同時攻撃!!
目前に迫る人間にはなんの反応も示さず、腕組みしたまま微動だにしないライオン型SE。
そこへ放たれた烈火のごとき増山の飛び蹴り。便所サンダルに筋電力の光が宿る。虹色の光彩の中へ、その煌めきが突き刺さった。
「にっ!?」
無意識のうちに差し出した片手。
増山にはそう見えた。
人間と同じ五指のある金色の体毛に覆われた巨大な手が、瞬きの間に増山の右足を鷲掴みにしていた。
増山の反射神経を以てしても反応できない程の速さ。インパクトの瞬間、まるでゴミでも放り投げる動きで、無造作に腕を振る。
増山の鍛え上げられた体が、軽々と半円を描き地面に迫った。
「うおっ!?」
地面に叩きつけられる瞬間、咄嗟に受け身をとる。そのやり取りの最中、金平と社長が左右から同時攻撃を敢行した。
「増山さん!」
叫びながらライオンの右半身へ正拳突きを繰り出す。落とした腰から、一気に跳ね上がり、正確にライオンの顔面目掛け打ち込む。スコーピオンとの再戦後、更なるトレーニングを積んだことで、金平の空手技には磨きがかかっていた。
同時に社長が逆手に握った黒光丸を、ライオンの左半身目掛け右腕から真横に、左腕から右斜め上に切りつける。
かつて“ナイフの悪魔”と恐れられた男の流麗な美技。
金平の撲殺太郎と社長の黒光丸から同時に発せられた筋電力の輝きが、ライオン型SEを覆う虹色の光彩を歪ませていく。
更に、受け身をとって転がった増山が、回転しながら脚払いを繰り出す。
類い稀な武威を誇る三者の、同時攻撃。
「ぐぁっ!」
ライオンの右手が、難なく金平の正拳突きをその掌で受け止める。ほぼ同時に、ライオンの左手が社長の交差しかけた手首を目にも止まらぬ速さで捕まえた。ライオンの大胸筋が異様に張り出し、両腕が膨れあがる。そのまま跳躍して増山の脚払いすら事も無げに躱す。
「えっ!?」
「なんなの!?」
社長と金平がひっくり返った声を上げた。まるで強力な磁力に引き付けられたかのごとく、易々と掴み上げられた二人の大男。ライオンの落下と共に、異様な程太いライオンの両腕が振り上げられ、一気に社長と金平を地に叩きつけた。
「がっ!」
「ぐふっ!」
二人の全身を強烈な痛みが襲う。
「オラァッ!」
着地した瞬間のライオン目掛け、増山が放った右上段廻し蹴り。
「なにっ!?」
刮目する増山。
地面に叩きつけた二人から手を離したライオンが、一瞬のうちに旋回し、増山の動きをコピーしたとしか思えない右上段廻し蹴りを放ったのだ。
ライオンの巨大な足と増山の履く便所サンダルが、空中で激突する。
尾を引いた虹色の光と筋電力の煌めきが、虚空で弾け合う。
「ちぃっ!」
便所サンダルを履いていなければ、増山の右足はへし折れていただろう。
それ程までに、ライオンの放った蹴りは恐るべき威力を持っていた。
更に増山を驚愕させたのは、ライオンが空手の蹴りを使って見せたことだ。明らかに今までのSEとは違う。
「社長!金平君!大丈夫か!?」
自らの背後で膝を突く二人に、増山が視線は目の前のライオンに向けたまま声をかける。
「だ、大丈夫です」
金平が頭を振りながら身を起こす。
「なんなの、このSE……」
両手両膝を突いたままうなだれる社長。対峙するライオンと増山が視線をぶつけ合う。
「コンノヤロー!」
突如響き渡る怒号。ライオンの背後から、チャックが中段蹴りを放った。並走しながら突っ込んできた木下が、黒光丸・JAPANを横に寝かせ、三段突きを繰り出す。
青白く痩けた木下の顔を、黒光丸・JAPANから放たれる光が照らし、両頬に影を落としている。完全にSEの虚を突く作戦通りの動きだった。
その隙に、ソフィが社長の脇に駆け寄り、肩を貸して後方へ退く。叩きつけられた瞬間、受け身をとっていた金平は社長よりダメージが少なく、増山と共に更なる攻撃に移ろうとしていた。
「むっ!」
三段突きを放ちかけた木下が異変に気付く。
「みんな、下がれ!」
右足を上げかけていたチャックが、咄嗟に後方へと跳躍した。
増山と金平もただならぬ殺気に後退する。
響き渡る硬質な金属音。
同時に、ライオンの巨体が一瞬で回転したかに見えた。
「木下ぁ!」
金平の絶叫が響き、周囲に砂埃が舞う。あたかも闇夜を濃くするかに見えた。
そのただ中で、木下が黒光丸・JAPANを両手に、自らの右肩に刀身を添え、何かを防いでいる。
ライオンの両腕。その巨大な手の指先の爪が、30センチ程の長さに伸びていた。両腕を揃えて、その爪の全てが木下の黒光丸・JAPANに叩きつけられている。尋常ならざる膂力で、木下の体が押さえつけられ、徐々に膝が落ちていく。
「ぐぅっ……」
一切音を発しないライオンが、目を僅かに細め、木下の苦悶の表情を伺っていた。
突然ライオンが、腕を自らの顔面へ運ぶ。圧倒的な力から解放された木下が瞬時に飛び退いた。
それと同時にライオンの頭部を襲った二本の黒光丸・Sサイズ。
両手の爪であっさりと叩き落とした。ライオンの金色の瞳が見据える視線の先。
片膝を突いた社長が、両手を伸ばしている。黒光丸を狙いすまして投げたのだ。
三国が開発した武具が、使用者の手から離れた後も、強力な筋電力をほんの数秒間だけ帯電できることを知っていた。通常兵器ならば、ただSEの体を透過するのみ。
社長が両手を地面に突き、顔をしかめる。
「……強いわ」
それぞれライオンから距離を置いた防衛軍一堂は、一様に動揺を隠せない。
謎のSE。ただ分かっているのは、目の前にいるライオン型SEが、恐らく今までで最強であること。




