day6 - 3
頑張って書きました。読んでほしいです。
公園に着いたとき、陽翔はまだそこにいた。
ベンチに座ったまま、動かず、まるで時間が止まってるみたいに。
iPadを膝の上に置いて、空を見上げている。
俺は息を整えながら、近づいて――声をかけようとした。
「……陽翔!」
……けど。
音が、変だった。
言葉が、届かない。
俺の口から出たはずの声が、まるで水中で発せられたみたいに歪んで、陽翔には届かない。
風の音、虫の鳴き声、鳥の羽ばたき、すべてが遅れて、聞こえてくる。
――違う。
全部の“音”が、ズレてる。
俺たちはもう、普通の世界にいないのかもしれない。
陽翔は俺の声に反応しない。だけど、俺に気づいて、顔を上げた。
ゆっくり、目が合う。
その瞳が、なにかを諦めたようで、怖かった。
陽翔と、数秒間、見つめあって――――。
陽翔の口が、
「ごめん」
って。そう動いた。
そんな一言で、終わらせない。
ここで止まったら、陽翔はもっと遠いところに行ってしまうんだ。そんなのは嫌だ。
俺は言葉を探して、頭を回す。何をしてた?何があった?何ができる?何がしたい?
「ごめん」
声が、遅れて聞こえてきた。
もう何も考えられなくなって、ずっと泣いてしまいたかった。
陽翔はしばらく固まっていた。
やがて、ため息のような動きと共に、iPadの画面を付けた。
「Script::World」
アプリが、起動される。
開いたアプリの、テキスト欄に、陽翔が、ゆっくりと、文字を綴っていく。
「この世界を制御する」
信じられない。信じられないけど...
あの雨を見てしまった以上、信じないといけない。
陽翔のためにも、一緒にそれを背負いたい。
陽翔の手が震えている。1文字ずつ打ち込んでいく。
「誰かが姉ちゃんを殺して、僕を管理者にした」
陽翔は泣いていた。僕も泣いてるんだと思う。
理解できないけど、本当なんだって。
陽翔はこれをずっと抱えてたんだって。
重みが、伝わってくる。
「ずっと、このアプリのことを調べていた」
「姉ちゃんを殺したのが、誰かを知るために」
陽翔の嗚咽が聞こえてきた。
「陽翔―――」
思わず、口が動いた。
「そして一つ、分かったことは」―――
陽翔は、打とうとして……止めた。
画面のキーボードの上で、指が止まったまま動かない。
俺の声が、今届いたのかもしれない。
陽翔は、iPadから指を離した。
目が合った。
その目には、まだ迷いと、痛みと、そして――
何かを決意したような、光があった。
陽翔が、ゆっくりと口を動かした。
陽翔が、そのまま逃げ帰る。
そして―――声が届く。
「この世界は――――実際には、存在しないんだって。」
読んでいただきありがとうございます。
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