day6 - 2
家に着いたのは、陽翔を見失ってから20分くらい経っていたと思う。
ランドセルを置いて、靴を脱いで、そのままリビングに座り込む。
心臓が、まだバクバクしてる。
冷静になろうとしても、頭の中ではずっと、あの“雨”がリピートしていた。
晴れてる空。雲ひとつない空。なのに、確かに、降っていた。
あれは――本物の、雨だった。
陽翔は何かを“使って”いた。
あの白い文字列。あれは偶然なんかじゃない。
しかも、陽翔はそれを見たことない顔して使ってた。
それが、一番怖かった。
「……でも」
だからって、放っておいていいわけがない。
陽翔は、何かを抱えてる。たぶん、自分でも抱えきれないくらいの何かを。
俺は、また逃げたんだ。陽翔からも、自分の弱さからも。
――違う。それじゃ、意味がない。
もう一度、行かなきゃ。
止めなきゃ。
陽翔がどこかに“行ってしまう”前に。
俺はランドセルだけ置いて、靴を履き直した。スマホだけポケットに入れて、玄関を飛び出す。
走る。全速力で、あの公園まで。
……のはずなのに――
(……あれ?)
体が、ちょっと変な感じだった。
足と靴が、くっついて、離れて。
靴が地面と、くっついて、離れて、めり込んでいる?
妙な"ズレ"のようなものが、ある。
(……なんで?)
目はちゃんと前を見てる。息もあがってる。心臓も痛いくらい打ってる。
でも、世界の感触が……少しだけ“後ろ”にずれてる。
(陽翔……これも、お前が――?)
急に風が吹いた。木々の葉が、揺れる。
葉が擦れるガサガサという音が、数秒してから聞こえた...気がする。
だけど、そんな感覚に惑わされてる暇はない。俺はただ、公園を目指して走り続けた。
たとえ、世界が壊れかけているとしても。