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こちら筋肉防衛軍。  作者: マッスルハッスル。
第③マッスル◆戦え!!筋肉の戦士達!!◆
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新入社員!!

 ──時は再び現代。

 アザラシ型SEとの壮絶な戦闘から、既に二週間が経過していた。

 あれ以来、三国のレーダーはなんの反応も示さず、平穏な日々が続いていく。

 基本的にすることが無い筋肉防衛軍一堂は、1日の殆どをトレーニングに費やし、ただでさえガチムチで婦女子が引きそうな肉体を、更に追い込んでいくのだった。

「セイッ!」

 静まりかえった道場に、響き渡る金平の気合い。

 グレーのつなぎ姿。

 同じくグレーのつなぎを着たチャックの右腕を引き、半回転しながら懐に背中から飛び込む。

 そうかと思えば、また元の位置まで戻り……。

 身長180センチの体躯からは想像もつかない素早い身のこなしで、同じ動作を繰り返す。

 金平の額からは幾筋も汗が流れ落ち、長時間同じ動作を繰り返していることが伺い知れる。

 道場の壁面には、以前には無かった横長の額縁が掲げられ、流麗な筆致で<私闘厳禁!>と書かれていた。

 書面の隅に記された落款(らっかん)には<鬼瓦剛>に続いて、巨大なハートマークが筆で書き込まれており、書いた人間のおぞましき人となりを如実に物語っている。

「カナダイラさ〜ん、スバラしいキレのある動きデ〜ス」

 練習役を買ってでたチャックも、金平の研ぎ澄まされていく動きと、ひたむきな気持ちに感銘を受けたようだった。

 チャックの顔面には包帯がぐるぐる巻きになっていて、殆ど表情を確認することはできない。

 目と口だけが辛うじて包帯の隙間から姿を覗かせていた。

 チャックがコンビニにおでんを買いに行った際、その異様な姿を見た幼児二人が泣き出したらしい。

 ふと、ロッカールームからパタパタと足音が近づいてくる。

 鋼鉄製の扉の隙間から、ソフィが色の白い小さな顔を覗かせた。

「金ちゃん金ちゃん!ヤバイよヤバイよ!」

「あん?どうした?出川の真似か?」

「お〜う!デガワ、ワタシ大好きデ〜ス」

 噛み合わない会話を余所(よそ)に、ソフィが続けた。

「違うって、新入社員!新入社員が来たんだよ!」

 汗を拭こうと、畳に置いたタオルを掴もうとした金平が、体を屈ませたまま固まった。

「し、新入社員!?」


◆◆


 社長室前。

 今まさに、社長室において新入社員の面接が行われているというソフィの情報を元に、金平、チャック、ソフィの三人が、社長室のドアに耳を押しあて、文字どおり聞き耳を立てていた。

「ちょっと金ちゃん、もうちょっとスペース開けてよ」

「チャック、もうちょい上行け」

「オ〜ウ、何もキコエマセ〜ン」

 三者三様、小声でぶつぶつ呟いていると。

「おわっ!」

「キャッ?」

「ンガッ!?」

 なんの前触れもなく、唐突にドアが開いた。

「ちょっとあんた達、何してんのよ」

 もつれ合いながら転がって、部屋に雪崩こんだ三人を見下ろし、社長が冷ややかに言い放つ。

「あたたっ……いや、社長、これは」

 金平が口籠もる。

「……まぁいいわ、ちょうど面接も終わったとこだし。紹介するわね、新入社員の木下大河ちゃんよ」

 自らの斜め後ろに立つ青年を紹介した。

 身長は金平より若干低いだろうか。

 細身で、ともすれば華奢に見える体型。茶髪の前髪をアシンメトリーにして、若干右目の上を覆い、長めにしていた。

 ピチッとしたライダースジャケットを違和感無く着こなし、足元には長めのブーツ。

 耳には銀色に輝く小振りのピアス。

 女性的な顔立ちで、あたかもアイドル的な雰囲気を漂わせていた。

「この子は元美容師で、仕事を辞めたばかりなの。で、旧知の間柄の増山ちゃんのツテでうちに来たわけ。25歳で、剣道四段の腕前らしいわよ」

「始めまして、木下大河です。よろしくお願いします」

 にこりと微笑んだ色の白い顔は、男も一瞬見入ってしまう程の妖しい色気を放つ。

 しかし、どこか儚げな、もの悲しい気配が表情に見え隠れもした。

「あっ……こんちわ」

「は、初めまして」

「ウェルカ〜ム♪」

 金平から順に挨拶を交わす。

 木下と呼ばれた青年は、屈託の無い少年の笑顔を浮かべた。

「ソフィ、大河ちゃんを部屋に案内してやって」

 社長が口元に怪しい笑みを浮かべながら、木下とソフィへ交互に視線を送る。

「えっ、あ、はい」

 少し頬を赤らめると、大河をチラりと視界に入れて、ぎこちない動きで部屋を出るソフィ。

 木下も、大きめのカバンを肩に担ぐと、音も無く洗練された足取りで部屋から出て行く。

 木下がつけていると(おぼ)しい女物の香水。その優しい残り香が二人の背後に漂い、部屋の空気を微かに彩った。

「チャック、ウエイトやろうぜ!」

 複雑な心境の金平は、眉間に皺を寄せたまま不機嫌さを顕わにし、ドカドカと社長室を後にする。

「オ〜ウ、カナダイラさ〜ん、待ってクダサ〜イ」

 慌ててあとを追うチャック。

 部屋に残った社長は、一人不敵な笑みをこぼす。

「ンッフッフ……金ちゃんはあたしの物……ソフィ、あんたは大河ちゃんと楽しく遊んでなさい……ンッフ♪」

 不敵かつ不気味な笑みはそのままに、ソファーに深く腰を沈め、リモコンでテレビの電源を入れると、先日購入した<全日本、ボディービル選手権大会>の模様を収録したDVDを再生し、血走った目で食い入るように見始めた……。

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