筋肉的食事!!
チャックと増山がにこやかに談笑しながら食堂に向かう背後で、肩を落とし歩く金平。
増山が、社員食堂と書かれたプレートの貼られた部屋の引き戸を開けて中へ。
続いてチャックが前屈みになりながら入って行く。最初から前屈み気味に肩を落とした金平も続く。
室内は広く、中央に陣取るアルミ製の長テーブルの脇には、丸椅子が八つ置かれていた。
見た感じどこにでもある社員食堂だ。
カウンターの奥には割烹着を着た中年の女性が。
「お母さん、三人分お願い」
増山が快活な笑みを浮かべている。
お母さんと呼ばれた中年の女性は「は〜い」と歯切れよい音を出すと、三人の大男を一瞥して微笑み、手際よく動きだす。
男達がのっそりと席に座ると、チャックが口を開いた。
「カナダイラサンは、ナニカ格闘技をサレテマシタカ?」
見た目はまんま欧米人だが、片言に聞こえた口調は、若干訛りはあるものの流暢な日本語だ。
「はい……柔道を」
白い歯を見せてニコニコしているチャックを見上げながら、ボソリと呟く金平。
「チャック、彼はゴールドメダリストなんだよ」
特に悪びれる様子もなく、増山があっけらかんと説明した。
「オゥ、ファンタスティック。それはスバラシイ」
チャックの碧い瞳が爛々とした光を宿す。
「いえ、その……ドーピング検査に引っ掛かって、メダルは返上したんです」
傷口に塩を塗られた気分の金平は、表情を曇らせた。
「報道じゃ、監督が勝手に食事に混入させてたって話だろ?君が悪いんじゃない」
増山の口調は至って穏やかだ。
確かにその通りなのだが、ゴールドメダルを剥奪された現実は撤回しようがなかった。
うつむいて肩を落とす金平を見て、チャックが声をかける。
「カナダイラサン、大丈夫です、アナタのそのチカラ、これからゾンブンに使えるハズデス」
ほくそ笑むチャックを見ながら、増山は声を上げて笑った。
そんなやりとりをしている間に、先ほどの中年女性がトレイを運んでくる。
「お待たせ」
手際よくトレイの上の物を次々に配膳すると、お母さんと呼ばれた中年女性は笑顔でトレイを抱え、金平の顔に見入った。
「可愛い顔して、うちの子と同い年ぐらいかねぇ」
「お母さん、気に入った?」
増山が茶化す。
金平は複雑そうな表情を浮かべながら、並べられた食事に目を落とした。
プラスチックの容器には、鳥のささ身が山盛りに。
ピッチャー程はある巨大なグラスには、プロテインらしき液体が波々とつがれていた。
そして大量のサプリメント。
バナナ一房。
三人とも同じ内容の食事だった。
見ただけでげっそりする金平。
「おかわり沢山あるからね」
満面の笑みの“お母さん”。
「は、はぁ」
相変わらず低いテンションで答える。
隣のチャックはリスのように頬を膨らまして、鳥のささ身をむさぼっていた。
増山も先ほどまでの紳士的な態度から一変、気がふれたゴリラのごとき形相でバナナを食らっている。
『いったいこいつらなんなんだろう……』
底知れぬ不安感だけが、金平の胸に広がっていく。