々。

『いかんよこれは、ひ、非常にまずい状況だ』

 金平は今更ながらに、面接の時点で逃げなかった自らの過ちを後悔した。

『これはひょっとして、何かとっても楽しい気持ちになるパーティーか何かなのか?そして自分はパーティーの中心の、生け贄的ポジションなんじゃないのか?』

 頭の中に、はにかんだ社長やチャックが跨がる木馬のメリーゴーランドが、グルグルと軽快に廻り始めた。

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