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こちら筋肉防衛軍。  作者: マッスルハッスル。
第②マッスル◆追憶の空◆
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心模様!!

「二人とも、試合うって……どーして?」

 表情を強ばらせた美空が、中に入っている金魚を忘れたのか、汗をかいた袋を乱雑に振った。

 時折、眼下から吹き抜ける風が浴衣の裾を揺らす。

 ざわざわと騒ぎ立てる草むらが、黙りこくって対峙する少年二人を笑っていた。

「ねぇ!練習なら明日道場でやればいいでしょ!」

「練習じゃねぇんだよ!司が言ったこと、聞こえなかったのか?」

 増山が苛立った表情を浮かべながら、肩を震わす。

 その声に、怯えたうさぎのように体をすくませる美空。

 そんな美空を、司が無言で見つめる。

 眉間に寄せた皺と、憂いを帯びた瞳。

『もう、曖昧な関係ではいられないよ』

 ……美空の目にはそんな風に映った。

 二人の真意を知った美空は、少しうつむくと、司と増山が今まで見たことも無い、悲しみに満ちた表情を浮かべる。

「どうして?今まで通りでいいじゃん……」

 美空の発した言葉は、司と増山の胸を切ないほど締め付けていく。

「お前がそんなだから、俺達は……」

 増山が、苛立ちと悲しみを織り交ぜた複雑な表情を作る。

「増山、始めよう」

 美空に一瞥をくれると、冷たく言い放つ。

 瞳に涙を浮かべた美空は、口を噤み悲壮な表情を浮かべた。

 増山が、ガチャピンのお面を投げてから、シャツを無造作に脱ぎ捨てる。

 司は胸元のボタンを一つ外す。

 無言のまま近づくと、お互いの右手の甲を合わせた。

 そのまま静かに腰を沈め、脚を後ろに引く。

 その動きは鏡合わせに見えた。

 野獣を彷彿とさせる猛々しい殺気を顕にする増山。

 対して司の表情は、湖面の水面(みなも)さながらに冷静さを漂わす。

 ピタリと風が止む。

 刹那。

 跳ね上がる増山のハイキックが、司の頭部を襲った。

 風を切り裂く轟音が、草むらに響き渡る。

 だが、蹴りだすモーションを開始した瞬間、司も動きだしていた。

 残像を引きながら、回転と同時に腰を沈め、そのまま自らの右足を滑らせ、増山の軸足を薙ぎ払う。ハイキックを避けられた増山は、軸足の左足を後ろ向きに跳ね上げ、独楽(こま)のごとく回転すると、屈んだ司の後頭部めがけて踵落としを繰り出す。

 司の足払いに対して、攻防一致の反応だった。だが、一瞬背中を見せた増山の隙を、司は見逃さなかった。

 拳を強く握ると、屈んだ状態から一気に立ち上がり正拳突きを放つ。

「ガハッ」

 鈍い音と同時に、増山の呼吸が途切れた。

「ヒッ!」

 顔を引きつらせ、口を覆う美空。顔面を蒼白にしていく。

 草むらに転げ落ちた増山は、顔を歪めながら両手をついた。

「ってぇ……」

 うつ伏せの状態から起き上がろうとした瞬間。

 異様な殺気を感じとった増山は、腕立ての動きで両手を突き出すと、1メートルほど飛び退く。

 蹴り飛ばされた草が散り、舞った。

 紙一重の差で、増山がほんの一瞬前までいた空間に、跳躍した司が膝を打ち込む。

「危ねっ!」

 危うく頭蓋を砕かれるところだった。

「容赦ねぇなぁ……」

 表情を消して立ち上がるが、動揺は隠せない。

 親友たる司の、一切の容赦無い非情な攻撃に、心に冷たい物が走っていた。

 正拳を叩きこまれた背中をさすってみるが、回転していたせいか直撃は免れたようだった。

 痛みはあるが、どうということはない。そう自分に言い聞かせるが、内心とてつもない恐怖を感じずにはいられない。

 互いの実力を知り尽くしているからこそ、真剣勝負は文字通り、己の四肢を<真剣>に変える命のやり取りだと気付く。

「野郎、ぜってー負けねー!!」

 ちらりと美空に視線を送ると、半身の構えを整えて一気に駆け出した。

 一瞬で司との距離を詰めると、右肘から斜めに弧を描き、攻撃を放つ。

 修練を積んだ空手家の使う肘は、刃物と同等の切れ味を見せる。

 それを知っている司はガードせず、身を避けようと屈む。

「!」

 司が身を沈めた瞬間、半円を描きながら放たれた肘にほんの少し遅れて、増山が右足で飛び上がり、左膝を打ち上げたのだ。

 右肘から左膝のコンビネーション。 膝が司の側頭部に叩きこまれたかに見えた……が、両手を重ね、寸でで受け止めている。

 表情を強ばらせ、口を真一文字にして震える美空。

 司が受け止めた膝を跳ね退けて、瞬時に立ち上がり後方へ飛び跳ねた。

 2メートル程置いて、再び対峙する両者。

 一進一退の攻防だった。

「相変わらずやるじゃねぇか」

 口元を歪ませ、上目遣いに増山が呟く。

 一歩間違えれば命のやり取りをしているはずなのに、どこか楽しんでいる。

 冷ややかに口を噤む司。

「……」

 炎と氷。そんな対照的な二人。

「仕方ねぇ……取っておきを見せてやるよ」

 増山が初めて口元に笑みを浮かべた。

 ピクリとこめかみを震わす司。

 増山から、異様な殺気を感じとっていた。

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