第一日目
その日、僕――陽翔は、小学六年生のくせに、ちょっとだけ調子に乗っていた。
テストで90点取って、友達にちょっと褒められて、担任の先生にも「ちょっと成長したな」って笑いながら言われて。
そういう、なんでもない日。
家に帰って、iPadでダラダラYouTubeを見ていた。
「ん?」
足元に、白い紙切れが一枚、置いてあるのに気づいた。
覗き込んでみると、QRコードが描かれている。それ以外に何もない。
YouTubeも飽きてきてたし、なんとなく、読み取ってみる。
……べつに、深い意味なんてなかった。ただの「ヒマつぶし」だったんだ。
読み込んだ瞬間、画面が黒くなった。
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『Script::Worldへのアクセスを確認しました』
「え……?」
何もしてないのに、勝手に文字が出てくる。
アプリ? ゲーム? ウイルス?
不安になって画面を閉じようとした、その瞬間――
「ちょっと陽翔! また変なモンいじってるでしょ!」
振り向くと、姉ちゃんがいた。高校生の陽菜。お小言多いけど、僕のこといつも気にかけてくれてる。
でも――その時は、違った。
「姉ちゃ――」
叫ぶ間もなく、陽菜の体がぐらりと傾く。
「え、え? ちょっ、姉ちゃん!?」
目を見開いたまま、膝から崩れ落ちる。声をかけても、体を揺すっても、反応がない。
なにが起こったのかわからない。ただ、怖くて、泣きそうで、動けなかった。
怖い。怖い。なんで?そんなこと...
昨日まで、いや今さっきまで元気だった姉ちゃんが、突然動かなくなってしまった。
手に持っていたiPadに、また文字が現れる。
『初期化完了。
スクリプト操作権限【Administrator】を付与しました。
対象者:陽翔(Administrator)
代償:1人分の命』
「…………え?」
画面には、白い四角い枠が浮かんでいた。なにか入力できる……らしい。
何ができるのかわからないし、何もしたくない。
それでも――その枠の下に、何か書いてある。
print("Hello, world!")
それに気づくと、何かに操られたかのように、"Run"と書かれたボタンを押した。
すると――目の前の空間に、白い文字がふわりと浮かんで、消えた。
Hello, world!
10秒ぐらい呆然としていた。今までの人生で1番長い10秒だった。
ハッと我に返った。目の前にはお姉ちゃんが倒れていた
『代償:1人分の命』
僕は、なにかを手に入れたみたいだ。
けど、それと引き換えに、一番大切なものを失ってしまった。
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