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こちら筋肉防衛軍。  作者: マッスルハッスル。
第⑤マッスル◆全てを白日の下へ!!◆
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夢物語!!

 大企業の本社ビル地下にあった怪しげな研究施設。

 そして、社長である三国司の口から語られた、とても現実とは思えない話の数々。

 だが、三国司から渡された犯罪者のファイルや、巨費を投じられたとおぼしき研究設備、その施設に従事する多数の研究者達。

 司の話と、それを現実にしようとする圧倒的な権力と財力。

 全てを目の当たりにして、葵裕樹は次第に司のやろうとしていることを理解し始める。

『あの男はただ好きな女にもう一度逢いたいだけではない。この世界に、大切な人を失う悲しみをこれ以上増やしたくないのだろう』

 ただの夢物語なのかもしれない。

 だが、それは数週間後に行われるという実験を見れば全てが明らかになるはずだ。

 それまで、三国司の言葉に乗ってみるのも悪くないのではないか。

 妻子を失って以来、酒浸りの毎日を送り何度も自殺を考えた。

「どうせ無いものと同じ命」

 司の進言通り、三国重工本社ビルに完備されているトレーニングジムに通い始めた葵裕樹。

 早朝から夕方まで、狂ったように自らの体を鍛え直す。食事は社員食堂の物を無償で提供され、個室まで与えられた。


 ある日、トレーニングを終えた葵裕樹は、シャワーを浴び部屋に戻ろうとしていた。通りしな、前から気になっていた道場らしき部屋の前で足を止める。

「!!」

 ふと見ると、広い床敷の道場の中央に、二人の男が向かい合っていた。

 一人はスコーピオン。

 褐色の肌とは対照的に、真っ新な空手着を身に纏い、その長身から相手を見下ろしている。

 相対しているのは三国司。

 同じく空手着姿で、半身の構えをとっていた。遠目からでも分かる涼しげな男振りが、妖しげな色気を漂わす。

 微動だにしない両者から、異様な程の殺気が漂い、道場の空気が重く張り詰めていた。その緊張感に、葵裕樹は首にかけたタオルで汗を拭う手を止めた。

 息を殺しながら、対峙する二人を凝視する。

 スコーピオンが無防備な構えから、右上段回し蹴りを放つ。

 司は反応出来ないのか、スコーピオンの長い脚が鞭のようにしなりながら顔面目掛け襲いかかった。

 次の瞬間、司が電光石火の速さで身を屈め、右肘を突き出し、音も立てない流麗な足捌きで前進した。

 裡門頂肘りもんちょうちゅう。寸分違わず正確に、スコーピオンの鳩尾みぞおちを狙う。だが、蹴りを躱されたスコーピオンは、不安定な姿勢から左ストレートを放っていた。長い腕から繰り出される拳が、暗雲を横断する稲妻さながらの軌跡を描く。

 司の裡門頂肘より遅れて放ったが、僅かにスコーピオンの拳が速い。

 だが──。

「なっ!?」

 思わず葵裕樹は声を上げた。道場中を震わす衝撃と共に、スコーピオンの巨体が宙に舞い上がる。

 一方の司は、肘を繰り出していた体勢から、何故か背中から肩にかけて体当たりする構えを見せていた。

 八極拳奥義・鉄山靠てつざんこう。リーチの短い裡門頂肘は布石で、スコーピオンの左ストレートを誘う罠だった。その拳を躱し、残像を残しながら懐に潜りこむと、カウンターの鉄山靠を決めたのだ。

 衝撃で天井すれすれまで巨体を浮き上がらせたスコーピオンだったが、その体からは想像もつかない身軽さで回転すると、受け身をとった。

 道場中央で、ゆっくりと屈めた腰を伸ばす司の視線はスコーピオンを捉えている。

 対するスコーピオンも静かに立ち上がると、司を見つめた。

 派手な音を立てて吹き飛ばされたが、大したダメージを負っているようには見えない。

「流石ですね司さん」

「いや。咄嗟に体を捌いて後方に飛び退き、鉄山靠の衝撃を拡散させるとはな」

 ほくそ笑む司が、腕を組みながら視線を道場入り口へ向ける。葵裕樹は気配を消していたが、司は最初から気付いていたようだ。

「やぁ、見てたのか?」

 先程までの鬼気迫る表情から一転、穏やかな笑顔を浮かべる司を見て困惑する葵裕樹。

「あんた、今のは空手か?どこでそんな武術を?」

「まぁ、色々あってな。どうだ?カッコ良かったか?」

「えっ?」

 あどけない笑顔を浮かべる司に、益々戸惑う葵裕樹だったが、掴みどころのないこの男に、少なからず好感を抱く。

「さて、飯にしよう。スコーピオン、裕樹、一緒に行こう」

 白い歯を見せると、爽やかな声を上げ、道着の袖から両腕を抜き肩に羽織る。細身だが、鋼のごとく引き締められた胸板と腹筋を露にしながら、颯爽と歩き出す。

 世が世なら、一国一城の主になっていたであろう風格がそこにあった。その悠然としたオーラと笑顔につられ、葵裕樹も数ヶ月振りに頬が緩む。

 彫りの深い美形が、穏やかな笑顔を見せた。

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