結集ー戦いの記憶ー
森の入り口でケイン達と合流すると、森の中へと入って行った。森の中には幾つもの小径があった。その小径から少し外れた所でレイリーが何か唱えた。すると今まで緑に覆われていた何もない所に細い道が現れた。魔法で隠されていたらしい。そこを歩いていくと一棟づつ緑に囲まれた建物が点在していた。生活していくのに充分な大きさを持つ建物だった。そんな建物を両側に見ながらもう少し奥に入ると
『銀星光-シルバー・スター・シャイン-』と書かれた建物があった。レイリーはその建物の前に来ると、ブレスレットの飾りになっている鍵の一つでドアを開けた。
「此処ならゆっくり話せるわ。」
そう言って中へと通した。ドアの側に置いてあった魔石に向かって話しかける。
「レイリーよ。今 戻ったわ。長い間ありがとう…もう気づいていると思うけど、大人数なので何人か連れてお茶の用意をして欲しいの。お願いね‥」
「それは 連絡用の魔石…誰に連絡したんだ‥ここは一体何なんだ…」
キースが聞いた。
「いい質問ね。では一つずつ答えましょう。
最初の質問の答えは 来れば分かるわ。とても懐かしい人達よ。
二つ目の答え…此処はリューイとあたしのミーティングルームだった…ミーティングというより勉強室だった方が多いわね。此処でリューイに指導され注意された。その意味が今なら分かるわ。
何でこういう場所があるかというと、此処を皆んなの拠点にしようと考えていたの…
此処で準備をして此処で作戦を立て、此処から戦いに挑もうって…
でも戦いは早く始まってしまった。
だからこの場所の事を皆んなに伝える事ができなかった。皆んなが此処で生活していけるようにそれぞれのパレスもある。この奥があたしのパレス左隣がリューイその隣りがケイン あたしのパレスの右隣りがライザその隣りがキースそしてその向こうがユーゴのパレス‥鍵は今持ってきてくれるわ。」
少しすると呼び鈴が鳴る。レイリーがドアを開けると何人かの人が入って来た。
「お帰りなさいませ。レイリー嬢。」
先頭に入って来た男性が言った。
「ただいま」
レイリーが言う。
「皆さんがおいでになるのをお待ちしていました。」
女性が言った。
「サミエル それにエミーじゃないか…」
「元気そうだな。」
「皆さんも元気そうですね。」
「皆さんにまた会えて嬉しいですわ。」
ユーゴ ケインが言って、サミエル エミーが答える。
「でも どうしてふたりがここに?…」
ライザが聞いた。
「あたしが頼んだの‥あたしが戻ってくるまで…皆んなを連れ帰るまで…此処を守っていてって…」
レイリーは言った。そしてサミエルとエミーに向き直ると言った。
「此処に戻る迄思ったより長くかかってしまったけど、此処を守っていてくれて有り難う…」
「いいえ 私達は当然の事をしていただけです。」
エミーが言った。
「それが俺達の仕事ですし、何よりも俺達 此処が好きなんです。」
サミエルが言った。そして連れて来た者達にお茶の支度を指示した。
お茶を飲みながらレイリーは前の戦いの話しを始めた。
「うすうす気づいている人達も多いと思うけど、あたし達は七年前の魔道士グラッドとの戦いの時にグラッドを倒す選ばれし者達として参加していたの。その役目は、まだ若かったあたし達にとっては大きなプレッシャーだった…」
皆んな占者に守護する者と言われてから、それに相応しくあろうと色々学んだという…レイリーを除いて…
レイリーには占者の言葉は伝えられず知らされず、ただその力を伸ばす様にと言われただけだった。力を伸ばしても彼女自身その力を操る術を知らなかった。彼女は言った。
あの頃のあたしは 自分で自分の身を守る術さえもたず、ただ決定打を与える為に皆んなから守られていただけの存在だったと‥あたし自身それでいいと思っていたと‥あたしは決定打を与えるのだから皆んなから守られて当然なのだという考えがどこかにあったのだという事を…
力を伸ばせば当然力は大きく強くなっていく…そしてその力を制する事が難しくなっていったのだと…
「当たり前よね‥自分の精神をひとつも鍛えていないんだもの…そんな状態になって初めて気付いた。自分自身を鍛えなくちゃいけないんだって…慌てて鍛え始めたってすぐにどうにかなるものじゃない‥未熟な力のまま戦いは始まってしまった。そんな未熟な力のあたしだったからやがてグラッドに囚われてしまい、グラッドはあたしをあたしの力を自分のものにしたいために‥」
「やめて!レイリー‥それ以上はもう…自分で自分の傷口を拡げるようなものよ…」
ライザは言った。
「有り難うライザ…あたしを心配してくれて‥でもあたしなら大丈夫よ。忘れたの…あたしは《風のリー》と呼ばれた女よ。あらゆる事をしてきたわ。《妖艶なるドリーム》とも呼ばれていたはずよ。あなたはそれを全て見てきたじゃない。一緒に過ごしていたじゃない…とっても近い場所でケインと二人で…前の戦いの頃のあたしならわからないけれど、今のあたしがそんな事で傷つく程軟な精神を持っていると思う…それにあたしは全てを皆んなに話しておきたいの…」
