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こちら筋肉防衛軍。  作者: マッスルハッスル。
第①マッスル ◆筋肉への誘い!!◆
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soul eater defense forces!!

 辺りを静寂が包んでいた。

 まばゆい光彩を放っていたソウルイーターは影も形も無く、舞台の緞帳(どんちょう)を下ろしたように、闇が周囲の音も光も覆っていた。

「チャック、大丈夫?」

 大の字に寝そべったチャックに向かって、手を差し伸べる社長。

 肩で息をしながら汗と擦り傷にまみれ、社長自身も疲労した様子だ。

 社長の手をがっしり握りチャックが起き上がる。左手で腹部を押さえていた。

 ヘソの辺りに盛大な青アザができている。

 ニコリと白い歯を見せるチャック。

「ダイジョウブで〜す。骨はオレテ無いようで〜す」 

 屈託の無い表情のチャックを見て、眉間に寄せた深い三本のシワを消す社長。

「そう。良かった」

 剣を肩に担いだ増山は、アスファルトの上であぐらをかいていた。

「増山ちゃんはケガない?」

 社長が増山の頭をくしゃくしゃと撫でる。

 見上げた増山は苦笑いしながら、剣の刀身部分を持ち、グリップ部分を社長に差し出す。

 受け取った社長が剣を見て苦笑いをした。刀身があらぬ方向に反り返っている。

「使えるには使えますが、この耐久性じゃ何分と保ちませんぜ」

 両腕を後ろに投げ出した増山が、上空を見上げながらリラックスした表情で苦笑いを見せた。

「あら、これはダメね。でもまぁ、実体兵器として初めてじゃない?有効だったの」

「三国さんのさらなる努力に期待ですな」

 増山が茂みのほうに視線をやった。

 茂みの陰では、緊張から解放された三国と金平が立ち上ったところだった。

 埃にまみれて斜めになった眼鏡を直す三国。

 金平は興奮冷めやらぬ様子だった。知りたいことが沢山ある。

 とにかく社長やチャック、増山と話がしたかった。

「みんなのところに行きましょう」

 安堵の表情を浮かべた三国が口を開く。三国は年齢の割りには若く見える、子供じみた笑顔を見せた。

「三国ちゃん、ハマーのライト点けて、みんなのボディチェックするわ」

 言われた三国は、小動物に似た動きでハマーへ向かって駆け出す。

「金ちゃん大丈夫だった?」

 社長の言葉に、苦笑いしながら頷く金平。

「もう、お薬飲まないんだからぁ」

 いつものお姉キャラに戻っている。

「あの……薬は何か意味があったんですか?」

「あぁ、あれは抗ホルモン剤よ。三国ちゃんから話聞いた?さっきのお魚ちゃん、ソウルイーターのこと」

「はぁ、魂がなんとかって」

「そうねぇ……詳しく話すと長くなるし、会社に帰ってから教えてあげるわ」

 ハマーのヘッドライトが点灯すると、社長とチャック、増山の三人が光の中に立つ。互いの体に傷が無いかチェックし始める。

 チャックの腹部のあざ、それから社長がソウルイーターの攻撃を防御した時の腕にもあざが。

 増山は無傷のようだ。

「みんな大丈夫みたいね、帰ってからホルモンカウンターでチェックしましょ」

 安堵の表情を見せる社長は、タンクトップと短パンを着こむ。

 チャックと増山もつなぎに袖を通す。

 みんなが順々にハマーに乗りこみ、さっきまでの喧騒が嘘のように静けさを取り戻した三叉路を後にした。



 帰りの車中は皆一様に無言。

 後部座席の真ん中に座らされた金平。左右にはチャックと社長。二人とも乗車後、疲労からかすぐに寝てしまった。

 金平の肩に寄り添いながら、熟睡する二人。

 チャックの顎が金平の側頭部へ。

 社長の顔が金平の頬に。

 目がうつろ、口は半開きになる金平だった。


◆◆◆


 会社に到着すると、眠りから覚めるチャックと社長。

「金ちゃん、好きにして良かったのに……あたしの唇」

