転生2
目の前に閻魔様がいる。
仏教の掛け軸や木彫りの象にある様なそのままの閻魔様。
肌が赤くて目力がハンパない。そして巨大。
けれど、背景は荘厳でもおどろおどろしくもなく、乳白色な感じだし、閻魔様の周りには罪状を読み上げたり、死人を整列させる子鬼達もいない。
どうやらこの乳白色の世界には私の視界の前に、どんと座っている閻魔様と私の2人きり。
閻魔の単位がわからないな。魔が付く位だから閻魔×1魔か?
「わたしは何者でもない。」
直接脳に声が響く。
そっか。私、死ななかったんだ。へんな夢。
飲んだ時にでも、お姉ちゃんに教えてあげよ。きっと爆笑してくれる。お姉ちゃんはあんまり夢を見ない人だから、私が見た荒唐無稽な夢の話でも、いつも面白がってくれる。
「夢ではない。そなたは死んでおる。」
再び、脳内に声が響く。
閻魔様の外見は実に写実的だけど、置物の様で動かないし、ダンディな声ではなかった。
夢を見る私の想像力の限界だろうか。
「この姿はそなたがこの空間を受け入れ易くする為に投影したにすぎぬ。」
再び脳内で中性的な声が響くなり、閻魔様が溶け消える。
閻魔様が居た向こう側はどこまでも乳白色の世界が広がるばかりで、自分が上を向いているのか下を向いているのか、それすらもわからなくなる。
「そなたは死んでいる。完全に。完膚なきまでに死んでいる。自らの肉体の存在を認識できぬであろう。」
脳内に中性的な声だけが響く。
下を向こうとして気づく。そもそも身体がない………
肉体がないことに気付いた途端、立つ為の足も・・・そもそも身体もないけれど、身体が傾いだ様に感じる。
見回して、声の発生源を探したくなる。けれど、声は脳に……いや、脳もないのか。とにかく声は直接伝わってくるし、廻りの全ては圧倒的なまでに白く塗りつぶされている。
悪夢の予感しかしない。このまま夢から覚めたいと思う。けれど、「死んでいる」と何度も言われるのは寝覚めも悪くなりそうだし、取りあえず話を合わせて私は中性的な声に呼び掛けて話を進める事にした。口がないから意識を向けるだけだけど・・・
『確かに私はクレーンの下敷きになって確実に死んだのでしょう。でも死とは意識も無くなるものではないのですか?』
私が建設的に話を進める覚悟を決めたからか、閻魔様が再び目前に出現する。
「万物の有り様はその数と等しい。死に様もその数と等しく在るもの。」
『えっと。仮に、死に様が沢山あるんだっら・・・・私はーーー消滅・・・・したい・・・です・・・・』
「否。これよりそなたは神となる。世界を俯瞰し調整せよ。」
神!?寒気がする。怖気と言った方が正確かもしれない。
『はぁ?神!?意味分かんないし。全知全能の神様ってこと?』
閻魔様・・・これでも勇気を持って消滅と申告したのです。それを神とは・・・・突飛すぎて、私は夢オチを確信する。
「神とはすなわち傍観者。有っても個々の世界への介入は認められない。」
『それで?私が神になるとして、あなたは誰なんですか?』