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こちら筋肉防衛軍。  作者: マッスルハッスル。
第⑥マッスル◆最終戦争!!◆
144/151

魂の帰る場所!!

「うっ……金ちゃん?」

 薄っすらと瞳を開けたソフィが、ゆっくりとその身を起こす。頭を押し付けていた右腕の関節が多少痛む程度で、スコーピオンに打ち抜かれた鳩尾(みぞおち)に痛みは無い。

 その視線の先の金平の額と頬には、ナイフで切りつけられたような赤いラインが入っていた。

「金ちゃん!!」

 声を張り上げる。だが、組み合う二人を中心に放出する黄金色と虹色の輝きが、その声を掻き消し、ソフィの眼前を覆う。

「うおおっ!!」

 踏ん張る金平の足下の床が割れ、陥没する。まるで手で掴んでいるのと同等に、スコーピオンの足をきつく捉えた金平の足指。

 一瞬で巨体を跳ね上げた。轟音を伴って、スコーピオンの巨体が虹色の半円を描きながら床に叩きつけられる。床が粉々に砕け、噴煙を伴って周囲に飛散した。

 金平が死中に活を見出だした投げ技。

 “山嵐”。


 ──かつて、天才柔道家の名を欲しいままにした男がいた。

 講道館四天王の一人と謳われた、西郷四郎。彼が必殺の奥義として用いたのが山嵐。

 「タコ足」と呼ばれる、持って産まれた柔軟な足指の関節が、敵の足を掴んで離さなかった。一度技にかかれば、逃れることは叶わなかったという。

 床に埋もれ、後頭部から背中を強打したスコーピオンは微動だに出来ない。

 次第に虹色の光が消え失せ、隆起した体もスーツ越しに分かる程収縮している。そのスーツも無惨に引き裂かれ、見る影も無い。ささくれた板に血が滴り、スコーピオンの体の背面が無惨に潰れている事が伺えた。

 絶倫ビキニの想像を絶する力と金平の力が融合され、驚異的な破壊力を生み出していた。

「……見事です。速すぎて、なんの反抗も出来なかった」

 鼻と口から血を吹き出し、虚ろな表情を浮かべるスコーピオンだったが、どこか満ち足りて見えた。

 その場で両膝を突いた金平も、憔悴した表情で荒い息をつきながら、上下させる幅の広い肩。金平もまた、絶倫ビキニを限界まで使用し、そのリバウンドに体を蝕まれていた。全身の筋肉が痙攣を起こし、身動きが取れない。

 山嵐を躱されていたら、次にスコーピオンが放つ技に対抗する余力は無かっただろう。

「これ以上SEウイルスの力に頼れば、私が私で無くなる……力に取り込まれ無惨に死ぬか、あなた達が戦ったSEと同じ獣になり果てたでしょう」

「もう喋べるな。苦しみが増すだけだ」 

 スコーピオンの言葉を制しながら瞳を閉じ、うなだれる金平が呟く。

「……妻と子供が、待っています……旅先のハワイで。買い物の続きを……一緒……に──」

 焦点の合わない瞳が天井を見つめ、そこに過去の記憶が走馬灯のように巡り、今は亡き愛する妻と、子供の姿が見えた。

 輝ける未来を予感させるその思い出が、スコーピオンの消え行く魂を優しく導き、虚空へと誘う。

 そして、目を見開いたまま、静かに……事切れた。

 いつも見せていた引き攣るような笑顔は消え、穏やかな、優しい微笑みが浮かぶ。

 この男もまた、葵裕樹同様、理不尽に妻子を奪われていた。

 その姿を見た金平の瞳に涙が溢れ出す。

 金平にとって、なんの因果か強敵(ライバル)となった目の前の男に、不思議な程の友情を感じていた。

 そして、自らの考える善悪を越えた何かが、胸を貫く痛みを伴って自問自答させた。

『誰かのために戦うことは正義なのか悪なのか?それが失われた大切な人だとしても……俺には分からない』

 ふと、視線を感じ、弱々しく首を振る。

『ただ、今は……素直に喜んでもいいよな?……チャック』

 清々しい笑顔を浮かべた金平の視界に、ぼんやりと映る姿。両目いっぱいに涙を浮かべながら、自らの元へ駆け寄るソフィの美しい笑顔を見つめ、心の中で囁く金平だった。

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