隣の彼女が突然、こんなことを聞いてきた『好きな人ができたら……どうする?』
放課後。
教室には、もうほとんど人がいなかった。
西日が窓から差し込み、机の上にオレンジ色を落としている。
その光の中に、俺と――こいつが居る。
「ねえ、ここ分かる?」
隣から差し出されたノート。
見慣れた字だ。
少し丸っこくて、少し雑。
でも、どこか丁寧な字だった。
「……あー、それはな」
顔を寄せて説明する。
肩が、ほんの少し触れた。
「……近いって」
「そっちが寄ってきたんじゃん」
「は?」
「は?」
――そんな、くだらないやり取りを繰り返していた。
「……ねえさ」
ぽつりと、彼女が言う。
「もしさ、好きな人とかできたら……どうする?」
「は? 急に何の話」
「いいから」
ペンをくるくる回しながら、こっちを見る。
「その人のこと、私に教えてくる?」
「……まぁ、別に。普通に言うと思うけど」
「へぇー、言うんだ」
「お前は?」
「えー……どうしよっかな」
にやっと笑う。
でも、そのあと一瞬だけ視線が泳いだ。
「……ヒントは出すかも」
「ヒント?」
「うん。分かる人には分かるやつ」
「絶対分かりにくいだろ」
「分かるよ。ちゃんと見てれば」
そう言って――
「例えば、こうやって隣にずっといるとか」
とん、と肩が軽く当たる。
「……勉強してるだけだろ」
「じゃあ、こうやって」
彼女はシャーペンを俺のノートに転がした。
「わざとちょっかい出すとか」
「邪魔なんだが」
「ひど」
くすくすと笑う。
「あとさ、他の子と話してると、ちょっとムカつくとか」
「それはただの短気だろ」
「……バカ」
軽く小突かれる。
――分かってる。
分かってるけど。
「……で? それがどうした」
わざと、何も知らない顔で言う。
一瞬だけ、彼女の手が止まった。
「……別に」
そう言って、またペンを走らせる。
――沈黙。
カリカリと、シャーペンの音だけが残る。
……やっぱり、少しだけ後悔した。
でも、今は壊したくない。
この距離も、この時間も。
なんて、思ってたのに……
――そんなの、無理だった。
「……なあ」
俺は、教科書を閉じた。
「もういいだろ、勉強」
「え、まだ全然終わって――」
「帰るぞ」
「は?」
立ち上がって、彼女の手首を軽く掴む。
「ちょ、なに急に!?」
「ヒント、分かりにくいからさ」
「は?」
ぐい、と引いて。
そのまま、距離を詰める。
「俺の答え、言っとく」
「……な、なにそれ」
互いの息が触れそうな距離。
彼女は逃げようとするけど――俺は、手を離さない。
「――言うって言っただろ。好きなやつできたら」
「……っ」
一瞬、彼女の瞳が揺れた。
「――お前が好きだよ」
彼女の顔が、ゆっくり赤くなっていった。
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