『いやいや結構っす。何のバツゲームだよ』

 金平は顔を引きつらせている。

「モ〜、バナナはタベレマセ〜ん」

 隣のチャックはまだ寝ぼけた様子で、金平の股関をまさぐっていた。

 巨大なチャックの手のひらを、渾身の力をこめ引き剥がす。

 金平は逃げるように車中から飛び出した。

 そのやりとりを見て、腹を抱えて笑う増山。

「金平君はモテ期だな」

 機材を抱えた三国も笑う。

「勘弁してくださいよ」

 金平は困惑した表情を浮かべた。

 機材をケースに片付けると、変わりに小型の拳銃のような器具を取り出し、社長やチャック、増山の手首の辺りに次々当てていく。

 体温計の計測音、そんな電子音が聞こえたかと思うと、カウンターの数値を見る三国。

「大丈夫です、正常な数値ですね」

 三国の言葉を聞いた社長の頬が緩み、緊張感から解放された様子だった。

「さっ、食堂でティータイムよ」

 社長が満面の笑みを浮かべた。

 ドカドカとむさい男達が列を成して食堂へ入って行く。

 深夜だからか、お母さんの姿はない。彼女は住み込みではないらしい。

 社長がキッチンの戸棚から、せんべいやらクッキーやらお菓子の袋を山ほど抱えてテーブルに置いた。

 三国がコーヒーを準備する。

「さぁ、改めまして、金ちゃん」

 一堂がテーブルについたのを見計らうと社長が喋り始めた。

「ようこそ、<soul eater defense forces>略称はSEDF。まぁ、筋肉だけが頼りだから、筋肉防衛軍ってとこね」

 キョトンと社長を見つめる金平。

「あの、SEDFって、そもそもこの会社は引っ越しセンターなんじゃ?」

「そうねぇ。一応そういう名目にしてあるけど、その実体は地球を守る正義の味方、ってところなのよ」

 社長がウィンクした。

 斜め上に視線を反らし、そのウィンクをかわす金平。

「三国ちゃん、説明してあげて」

「はい」

 眼鏡を拭いていた三国が、サッと眼鏡をかけ直すと真剣な面持ちで話始める。

「そもそも我々の組織は、防衛省直轄だったんです。しかし、ある事件がきっかけで解体することになってしまって」

「まぁ、元々は陸上自衛隊の中の特殊作戦部隊だったのさ。俺と社長、三国さんはそこの出身てわけ」

 増山が割って入ってきた。

「そうそう、で、三国ちゃんが言う事件、15年前に起きた出来事で、その部隊がほぼ全滅、まぁ正確にはみんな生きてるんだけど」

 社長が真剣な表情を見せる。

 話の筋が今一つ掴めない金平だった。

「全滅って死んだってことじゃないんですか?」

「ある意味そうだし、そうでも無いと言える」

 金平の問いに、コーヒーをすすりながら、増山が禅問答的な言い方をした。

「当時我々は、対テロ戦や特殊犯罪など、警察の手に余るような事件に駆り出されていた。そんな中である作戦が決行されたのさ」

 増山の言葉にうんうんと頷く社長。

「ある県での自殺率が異常に高い、ってことで、まぁ、それが全ての始まりだったんだが」

「そうなんです、それを調べていたら、あのソウルイーターに行き着いたんですよ」

 三国が腕組みしながら、短い中指で眼鏡を押し上げた。

「大まかな調査は警察が行ったんですが、どうにも手に負えないということで、自殺した遺族に話を聞くと、ほぼ全ての人間が一様に同じことを言ったんです。光る物体を目撃したと」

「それがソウル……イーター?」

 胡散臭いと言わんばかりに眉を潜める金平。

「そうなんです。ソウルイーターに接触された人間は、極端な男性ホルモンの減退、または極度の欝状態に陥るのです。ですからさっき戦闘前にみんなが飲んだのは抗ホルモン剤なんですよ。まぁあれも気休めに過ぎませんが」

「で、15年前、私の部隊がソウルイーターに遭遇、戦闘になったわけ。それ以前に、住民の話を半信半疑で聞いた地元警察が、巡回中にソウルイーターに遭遇。ところがあっさりやられちゃった警官。その警官の証言を元に完全武装した我々が出動。その時の装備が銃火器やナイフだったのね。それがまったく効かない訳なのよ」

