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こちら筋肉防衛軍。  作者: マッスルハッスル。
第⑥マッスル◆最終戦争!!◆
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容赦無し!!

 金平がスコーピオンと死闘を繰り広げていた最中、地下一階に降り立った社長が、一人倒れている木下の元へ駆け寄った。

「大河ちゃん!大丈夫!?」

「……うっ……社長」

 瞳をゆっくり開けると、穏やかな笑顔を浮かべる木下。鎖骨と心臓の間に突き立てられた刀傷、そこから流れていた血は止まっていた。葵裕樹が放った一撃は、大胸筋の上部を貫いてはいたが、木下の心臓には傷をつけてはいない。

 木下が最後の力を込めて放出した筋電力で、脚にかかった爆発的力が床を陥没させた。その結果、木下の立ち位置を下方へ落としたことにより、葵裕樹の放った突きの位置がズレていた。

「……僕は、まだ生きてるんですね……」

 各部位に装着した武具は、木下の全身の筋力を一時的に肥大させていた。その効果は絶大で、気を失った後でさえ、暫くの間持続していた。その結果、葵裕樹から受けた刀傷を塞ぎ、出血を抑える効果を発揮したのだ。

「大丈夫よ!しっかりしなさい!胸の辺りに怪我してるけど、血は止まってるわ」

 葵裕樹がその気になれば、倒れた木下の首を刎ねるのは容易い。

『負けた……』

 敗北感が胸を貫く。瞳を閉じると、しばし何事か思案に耽り、口を開いた。

「社長、僕を増山さんのいる場所へ連れてって下さい」

「大河ちゃん」

 葵裕樹が司の加勢に行ったことは想像に難くない。最早自分にはなんの力も無いが、全てを見届けたかった。

「そうね、一緒に行きましょう。私達には見届ける権利があるから」

 社長はそう言うと、木下のつなぎを破り、胸の傷口を縛った。動き出せば傷口が再度開き、出血するのは目に見えている。応急手当てを終えると、傷口とは逆の胸から手を回し、肩を貸す。

 頼りない木下の足取りを支え、二人はエレベーターへ向かった。


◆◆


 ──最上階。窓に打ち付ける雨の勢いは更に増し、外の景色を見ることは叶わない程だ。

 対峙するふたりの男。

 かつて鬼道空手の“虎”と畏怖された増山。そして、同門で技を競い合い、最高の好敵手(ライバル)であった鬼道空手の“龍”三国司。

 二人は20年前、美空をかけて真剣勝負を行った。それは青春の青さのみに心を奪われた、幼い二人の過ちだったのかもしれない。

 だが、再び二人は雌雄を決する。

 一人は失った女を闇の中から救い出すため。

 一人は失った過去を受け入れ、狂おしい思い出の中に生き続ける男を目覚めさせるため。

 サテン素材のベスト越しにも、司の鍛え上げられた肉体は確認出来る。

 つなぎを脱ぎ捨てる増山。

 マウンテンゴリラ型SE、ライオン型獣人SEとの戦いを経て、芹沢から負った傷は完全に回復していた。時折カメラのフラッシュに似た雷の光が増山の体を照らし、その屈強な肉体を照らし出す。 腰を落とし、右足を後方へ引いた。対する司は歩幅を小さくとり、若干斜めに開いた体勢は空手の構えとは違って見えた。

 軽く体重を乗せた左足が、爪先だけ床に触れ、踵はほんの少し浮かせている。両腕は軽く曲げ、左右の掌を壁に押し付けるように立てながら、前面に押し出す。

「あの怪しい薬は使わないのか?」

「……俺たちの戦いに、あんな無粋な物は必要無いだろ?」

 増山の問いに、司はほくそ笑む。絶対の自信に裏付けされた余裕が垣間見えた。

「そうか。いいだろう」

 表情は変えず、増山も自らが装着する武具の力を使わないと心に決める。

 互いの間に漂う、言い様の無い緊張感。

 司はジリジリと間合いを詰め始め、増山もそれに呼応する。

 瞬間、窓の外、至近距離に巨大な稲光が駆けた。

 蒼白い閃光に浮かび上がる両者。沈黙を破り、床を力強く蹴り出したのは増山だった。

「はぁっ!!」

 跳躍した増山が飛び蹴りを放つ。司の喉元目掛け、鋭利な軌道を描く。

 その動きになんら動じる事の無い気配の司が、静かに右手を突き出した。

「にぃっ!?」

 その掌に、突如虹色の光彩が立ち昇った。増山の蹴りを僅かに体を反らし躱すと、がら空きになった胴目掛け、司は掌低を叩き込む。その動きの全てにSEウイルスの能力が発現し、残像を引く程の速さを見せた。

「ガハッ!」

 至近距離から爆発的な掌打を叩きこまれた増山は、あっけなく吹き飛ばされた。

 一瞬呼吸が止まる。床に転げ落ち、全身を打ち付けながら止まった。

「つ、司……てめぇ……」

 苦悶の表情で歯を剥く増山を、穏やかに微笑みを浮かべる司が見つめた。

「増山。お前はお人好しだよ。そんなところまで昔と何も変わっていない。覚えてるだろ?負けられない勝負の時、俺は一切の容赦はしないって」

 今度は司が凄まじい跳躍を見せた。軽々と飛び上がると、増山の顔面目掛け膝を落とす。

「くっ!」

 咄嗟に体を回転させ、その場から飛び退く増山。大理石の床に虹色の輝きを放つ膝が叩きこまれ、巨大な穴が穿たれた。

 易々と砕け散る石片が、飛び退く増山に降り注ぐ。

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