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こちら筋肉防衛軍。  作者: マッスルハッスル。
第⑤マッスル◆全てを白日の下へ!!◆
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嫌悪感!!

「随分と物々しい雰囲気ですね」

 ベージュのスエード素材のキャップを目深に被ったスコーピオンが、ゆっくりと筋肉防衛軍メンバーを見渡す。相変わらず口の端を歪めていた。

「来てやったぜ。さぁ、話してもらおうか」

 金平が声を押し殺し、言葉を吐く。

「ええっ……まずはこちらへ」

 巨体を翻すと、目の前にある二階建ての事務所へ歩みを進める。潮風に長年(さら)されたせいなのか、階段の剥き出しになった鉄骨部分が赤茶けた錆を露にしていた。途中の踊り場には腐食のせいか、所々小さな穴が空いていて、チャックが歩くと踏み抜けそうな気配すらある。恐らく長年使われずに放置された事務所なのだろう。

 階段を昇りきった先に見えるサッシの入り口脇には、以前は掲げていたであろう看板を剥がした跡が、周囲の日焼けしたモルタルの壁面と違う色を見せていた。

 事務所の中はがらんとしていて何もなく、ガラス窓から射し込む朝の光だけが、部屋の中心を照らし出している。

 全員が室内に入りきると、幾分狭く感じられた。

「どういことだ?説明してくれ」

 スコーピオンの両眼に見入る増山。その全身から漂う緊張感が、殺気を必死で押さえつけていることを容易に伺わせた。

「怖いですねぇ。鬼道空手の虎と謳われた増山さん」

 ほくそ笑むと、長い腕を上げ窓辺を指差す。そしてもう片方の腕を顔に近づけ、スーツの袖から覗く質実剛健なデザインのGショックを見つめた。

「そろそろです。皆さん窓際へ移動して下さい。ガラスには外側から見えないように細工してありますから。ただ、あまり大声は出さないで下さい。聞こえると見つかって厄介なことになりますんで」

 まるで旅行のガイドが観光名所を案内するような口振りだった。

「どう言うことだ?」

 金平が不可解そうに顔をしかめる。

「見れば分かります」

 屈託の無い笑みを浮かべるスコーピオンは、リラックスした雰囲気で壁面に背中を預けた。

『こいつ、本当に敵なのか?』

 そんなスコーピオンの表情を見て、金平は疑心暗鬼に陥る。

「いったいなんなのよ?」

 困惑しながらも社長が窓辺に近づく。チャックやソフィもそれに続いた。

 ガラス窓からは、群れを成して立ち並ぶ倉庫と、穏やかに揺らぐ水平線が一望出来た。すぐ眼下に見える広い駐車場。

「来ました」

 窓の切れ目の壁に背をもたれたまま、覗きこむ姿勢のスコーピオンが呟く。増山が腕に目をやり、巻かれたタグホイヤーを確認すると、5時を少し回ったところだった。黒塗りの高級車が数台、列を作って駐車場へ入って来る。その中に、1台の古びたバン、さらに真新しい1BOXが混ざっていた。どの車もスモークフィルムが貼られ、中を伺い知ることは出来ない。

 車両の列が二分され、駐車場の中央にスペースを作り停車した。ドアが開くと、中から体格の良いスーツ姿の男達が現れる。

 スペースを挟んで向かい合う反対側の高級車からは、Tシャツやポロシャツなどのラフな格好をした中国人と思われる男達が、次々に姿を見せた。その中の小太りの男が、最後尾につけていた古びたバンのスライドドアをおもむろに開ける。

「ちょっとなんなのよ……あれ……」

 社長の視線が釘付けになった。

 バンから出て来たのは、まだ年端もいかない子供達だった。蟻塚から出てくるように、ぞろぞろと一列に車を降りる。

 異様な光景だった。全員タオルや布切れで目隠しをされている。

 ある子供は震えていた。またある子供は頬に涙を伝わせている。それらの子供に共通しているのは目隠しだけでは無い。

 薄汚れた服。

 垢だらけの肌。

 まともに食事を摂ってないのであろう、頬は痩け、肉が落ちた手足は細々としている。

 その様子を見て絶句するソフィが、自らの口を両手で塞ぐ。

 小太りの中国人の男が怒鳴り声を上げると、列からはみ出た女の子の髪を鷲掴みにした。

 目を背けたくなる光景だった。

「スコーピオン!てめぇ!なんだこれは!説明しろ!!」

 金平は顔を紅潮させ、怒りを露にする。

「金平さん、静かに……人身売買の現場ですよ。あの子供達はこれから日本の組織に売られ、解体されて使えそうな臓器だけを取られ、あとは焼却処分されるんです。その臓器はさらに欧米諸国へ──」

 言いかけたスコーピオンの顔面目掛け、金平が正拳突きを放つ。右手に装着された撲殺太郎の発する筋電力の輝きが、薄暗い部屋を一瞬照らし出す。スコーピオンはそれを造作も無く片手で受け止めた。

 だが、金平の剛腕から伝わる膂力に、互いの体が小刻みに震えだす。それと共に、スコーピオンも苛烈な表情へと変貌する。

「話は……最後まで聞いてください」

 言い放つと、握りしめた金平の拳をあさっての方向へ反らした。

「もうすぐ彼が現れますから」

 再び穏やかな表情を見せるスコーピオンが、視線の先を金平から窓の外へ移す。

「何?」

 嫌悪感を隠すこと無くスコーピオンを睨み付ける金平だったが、ふと、窓の外に目をやって表情を変えた。

「あれは……」

 金平が視線の先に捉えた人物。

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