レイリーのその言葉を聞きライザは口角を少し上げると言った。
「わかったわレイリー…続けて…」
レイリーは頷くと話しを続けた。
「グラッドはあたしの体の自由だけを奪いあたしを自分のものにした。そしてあたしを救出にきた五人を一室に招き入れその前であたしを抱いてみせた。その時あたしの中で何かが弾け力が暴走した。コントロールを失った力はグラッドを襲い瀕死の状態にしたけれど消し去る事は出来なかった。グラッドは部下に助けられ姿を消した。そしてその力は仲間達をも襲い傷つけた。あたしはそのまま意識を失い気付いた時には記憶が封印されていたの。」
「そう‥確かにリューイが記憶を封印した。俺達の事を戦いの事を忘れ去る様に…」
「もし何処かであっても初めて会ったフリをする様にと…」
ケインとユーゴが言った。
「それが今 目の前にいる君はあの頃と違う輝きがある。そして自らの力で封印を解いた。それは次の戦いが始まるという事なのか‥?」
キースが言った。
「ええ 二ヶ月前に多くの命が既に奪われている‥それからは少しづつだけどグラッドが動いている。それが今のあたしにははっきりとわかるの。」
レイリーは記憶が封印された後も身を守る術を取得したいといつも思うようになり無我夢中であらゆる武術を習い会得していき今まで無かった風の力も身についていたという。二ヶ月前グラッドが多くの命を奪ったのを感じた時これ以上犠牲にしたくないとその命を護りたいと思ったのだという。その時遠い昔『守護する者』と聞いた事を思い出したようだ。
「あたしは多くの人々を‥この国をその名の通り守護したいと思ったの。今 思うのだけど前の戦いの時あたしは相手を倒す為に戦っていたのだと思う。
次の戦いはやがて始まる。今度の戦い…あたしは仲間達を‥多くの人達の命を守護する為に…この世界を守護する為に戦うつもりなの。」
レイリーは一息つくと仲間達をぐるりと見渡した。
そして少し俯くと軽く目を閉じフッと微笑んだ。レイリーはその微笑みのまま顔を上げその眼は光が増したように見えた。
「素晴らしいわね。前の時には揃わなかった組織力だわ…」
「組織力?どういう事だ」
ユーゴが聞いた。
「どこも秘密にしている訳ではないようなので、言っても大丈夫そうね。情報網ks’ 機動力のワイナー 参謀組織プラン 交渉術のトレビ そのリーダー達が今 此処にいるわ。」
一瞬その場を沈黙が支配した。続く騒めき‥周りを伺う者達…
「リーダー達を紹介するわ。その場で立ってもらうわね。ks‘リーダー ケイン ワイナーリーダー ユーゴ プランリーダー キース トレビリーダー ライザよ。」
「まったく 世の中広いようで狭いという事か‥各界で名高い組織が仲間の持っている組織だったとはな…」
キースは言う。そしてレイリーを見ると聞いた。
「レイリー 君も組織を持っているよね。多分癒やしの術のフェアリー…君はフェアリーを前の戦いが始まる前に作っているよね。」
「ええ‥よく知っているわね。流石キースね。あたしはただ自分の力が傷を癒す事ができると知ったから、誰かの役にたちたいと思って作っただけよ。でもあたしは長い間記憶を失っていたから代表とは言えないわ。作った者には違いないけれど…実際引き継いでやってくれたのはサミエルとエミーだわ。彼等こそがリーダーだわ。」
「それは違います。基礎から教えてくれて、色々なやり方を注意事項をわかり易く纏めてどうしてそれが必要なのかを書いて教本にしてくれた。」
「私達はそれを見てその通りにやって来ただけです。体の癒やしだけではなく心の癒やしも同じです。」
「ですから俺達にとってリーダーはいつでもレイリー嬢なのです。これからもよろしくご指導下さい。俺達はいつでもレイリー嬢と共に行動します。」
サミエルとエミーが交互に言った。
「有り難う。あたし自身どんどん自分に磨きをかけて貴方達に相応しいリーダーでありたいと思います。これからもあたしと共にいて下さい。」
レイリーは言った。
「はい どこまでもご一緒に…」
フェアリーの仲間達が言った。
「まもなく次の戦いは始まるでしょう。まだ此処にはいないけど護衛力のガーディそのリーダーであるリューイも参加する事でしょう。」
「前の戦いの時にどうしても欲しかった組織力だな」
ケインが言う。
「ええ 確かにそうね。今度の戦いに協力して貰えたらと思うわ。でも無理強いはしない…ケインとks’の皆んなには既に合意を得ているわ…後はそれぞれの組織または個人で決断を出して貰いたいの。ただ一つ言える事は命に関わる戦いになるという事…」
レイリーが言った。
「さて 私達はどうしようかしらね。」
