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こちら筋肉防衛軍。  作者: マッスルハッスル。
第③マッスル◆戦え!!筋肉の戦士達!!◆
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純朴な涙!!

 昨日までが嘘のように、幸せな気持ちに包まれた金平とソフィ。しばらくの間、無意味に鬱屈としていた互いの気持ちを払拭し、デートの約束を交わした。

 その後、チャックの様子が気になる金平は、上機嫌で彼の部屋へと向かう。鼻歌混じりに歩みも軽やかで、ほんの1時間前とは別人の表情だ。

 チャックの部屋のドアをリズミカルにノックする。

「……」

 応答が無い。

「おい!チャック!いるんだろ!」

 ふと、手をかけたドアノブが簡単に回った。

「は、入るぞ」

 若干遠慮しつつドアを開ける。

「うっ……酒臭っ……チャック、お前!」

 見ると、薄暗い部屋の隅にあるベッドの下で、うなだれながらチャックが座っていた。

 脱ぎ散らかした衣服が散乱した室内。髪は乱れ、白地に星条旗をあしらったタンクトップには、酒でも溢したのか、所々染みがついている。

 ──明らかにアル中の体。

 あまりに鼻を突くアルコール臭に、金平は慌てて窓に手をかけた。

「お前どんだけ飲んだんだよ!?」

 ひんやりとした外気が空気の淀んだ室内に回り始めると、寒さからかチャックが身を捩り始めた。

「ナナさん……ホカノお客さんと、デートシナイデクダサ~イ」

 ボソボソと呟きながら、虚ろな眼差しで壁を凝視するチャック。

 金平が部屋に入ってきたことに全く気付いていていない。

「おい!チャック!」

 チャックの眼前で手を振るが、瞬きもせず視線を変えない。チャックは三人で飲みに出掛けた夜から数日と置かず、単身、例のガールズバーへ足を運んでいたのだ。もちろん金平や木下には内緒である。

 しかし、店にはナナ目当ての常連客が当然他にもいた。結局ナナは、チャックの隣に30分程留まっただけで、すぐに他の客の所へ行ってしまう。

 チャックに好意がある無い関わらず、ローテーションで客の間を回るのは、夜の商売をする上での常識なのだが。シャイなチャックは彼女のアドレスすら聞けずじまいだった。

 突然部屋に鳴り響く破裂音。

 金平がチャックの頬を張ったのだ。

「チャック!目ぇ覚ませ!」

 夢から醒め、ハッと我に還る。

「カ、カナダイラサン……?」

 辺りを見渡し、自分がどこにいるかを確認するような素振りだ。

「チャック、お前……」

 窓から差す朝の光を浴びて露になった、チャックの薄汚れた姿に言葉を失う。

「カナダイラサン……ドウシタラナナさんにフリムイてもらえますか?プレゼントすればイイデスカ?」

 悲しみに打ちひしがれたような表情で、チャックが言葉を吐き出した。いつもみんなの前では快活に振る舞う、明るく穏やかなチャックの姿からは想像もできない程、暗く憔悴しきっている。

 そんな見たことも無いチャックの姿に、胸が張り裂けるような思いになった。

「大丈夫だ……俺がなんとかしてやる……だから元気出せ。まずはシャワー浴びてこいよ」

 金平は、つい出来もしないことを口にした。

 だが、無責任にも口を突いた言葉には理由がある。

 いつの間にかこの愛すべき金髪の巨人を、家族のように思い始めていたからだ。

「ハ、ハイ!」

 金平の言葉に安心したのか、チャックはフラフラと立ち上がり、千鳥足でクローゼットから着替えを出すと、部屋を出ようとした。

 しかし、テーブルに足を取られ転げそうになる。

 咄嗟に金平が全身を使って受け止めた。

 とてつもなく重い。

「おい、しっかりしろよ……化け物みたいなSEには勝てても、酒には負けるんだな」

 全身の筋肉を総動員してチャックを支えると、金平が優しく微笑む。

 見ると、チャックの頬に涙が伝っている。

「カナダイラサン……アリガトウゴザイマス」

 ポロポロと、緩んだ蛇口のように止めどなく溢れる涙。

「な、何言ってんだよ、た、たいしたこと……ね~よ」

 何故だか金平の瞳にも熱い物がこみ上げ、喉が詰まり、言葉が波打った。肩を組んだままドアを開け、ヨタヨタと部屋を出る二人。

 ふらつくチャックの体重が思った以上に金平へのし掛かり、不自然な体勢で倒れそうになる。その時、反対側からチャックを支える影が。

「僕も手伝いますよ」

 静かな口調で助けに入ったのは木下だった。白い顔に柔らかい笑みを浮かべながら、チャックの背中を支える。

「いつもながら、どっから湧いてきたんだよ」

 金平が思わず破顔する。

「ハハッ」

 三人で顔を見渡すと、皆同じように笑い合い、ゆっくりと通路を進み出す。

 どこか奇妙な友情が、三人の男達を結びつけ始めていた。


◆◆


 シャワーを浴びて幾分スッキリした様子のチャックと、いつものように道場でトレーニングをした金平。

 同じ道場の隅では、木下が木刀で素振りや型の練習を精力的に行っていた。その後三人でウエイトトレーニングをして1日を終える。

 

 その夜。朝のチャックの悩みについて、金平はベッドで思案を巡らせていた。トレーニングの疲労のせいか、ウトウトと微睡みが襲う。

 すると──。

「!?」

 突如として響く、静寂を打ち破るサイレンの音。なんの前触れも無く、その時は訪れた。



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