決着!!
ソフィが白い顔を引き攣らせながら目を背けようしたその時。
「ウォーッッ!!」
社長の頭部に振り下ろされたアザラシの両拳を、砂塵を巻き上げて駆けつけた金平が受けとめた。
全神経と力を両手両腕に集中する。
「き、金ちゃん......」
呼吸困難に陥り、蒼白な顔の社長が呻く。その声を背に、人ならざる凄まじい力が金平の上腕筋をギリギリとしならせた。
「お、重てぇっ!社長、今のうちに!」
歯を食いしばり、顔を下に向けながら視線を後ろの社長に送る。
社長が鳩尾に手を当てたまま、もう片方の手を地に突き、投げ出した足を蹴り出して後方に退く。
「んの野郎ぉ!」
圧倒的なアザラシの力。押し潰されそうになりながら片膝をつき、肩の三角筋がガクガクと震えだした。
その刹那、金平の胸中に爆発的な闘志が沸き起こる。
大きめな二重の瞳を見開き、虚空を見つめた。
膝立ちの状態から下半身の筋肉に鞭打って立ちあがり、その勢いのまま常人の目では追い付けない速度で左に半回転する。
足元の土が半円を描きえぐれ、電光石火で背中を向けた。そのままアザラシの腹に自らの体を潜り込ませ、掴んでいたアザラシの両拳を左手だけで斜め下に向け、渾身の力を込め引っ張る。
前屈みにグラつくアザラシ。
体が崩れた瞬間。
アザラシの腕の付け根に目がけて、L字型にした自らの右腕の肘関節、その内側を叩きこむ。
全体重をかけ左手を引き、竜巻のごとくさらなる回転を巻き起こし、前のめりに引き込んだ。
脚力を全力で解放。
屈んでいた脚が伸びきって爆発的な力を生む。
見えない力で脚ヒレを吊り上げられたのかと錯覚する程の速度で、アザラシの体が一瞬で上下逆さまになり、脳天から地面に落ちていく。
「ッォラー!!」
地面に頭から落下したアザラシの上に、全体重をかけて背中からのしかかった。グキリという鈍い音と共に、アザラシの首が異様な角度に折れ曲がる。
「ギュッ......」
口の脇から舌を出し、目を見開いて悶絶するSE。
現役時代、金平がもっとも得意とした『一本背負い』である。
通常、背負い投げは相手の袖口と襟首を掴んで事を成すが、一本背負いは相手の袖口を掴み、引き寄せ、そこから相手の脇の下に自らの腕を挟み上げるようにして投げる。
道着の襟首を掴まず、モーションも少ない。それゆえに、一瞬の相手の隙を突かなければ決めることは叶わない。
ガクガクと震えだすアザラシ。
覆いかぶさっていた金平が転がりながら距離をとった。辺りを見渡すと、社長は前屈みに地面へ突っ伏し、ソフィも打ち上げられた人魚さながらに見える。
チャックも力尽き、離れた場所で大の字になっていた。
次の瞬間、虫の息だったアザラシが最後の力を振り絞り脚ヒレを跳ね上げると、金平の顔面を叩き潰すように振り下ろす。
「わっ!?」
完全に油断していた。咄嗟に起き上がり、前転して受け身をとる。
コンマ何秒と置かず、金平のいた場所に脚ヒレが叩きつけられた。
地面が轟音を響かせ陥没する。
「しつけーな!んの野郎!」
金平は俊敏に起き上がると、アザラシの両肩に刺さったままの黒光丸・Sサイズを二本とも抜きさり、なんのためらいもせず、アザラシの頭部に渾身の力を込めて突き立てた。
それぞれの黒光丸が淡く輝きを放つ。
「ギュギューッ!!」
根元まで深々と刺さった両刀が、アザラシ型SEに引導を渡した。
ビクビクと激しく痙攣すると、急激に虹色の光彩が収まり、最後は闇夜に霧散していく。
「ふぅ......」
アザラシの攻撃をしのいだ腕にダルさを感じ、だらりと力を抜くと両膝を着いて息を吐いた。




