第5話:白昼に息を潜めた
暑い。
朝の八時を少し過ぎた頃だというのに。
暑さのピークはまだまだ先のはずだが、じんわりと汗が滲むのを感じる。
下車以降、登校中に感じた視線は恐らく思い込みではないだろう。
学校へ到着し、職員室へ向かう。
転入生であることを一番近くの席の先生へ伝えると、山岸先生という名が呼ばれ、壮年男性がこちらへ向かってくるのが見えた。
「君が、朝霧くんね。初めまして担任の山岸です。」
どこかダウナーな雰囲気の男性――山岸先生は、
僕がこれまで出会った教師の中で、いちばん「抜けている」という言葉が似合う人だった。
覇気の無い表情。皺の付いたワイシャツに白衣。遠目に見ても猫背とわかる姿勢。
軽そうな態度も相まって、お世辞にも頼れるとは言い難い雰囲気を醸し出している。
「朝霧湊です。今日からよろしくお願いします。」
「はーい。よろしく。じゃあこの後一緒に教室行って、朝霧くんのことクラスのみんなに紹介するから。簡単な自己紹介だけ考えておいてね。」
山岸先生はヘラヘラと覇気なく笑う。
自己紹介。そういうのもあるのか。
転校自体初経験なこともあり、全く考えていなかった。
―――まあ、どうにかなるか。
「ところでさ、その子......お友達?」
「えっ...?」
山岸先生は鞄に乗ったクマを指差していた。
「あぁ......来る途中で拾ってしまって仕方なくというか......。」
そんなわけあるか。と思いながら、言葉にしたのは我ながら気の利かない弁明である。
「ふぅん。そういうの好きなのかと思ったよ。うちのクラスにもさ、そういうの好きな奴がいるから仲良くなれるかなって思ったんだけど。」
山岸先生は少し残念そうな表情をした。
「そろそろ朝のホームルームの時間だから、教室行こうか」
長身の山岸先生の後について教室へ向かう。
教室の前。
予鈴が鳴り静まった廊下とは裏腹に、2年B組の教室からは盛り上がる話し声が漏れている。
「まぁ、緊張せずね。俺が呼んだら、入ってきてね。んじゃあ、頑張って。」
山岸先生は、そう言い残すと教室へ吸い込まれてく。
―――はーい。みんな静かに~
教室の中で山岸先生が話しているのが聞こえる。
そして、それと同じくらいに心臓の音が聞こえていた。




