ジュラルミンケース!!
「社長、彼の筋肉は服の上からでも十分わかりますよ」
増山のバリトンボイスが部屋に響く。
「……それもそうね」
眉間に刻まれた深い皺が無くなり、最初のおちゃらけた表情に戻る社長。
そんなやりとりをしていると、金平が握りかけていたドアノブが回り、おもむろにドアが開いた。
「失礼します。社長、例の試作品が完成したのでお持ちしました」
年の頃は40代だろうか、中肉中背のスーツ姿、メガネに髪形は七三。
昭和のサラリーマンを連想させる男が入ってきた。手にはやたらに長いジュラルミンケースを持っている。
「あらぁ、三国ちゃん早かったわねぇ」
両腕を目の前で合わせながら小踊りする社長。
タンクトップ越しに見え隠れする胸筋がムチムチと揺れた。よほどそのジュラルミンケースの中身が嬉しいのだろうか。
「三国ちゃん、紹介するわ、新入社員の金ちゃんよ」
三国と呼ばれた男は、深々と90度近くこうべを垂れると、仰々しく挨拶した。
「三国といいます、どうかよろしくお願いします」
人の良い金平もつられて挨拶する。
「こちらこそよろしくお願いします」
そんな挨拶を交わしあう三国と金平を尻目に、社長が増山に視線を送った。
「増山ちゃん、金ちゃんを部屋に案内してあげて。さっ、三国ちゃん、見せてもらおうかしら」
社長の興味はすでに、金平からジュラルミンケースへと移っている。
いそいそとせわしなくケースを社長の前へ運ぶ三国。
「さ、金平君、部屋に案内するよ」
口元に笑みを浮かべ、増山が分厚い手のひらを金平の肩に置いた。
「いや、その」
完全に帰る機会を逸した金平だったが、社長室を出る頃には、ジュラルミンケースの中身がなんなのか、そればかりが気になっていた。