表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

内見

作者: 結城 からく
掲載日:2026/02/05

 石田悟が赴いたのは、築十四年の小さなアパートだった。

 スーツ姿の担当者が玄関を解錠して悟を招き入れる。

 殺風景な室内には何も残っていなかった。


「日当たりも良く、駅まで徒歩五分です。二十四時間営業のスーパーも近くにありますし、利便性は文句なしに高いですね」


「家賃はおいくらでしたっけ」


「三万円です。敷金、礼金はいりません。ただし事故物件ですがね」


「事故物件!?」


 悟の隣に立つ涼美が驚いた顔で言った。

 顔を曇らせた悟は、声量を落として担当者に問う。


「事故物件……事前情報では教えてもらえませんでしたが、一体何が起きたんですか?」


「殺人ですね。DVに悩む奥さんが旦那さんを刺してから首を吊ったそうで」


「ちょっと気味悪いですね」


「ても物件としてはかなり破格ですよ。これよりお得なところはまずないかと」


「そうですよね……」


 担当者のセールスに悟は悩む。

 万年金欠の彼にとって、この家賃の安さは魅力的なのだ。

 難しい顔で思案する悟に対し、涼美はねだるように意見を投げかける。


「ねえ、絶対ここがいいよ! 事故物件とか気にしなきゃいいし!」


「うーん……迷うなぁ」


「絶対に何も起きないから! 大丈夫、大丈夫! 決めちゃおうよー!」


 涼美は粘り強く主張する。

 やがて悟は、玄関に戻りながら担当者に頼む。


「あの、一旦外に出て考えてもいいですか」


「構いませんよ。行きましょう」


 部屋を出た悟は敷地外まで歩いてから、大きく息を吐き出す。

 そしてついてきた担当者にぼやく。


「驚きました。あんなにくっきりと見えるんですね」


「はい……あれのせいで我々も困っております」


 汗を拭いた担当者はアパートを一瞥する。

 玄関に笑顔の涼美が佇んでいた。

 不自然に伸びた首には縄がかかって青紫色に変色している。

 担当者は震える声で解説する。


「立野涼美……彼女は己の死を自覚していません。生前の記憶も混濁し、親しげな態度で接してくるのです」


「お祓いとかやらないんですか?」


「本格的な除霊は高額ですし、害はないので放置している状況ですね」


「なるほど……」


 悟は渋い顔で黙る。

 担当者は重苦しい空気を払うように元気よく言った。


「それで、いかがでしょう。彼女の存在にさえ目を瞑れば、かなり魅力的な物件かと思いますが」


「……少し、もう少し検討してみます」


 悟が入居の契約をしたのは、それから四日後のことであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