day 5
朝、教室のドアが開いた瞬間、空気が変わった。
3日ぶりに陽翔が登校してきた――それだけのことなのに、なんだか教室の空気が一瞬止まったような気がした。
「……おはよう」
小さく手を上げて席に向かう陽翔。
たったそれだけの動作なのに、俺――蓮の胸の奥が、ぎゅっと詰まった。
みんな、気づいてない。
いや、当たり前だ。
「陽翔のお姉さんが亡くなった」なんて、学校では知らされてない。
先生も、何も言わなかった。たぶん、陽翔の家の意向だ。
でも、俺は知ってる。
あの日の夜、陽翔からの電話。
「……姉ちゃんが、死んだ」
それだけ言って、何も答えなくなった通話の向こうの静けさが、今でも耳に残ってる。
昼休み、隣の席で給食を食べ終えて、ただ机に突っ伏してる陽翔を見て、どう声をかけていいか分からなかった。
周りは普通に喋ってる。笑ってる。YouTubeの話、ゲームの話、今日の給食が微妙だったとか。
みんなも陽翔の様子がおかしいと気づいているはずなのに。誰も声をかけない。気づかないふりをしているんだ。卑怯なんだ。
俺だって何をしたらいいかわかんないし、何もできていない...でもそんなの嫌だと思う。
俺は、勇気を出して声をかけた。
「……久しぶり」
陽翔は、ほんの一瞬だけ顔を上げて、うっすら笑ったように見えた。でも、すぐに目をそらして、
「うん、ただいま」
って。
その「ただいま」に、全部を詰めこんだんだと思う。
強がってるのも、無理してるのも、分かる。繕ってるのも気づく。
でも、俺にはどうしてあげればいいのか分からない。
放課後、ランドセルを背負った陽翔の背中を見送る。
帰り道、いつもなら「また明日ー」とかって言うのに、今日は何も言わず、そのまま歩いて行った。
俺は見送るだけだった。
たぶんそれが、今できる精一杯だった。
明日、陽翔がまた来るかどうかは分からない。
でも、もし来たら――今度はもう少し、ちゃんと話しかけようって思う。
陽翔の悩みを分かち合えないつらさ、分かれないやるせなさ、悔しさ。そんなものが一緒になってベッドに入っても全然眠れない。
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眠ろうとしていたはずなのに、気づけば――ベッドに座っていた。
……さっき、横になったよな?それとも……?
いや、気のせいだ。たぶん。
第二話です。読んでいただきありがとうございます。
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