ライザが言った。
「そんな事言って‥ライザ様のお気持ちはすでに決まっているんですよね。レイリー嬢に協力しようって…」
ライザの仲間の女性が言った。
「まあね…」
「俺達にも依存はありませんよ。だって此処にいる大半の者は《風のリー》の下にいたのですから…レイリー嬢の人柄もケイン殿の人柄もよく知っています。」
「今の仕事だって多くの人を守る仕事ですし、仕事上命の危険に晒されている事にも変わりはありません。強いて変わる事があるとすれば、一緒にやっていく仲間が増えるという喜ばしき事です。」
「そして何より多くの仲間と一緒により多くの人々を守護する事が出来る。その事が一番嬉しい事です。なあ皆んな…」
「オー」
「という事でOKよ レイリー」
ライザが言った。
「サンキュー 皆んな」
レイリーは言った。
「俺達は考える必要はない。実は仕事の関係上既に巻き込まれている。色々な情報をks‘に依頼して集めようと思っていた。そのks’のリーダーがまさかケインだったとは…俺達に依存はない。協力する。」
ユーゴは言った。
「残るは俺達か…俺は[守護する者]として育ってきたから協力する。それが俺のやるべき事だと思っているし、やりたいと思っているから…皆んなはどうする?其々に何処かの専属としても自分でもやっていけるだけの力もある。このまま組織としてやっていくというのならその中から次のマスターを選任する…」
キースは言った。
レイリーに助けられたと言っていた女性と何人かの者達は承諾した。
キースの後ろにいたさっきの女性が言った。
「私は《風のリー》に助けられました。あの時私は思ったんです。彼女のようになりたい…彼女のように輝いていたいと…だから私聞いたんです。」
「『貴女の様な女性になりたい‥こんな私でも貴女の様に輝く事が出来ますか?』」
「覚えてくださっていたのですか…」
女性が言った。
「ええ…あんな風に言われたのは初めてだったしとても嬉しかったから…」
レイリーが答えた。
「そして貴女は『あなたはあたしの様にではなくあなたらしく輝けばいい…自分を大切にしなさい。自分を卑下しない事よ‥やりたい事があったらそれにトライしてご覧なさい。もしそのトライが失敗してもあなたにとって必ずプラスになる事があるはずよ…それを土台にしてその時やりたい事にトライすればいいじゃない…とにかく何でもトライしてみるのよ。そうすればあなたに合った‥あなたが心の底からやってみたいと思う事に出会えるわ。そしてあなたはあなたらしく輝く事が出来ると思うの…挑戦してみてネ!』って答えてくれた。
私はその言葉を指針にしてやってきた。その言葉通り私はこの仕事に出会う事ができた。
私が今 やりたい事…それはこの仕事を通して多くの人達の為に働く事…そのチャンスを今貴女が提示してくれた。
私は私らしく輝いていたいから、それが私の生き方だからプランの仲間が他に誰もいなかったとしても私は私の意思であなたに協力していきたいと思っていました。」
その女性が言った。
「あなたの名前 まだ聞いていなかったわね。名前は?」
レイリーは言った。
「フレリシア フレリシア・バードンです。皆んなからはリシアと呼ばれています。」
「そうリシアって言うの…リシア有り難うあんな風にあたしの事を言ってくれて…リシア 今のあなたとっても輝いているわ。」
レイリーがそう言うとリシアは一瞬目を見開きその目から涙が溢れた。
「有り難うございます。」
リシアはお礼をいうと掌で顔を覆った。
「後の皆んなは、もう少し考えてみてくれ!嫌なら嫌と本音を言ってくれて構わない。これから始まろうとしている戦いは普通の戦いではない。参謀としてでも命の危険に晒される事を避ける事は出来ない…」
キースは言った。
キースの組織の仲間達は少し話し合ったかと思うと承諾の答えが返ってきた。
「マスター 僕達は今のこのムードに流されているわけではありません。これから先もこの仕事に関わるなら、おそらくこれから始まろうとしている戦いに無関係ではいられなくなる。依頼される仕事も徐々に対魔道士の戦略が多くなってきている。だったら皆さんと一緒に協力し合ってやっていく方が合理的に思います。友人も増えますしね…」
「当然人数が多い分トラブルもあるかと思いますが、同じ目的を持った者同志理解し合えるのではないかと思います。同じ大きな目的を持った総合組織の仲間としてやっていけるという事は素晴らしい事だと思います。」
「今までだって組織同士協力した仕事はいくつもあったし…」
賛成の声があちらこちらから上がり同意を示す大きな拍手に変わっていく。
「皆んな 有り難う!」
リーダー達は大きな声で叫んだ
「ここに 総合組織として新たな出発を宣言する!」
リーダー達から促されたレイリーが言った。
こうしてそこに新たな深い友情が結ばれた。