面接!!
男の誘うままに、金平は黒塗りの四駆・ハマーの助手席に座っていた。
米軍仕様な黒光りする車体が、軍人的な風貌のこの男には不気味な程似合っていた。
車中で軽く自己紹介を交わす。
名前と前歴を聞くと、金平の過去を知ってか知らずか特に興味も無いような音を出す男。
増山と名乗ったその男は、引っ越しセンターの主任をしているとか。
なぜ職安の前をうろついていたかといえば、募集をかけるより、直接目にした体格のいい男性をスカウトするためだと言う。
金平も手っ取り早く金になる仕事をしたかったので、なりふり構っていられない状況だった。預金の残高は悲壮な桁数を表示し、家に納める金も無い。
実家を追い出されるのも時間の問題だった。
増山の言うままに、とりあえず引っ越しセンターの事務所で社長の面接を受けることを承諾する。
自らの行動が常軌を逸しているとは思いつつも、成り行きに身を任せた。
どうせ家に帰っても、部屋に籠ってワイドショーを見るぐらいしかする事が無い。
次第に車の窓から見える景色の街並みが閑散としてくる。
町の外れの工業地帯の一角に、車は停車した。
「さぁ、金平君、降りてくれ」
にんまりと笑う増山。
「は、はぁ……」
無造作にオールバックにした髪型が、これ程似合う男もなかなかいないなと思いながらも、金平は気の無い返事をする。
ふと辺りを見回すと、やたらに広い埋め立て地の真ん中に、打ちっぱなしのコンクリート造りのビルが建っていた。
見上げた金平の目に飛びこんだのは、掲げられた会社の看板。
「マッスル引っ越しセンター……」
増山から受け取った名刺にも書いてあったが、改めてでかい看板に書かれたその文字を見ると、インパクト大だ。
「さぁ、入って入って」
増山に促されるままガラスの扉を押す。薄暗い通路の突き当たりが社長室らしい。外観と同じく、コンクリートの打ちっぱなしの通路には、どこぞの団地的にドアが等間隔に並んでいた。
最深部の一際大きなドアを、増山がノックする。
「社長、面接お願いします」
その言葉と同時に、増山と金平が部屋に入ると、そこにはこれまた巨躯の男が。
お世辞にも趣味が良いとは言えない紫色の壁紙に覆われた広い室内。巨大なローテーブルの下には、虎の毛皮が敷かれ、そこには数個のダンベルが無造作に転がっていた。
「あら、いらっしゃい」
社長と呼ばれた男は、およそ社長と呼ぶには相応しくない風貌をしていた。
スキンヘッド。
口の周りを囲む髭。
そして何よりその服装に問題があった。
増山がつなぎを着ているのはいかにも引っ越しセンター的格好なのだが、社長はなぜか純白のタンクトップに短パンなのだ。
今時NHKの体操のお兄さんですらこんな格好はしていない。
しかも、そのタンクトップの下には、隆々としたはち切れんばかりの筋肉が。
およそ普通の鍛え方をした身体ではない。
「あら〜、増山ちゃん、いい子見つけてきたじゃない」
社長の野太い声。その口調は、あきらかにあっち系の人だった。
「はい、久しぶりの逸材かと」
おかしなやりとりを聞いていると、金平の脳裏には一刻も早くこの場から逃げ出す算段が巡りだす。
ふと部屋の壁面に目をやると、若き日のシ◯ベスター・スタローンのポスターが貼られているではないか。
全盛期の鍛え上げられた肉体が、燦然と輝きを放っていた。
──金平は足の速さに自信がある。この建物からなら、15秒もかからず脱出出来るだろう。
「あの……俺」
言いかける金平だったが──。
「とりあえず、脱いでみてちょうだい」
社長が人差し指と親指で髭をいじりながら、食い入るように金平を見つめている。
『あかん……いよいよまずい事になってきた』
金平が振り向き、社長室のドアノブに手をかけようとした瞬間。
「社長、彼はあのゴールドメダリストの金平君ですよ」
唐突に増山が社長に説明し始めた。
「あら、どこかで見たイケメンかと思いきや……そう」
社長の金平を見る視線が、より一層熱を帯びる。
それはまるで、猛禽類が草食動物を捕食する瞬間のような気配だ。
若干白目を剥き、小刻みに震える瞳。依頼主と対面した時のゴ○ゴ13みたいな鬼気迫る眼差しが、金平の脳内にけたたましい警鐘を打ち鳴らし始める。
その迫力たるや、金平が現役時代に戦った外人選手達を、色んな意味で完全に凌駕していた。
増山という男といい、この社長といい、普通ではない。
『まずい……非常にまずい状況だ……』
金平は、キ●タマが縮み上がる程の底知れぬ恐怖を感じ始めていた。