共闘!!
「かなり苦戦してましたね」
薄ら笑いを浮かべる浅黒い顔。肩口から背中にかけて、うっすらと筋電力の輝きが立ち昇っている。
“鉄山靠”。
ライオンを吹き飛ばした技。技の発動時、踏みつけた地面が広範囲に渡り陥没し、巨大なクレーターを成していた。
「どういうことだ?」
身を翻し、姿を全面に晒すスコーピオンへ、困惑した表情を見せる金平。2メートルはあろうかという長身に、筋肉防衛軍と同様のビキニ姿。チャックより細身だが、引き締められた体と長い手足が岩壁の如く聳え立ち、人ならざる不気味な気配を醸し出していた。
「話は後にしましょうか。早く決めないとやっかいそうですよ」
巨躯にはアンバランスな程の小顔いっぱいに笑顔を作ると、吹き飛ばされたライオン型SEがうつ伏せに倒れた方向を顎で示す。
つい先日まで、理由も告げず襲って来た男が、肩を並べ加勢する。
不可解以外の何物でもない。
「なんだかさっぱり分かんねーけど、一緒に戦ってくれるってことか?」
視線はライオンへ向けたまま、怪訝な表情を浮かべた金平が歯切れ悪く呟く。
「あいつは……?」
距離を置いた場所で、ようやく立ち上がった増山だったが、謎の男がライオンを吹き飛ばした一部始終を静観していた。
「奴が、スコーピオンか?どうなってる?」
訝しみながらも、自らの体が未だ回復しきっていないことを確かめるため、小刻みに震える手を開いては閉じている。
「マスヤマサ~ン」
意識が明瞭になったチャックが、顔面を鮮血で真っ赤に染めたまま増山に歩み寄ってきた。
「チャック、大丈夫か?とにかく木下が気になる、行こう!」
「イェッサー!」
金平とスコーピオンが駆け出したのと、増山とチャックが駆け出したのはほぼ同時だった。
「後でしっかり説明してもらうからな!」
「ええ、その前にあのSEを撃退して、私達の優位性を示しましょう」
ほくそ笑むスコーピオンを視界の端に捉えながら、疑念が金平の胸中に渦巻く。
『敵なのか?味方なのか?』
その雑念を打ち払い、よろよろと立ち上がりかけるライオンに接近していく。胸部の大穴は塞がりかけ、先ほどの鉄山靠のダメージも、全身を覆う泡が脅威的な速度で回復させていた。
背中を丸め、両拳を顎に着けた状態からスコーピオンの背中と両肩が破裂しそうな程膨れ上がる。
「シッ!」
右ストレートが闇夜に弾ける。まるでそれは夜空を切り裂く稲妻。凄まじい速度で、立ち上がりかけたライオンの脇腹に叩き込まれた。
「!」
強烈な痛みに顔を歪めるライオン。ほぼ同時に、金平の飛び膝蹴りが空中を舞う。
「はぁっ!」
均整の取れた体が躍動し、難なくライオンの側頭部に叩きこまれた。
『行ける!』
金平の脳内にファンファーレが鳴り響く。
しかし──。よろめいたライオンが深く腰を落とし、空気を凍りつかせる程の殺気を放った。
「まずい!」
スコーピオンが言葉を吐いた瞬間。異様な気配を察知した金平とスコーピオンが、咄嗟に飛び退く。
地を揺るがす震脚。ライオンの背中が、まるでカメラのズーム機能を使うように拡大して見えた。左右に身を翻した金平とスコーピオンの巨体を掠めた技。
──鉄山靠。紛れもなく、先ほどスコーピオンが放った技と寸分違わぬ動きだった。
「ぐあっ!」
「つっ!」
爆風と圧倒的な衝撃が走る。なんとか空中で体勢を整え、着地する二人。狼狽した表情の金平だが、すぐに半身の構えをとった。右肩に痛みがあるが、致命傷ではない。
他人事といった表情で金平を見ながら、不気味な笑みを浮かべるスコーピオン。
「まさか鉄山靠まで使うとは。産みの親にそっくりだ」
「どういうことだ?」
スコーピオンの意味不明な言動に首を傾げながらも、意識は目の前のライオンに向いている。
その場で回転し、金平とスコーピオンに再び対峙するライオン型SE。
一方、倒れた木下の元へ駆けつけた増山とチャックの二人。
「息はある。早く病院で手当てを」
「オ~ウ、あのライオンをナントカシナイトイケマセ~ん」
互いに膝を突き、眉間に皺を寄せ視線を合わせた。
突如敷地内に響き渡る排気音。目映い一つ目のヘッドライトが、一条のラインを地面に作り出す。
「あれは?」
ソフィに寄り添われた社長が目を細めた。
「バイク?」
ソフィの白い顔が、蒼白いヘッドライトの輝きに形の良い鼻と唇を照らし出される。
前傾姿勢で跨がる、SUZUKIが誇るスーパースポーツ・GSX1300R Hayabusa。
長い片足を地に着き、逆の足をステップにかけていた。
──葵裕樹。かつて木下と切り結んだ謎の剣士。ヘルメットは被っていない。
スーツ姿のネクタイが、だらりとバイクのタンクにかかっていた。彫りの深い顔が、ヘッドライトの光に微かに浮かび上がり陰影を濃くしていた。
「木下君も社長もあの状態ですから、葵さんの剣技でとどめを刺してもらいましょう」
笑顔は相変わらず、スコーピオンは隣の金平へ囁きながら進言する。
「お前ら、いったい……」
「さぁ!来ますよ!」
金平の言葉を遮って、スコーピオンの表情が険しくなった。




