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こちら筋肉防衛軍。  作者: マッスルハッスル。
第⑤マッスル◆全てを白日の下へ!!◆
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解放!!

「や、止んだ……」

 マローダーの後部座席に身を潜めていた三国が、ゆっくりと頭を上げた。センサーから鳴り響いた警告音は止まり、静寂に満ちている車内。聞こえていた悲鳴や怒号、発砲音も、先程までが嘘のように消えた。

「ひっ!!」

 三国のスーツのポケットに入っていたスマホが、突然鳴り始めた。

「は、はい」

『三国ちゃん?あんたそのまま大河ちゃんが入院している大学付属病院に向かいなさい』

 電話の主は社長だった。

「いったい何があったんですか?さっき突然強力なSEの反応が……」

『話は後でするから』

「は、はい。分かりました」

 何が何やら分からないまま電話は切れた。

「いったいなんなんだ?」

 目を見開き、青ざめる三国だった。


◆◆


 筋肉防衛軍一堂と、葵裕樹、スコーピオン、そして子供達。一見すると奇妙な組み合わせの大所帯は、どこからともなく現れた大型の輸送ヘリに乗り、大学付属病院を目指していた。

 遥か眼下に海岸線が見下ろせる上空。葵裕樹の体からは虹色の光彩が消え、筋量が倍増し、膨れ上がっていた体躯もすっかり元に戻っていた。スーツや頬に染みつき、赤黒く変色した返り血が、凄惨な戦いが行われたことを如実に物語っている。

 白塗りの鞘に納められた和泉守兼定を大切そうに腕に抱え、薄目を開けたまま静かに思案に耽っているように見えた。

 機内後部では、落ち着きを取り戻した子供達と、ソフィ、チャックが賑やかに談笑している。チャックが一人一人の子供の顔を、濡れタオルで順々に拭いてあげていた。

 ソフィが話かけながら、ジュースや菓子パンを配っていた。どれも予め機内に用意されていた物だ。目隠しを外され、虚ろ、もしくは怯えていた子供達の表情も、ソフィとチャックの穏やかな笑顔のせいか少しづつ和らいでいく。

「この子供達はどうなるんだ?」

 相変わらず殺気立った気配を漂わす増山が、スコーピオンに尋ねた。

「恐らく病院で検査なりを受けるんでしょう。その後は分かりません。この類いの仕事は初めてなので」

 葵裕樹の隣で悠然と座っていたスコーピオンが、増山の鋭い視線を放つ両眼から目を反らす。

「恐らくだと?このヘリといい……お前達より上の人間でもいるのか?」

「えぇ、まぁそんなとこです。これから会えますよ。話はその人から聞いて下さい。私は口下手なんで……」

 意味深な言葉と共に、窓の外へ目をやる。

「一つ聞きたいんだけど、あんた達……SEなの?」

 押し黙っていた社長が沈黙を破った。その言葉に、薄く開けた瞳を視線だけズラす葵裕樹。

「……一時的にそうなったが、普段は違う……そんなところだ」

「何よそれ」

 理解出来ないといった様子で眉を引きつらせる社長。

 そんなやりとりをぼんやりと聞きながら、金平は物憂げな表情で窓に顔を押し付けている。目の前で起きた事象をどう理解していいのか、悩むのにも疲れた様子だ。ヘリが到着した先で、全てを明らかにすると言うスコーピオンの言葉を信じる以外無い。自身にそう言い聞かせ、思考を止めていた。

 雲間から見える景色が、次第に町並みへと変わっていく。中心地に近づくにつれ、ビルの群れが高くなり、高度が下がると、雑多な町の景色が目に飛び込む。

 金平達が飲み歩いた歓楽街。

 増山がかつて司と戦った神社の裏。

 チャックが姉と暮らした古びた貸家。

 それぞれの瞳が機上から探し、見つけた懐かしい場所が、胸に様々な記憶を呼び起こし、目的地である病院の屋上へとヘリは近づく。

 広い屋上スペースには、円で囲まれたHのマークが印されていた。その周辺に、医師と数名の看護婦の姿が見える。ヘリが旋回しながら、何度か不安定に高度を下げる感覚が一堂の下腹部を襲うと、その度に子供達から歓声が上がった。

 ゆっくりと着地する輸送ヘリ。それと同時にローターの旋回が止まり、巻き上げていた風が収まる。それを待っていたかのように、大きなドアがスライドして、看護婦と医師が乗り込む。

「あっ……」

 増山が声を上げる。医師が幾度となく自身を担当した男だったからだ。

「……その後どうだね?無理してないか?」

 訳知り顔で、どこか寂しそうな表情をしていた。

「ええっ……お陰様で」

 その増山の言葉に笑顔を見せると、子供達の手を引き、ヘリを降りて行く。

「おじさんまた会える?」

 チャックに懐いていた少年が、去り際に尋ねた。タオルでは落としきれない程の垢にまみれ、黒く汚れた顔が、真剣な表情を作っていた。

「オ~ウ、マタ遊びマショ~ウ」

 優しく微笑みながら、少年の頭を巨大な掌が撫でる。少年は心地良さそうに満面の笑みを浮かべると、並びの良い白い歯を見せた。

 去り行く幼い背中を捻りチャックを見つめると、小さな手と大きな手が、別れを惜しむかのごとく左右に世話しなく振られる。幾ばくの時間も必要とせず、全ての子供達がエレベーターのある入り口へ消えて行った。

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