 目を閉じて、社長が懐かしむような素振りをする。

「今だに理屈はわからないんだけど、あのお魚ちゃん、物理的な攻撃が一切透けてしまうっていうか、雲を相手にしてるような手応えなのよ」

 ため息を一つつくと、社長は続けた。

「わけもわからずバッタバッタと倒される隊員達、銃弾も尽きてナイフも落としたあたしが、拳でぶんなぐってみたわけ。そしたらあら不思議、効果あるじゃない。でも時すでに遅し、あたしと増山ちゃん以外、みんな意識を失ってたの。あたしと増山ちゃんもあわやってとこで、朝日が昇って、日の光を浴びたお魚ちゃんは地中へと姿を消した」

 にわかには信じられない話だったが、ついさっきそのお魚ちゃんを目の当たりにしているだけに、信じざるをえない金平だった。

「で、隊員達は?」

「みんなあたしみたいになって新宿二丁目で働きだしたり、部屋に閉じこもって出てこなくなったり──ね」

 深いため息をもう一度つく社長。

「その後、まぁまた色々あったんだけど、どうもあのお魚ちゃん達は、人間の筋肉が発する微量な電気にだけに反応するようなのよ。そして逆に、その微量な電気を発する筋肉を露出することで、お魚ちゃん達からの攻撃からも身を守れるわけ。なぜだかはわからないけど、鍛えあげた屈強な体をしてた隊員達はみんなやられた。防弾チョッキやら制服を着てたからみたいなのよ」

「社長と増山さんは無事だったんですか?」

 ハチャメチャな話を遮り、金平は質問をぶつける。

「私と増山ちゃん?あぁ、その時やたら蒸し暑くて、タンクトップだったの。普通は制服なり防護服着るんだけど、そこはほら、あたし達チームのNo.1とNo.2だったから」

 つまり、ソウルイーターから身も守ろうとして重装備をすればするほど、なんらかの理由でソウルイーターの攻撃が伝わりやすくなる、ということらしい。 

「例えるなら、衣服や防護服を水槽とします。水槽の中に私達人間が入る。で、その中に電気が流れたコードをちぎって投げ込んだら直接コードに触れるより、ダメージは遥かに大きくなって即死、ですよね?」

「その電気ってのが、ソウルイーター。で、私達人間の筋肉から発する電気が、どうやらソウルイーターの『精神的にダメにしちゃうエネルギー』をガードかつ攻撃できる唯一の手段なのよ」

 社長が力こぶを作って見せた。

「ただし、こちらの直接攻撃が効果を持つ分、向こうからの攻撃も我々の肉体にダメージとして発現する。さっきの戦いで君も見ただろ?まぁ、精神にダメージを受けるよりはマシかもしれないがね」

 増山の言葉で、SEの特性がなんとなく理解できた金平。

 つまりどんなに着込もうが、その着込んだ衣服や防護服がかえってソウルイーターの力を伝達するらしい。

 そして、筋肉から発するという微量な電気を帯びない武器や銃弾の類いは、一切効力を持たないようだ。

 つまり露出した肌による直接攻撃。

 それ以外SEに対抗するすべは無い。

『だから社長達は、極力露出の激しいビキニにビーサンだったのか』

 あのかっこうがただの趣味だと思っていた金平は、複雑な気持ちになった。

「で、私達の部隊が初めてソウルイーターに遭遇したのがこの会社の所在地、S県T市だったの。これまた今だにわからないんだけど、ソウルイーターはこの近辺にしか現れないのよ」

「やつらが現れるのは決まって真夜中、人気ひとけの無い場所。そこから夜中の間、人家へ赴き、人間の心を奪う。俺たちはSEが湧いてきた所でやつらを叩き潰す。そーしないと、やつらは次々に人間を腑抜けにしちまうのさ」

 真剣な眼差しの増山。

 SE──ソウルイーター、そしてそれらから人々を守るための組織『SEDF』その存在を目の当たりにした金平は、昨日までの現実世界から夢の世界に突き落とされた気分だった。

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