day 6
陽翔は、今日も学校に来ていた。
ちょっと眠たそうにしながら、でもちゃんとノートは取っていて、給食も全部食べて、いつもの席に、ちゃんと座ってた。
少しだけ、昨日より元気そうに見えた。
話しかけていいのか、まだわからなかったけど、昨日よりは、たしかに、顔色がよくなってった。
たぶん、戻ってきてくれてるんだと思った。
陽翔が、前の陽翔に。
でも――。
下校のとき、いつもの角で陽翔と別れた。
「じゃあな」って、少し笑った顔が、やっぱりどこか遠くを見てるようで。
気になって、こっそり後をつけた。
あの道をまっすぐ行けば、陽翔の家。でも、今日は違った。
横道にそれて、ひと気のない公園に入っていった。夕方、オレンジ色の光がすこしずつ薄れていく。
ベンチに腰かけて、陽翔はカバンからiPadを取り出した。
それを見た瞬間、心臓がバクンと跳ねた。
黒い背景に浮かぶ、あの気味の悪いアイコン。
陽翔の指が、画面を滑る。
陽翔の前に、白い文字列が浮かび上がった。
「replace weather : RAIN, 0xFA996E13F244682C, 0xD3B319BBDBBB277E, 0x2A579B7151E28831, 0xD47FB14EC53866C0」
その次の瞬間――。
ぽつり、と、雨が落ちた。
空は晴れているのに。雲ひとつないのに。
それでも、俺の肩に、ぽつり、ぽつりと。
「う、そ……だろ」
陽翔は、笑っていなかった。
ただ無表情で、画面を見つめたまま、まるで……何かを確かめるみたいに。
もうこれ以上、見ていられなかった。
身体が勝手に動いた。走って、公園を出て、角を曲がって、息が切れるまで。
怖かった。陽翔が。
あの目が。あの雨が。
知ってはいけないことを、見てしまった気がした。
だけど、もう、知らなかったフリはできない。
あれは、現実だった。
陽翔は、何かを持っている。
この世界の「ルール」を、書き換える力を。
陽翔は...何を、するの?