お兄様たちは姫様がお好き
「姫様はお兄様がお好き」
というお話の続きのお話です!
ぜひそちらからご覧ください!
「お兄様、見て下さい!皇后陛下がプレゼントをくれたんです!」
「…母上が?」
「はい!」
ジェネロジテ皇国が第一皇女ラフィネ・オベイサン・ジェネロジテ。皇女とはいえ側妃ですらないメイドの子で後ろ盾はなく、そもそも母はラフィネを国王に引き渡す際に手切れ金を渡されており頼れる存在も少ない。さらに皇后からは疎まれ、憎まれている。
そんな危うい立場のラフィネを守るのは二人の兄。
皇后の子で皇太子である長兄、ディニテ・タシチュルヌ・ジェネロジテ。
そして同じく皇后の子で第二皇子であるエムヴァン・テチュ・ジェネロジテ。
表立ってラフィネを庇うことはないが、裏でこっそりと守っている兄二人の庇護のもと皇女として過ごしていた彼女だが…ここに来て、急に皇后が動き出したらしい。兄二人は一瞬で警戒する。
「封は開けたか?」
「いえ、お兄様と一緒に開けたくて!」
「…ラフィネ、俺と手を繋いでおけ」
「え?」
「封は俺が開ける。いいか?」
困惑しつつも頷くラフィネ。長兄がラフィネと手を繋いで防御魔法を本人には気付かれないように展開して、次兄も自分に防御魔法を張った上でプレゼントの封を開ける。
…中身はぬいぐるみの入った箱。
次兄は少しほっとしつつ、念のため防御魔法は解かずぬいぐるみの封も開ける。すると、箱から大量の呪いの雲が溢れた。
防御魔法のおかげで全員無事。とはいえ呪いの雲が部屋の外に漏れたらまずい。長兄が防御魔法はそのままに、収集魔法で呪いの雲を全て集めて手持ちの空の瓶に詰める。
この瓶は本来、自分に対する毒殺未遂が起きた際証拠を残すためのもの。毒殺されそうになったところで大抵自力で魔法を使って回避してしまう長兄だから持ち歩いているものだったが、まさかこんな形で使うとは。
「…母上め。最悪俺たちごと消す気だったな」
「うへぇ…」
間違いなく全ての呪いの雲を回収したのを魔法で確認してから、全ての魔法を解く。
ラフィネは首を傾げている。自分の身に何が起きたかわかっていない。
「お兄様、今のは?」
「お前は知らなくていい」
「ちょっと俺と二人でお留守番できるか?」
「ん?…うん!!!」
ということで、次兄がラフィネの面倒を見ている間に長兄が父である皇帝のところへ怒鳴り込んだ。
ディニテは皇帝に、呪いの粉を証拠として呪殺未遂が起きたことを訴える。やったのが皇后だということも付け加えた。
妹を狙ったものだが、一歩間違えばいつも一緒にいる皇太子である自分も危なかった。第二王子である弟も。
全ては今までラフィネを危ない立ち位置のまま放置した結果だと父である皇帝を怒鳴りつけた。
「…わかった。なんとかしよう」
「そもそもメイドに手を出したのが間違いだったのです。自分の不始末が原因なのですから、適切に対応してください」
「簡単に言ってくれるな…」
困った顔をする皇帝にキレそうになりつつ、ディニテはラフィネの元に戻る。
皇帝は、即座に皇后を離宮に隔離するよう指示した。
表向きには病気で療養が必要ということにして、幽閉する。
それしか愛息子を守る術が思いつかなかった。娘はともかく、優秀な息子たちごと殺そうとするなら問題だ。
…皇帝は、ラフィネのことをなんとも思っていなかった。ただ、息子は二人いるが娘はいなかったので政略結婚に使うのに引き取っただけだった。
結局のところ。
息子二人が憎き姫と一緒にいることに我慢が出来なくなった皇后は姫を呪殺しようとしたが失敗して、離宮に幽閉された。
息子二人も巻き込まれて死んでもいいとさえ思っていたが、皇后が自分の腹を痛めて産んだ子は思った以上に優秀だったらしい。
皇后は幽閉生活を泣いて過ごしていた。しかし、皇后が泣くといつも慰めて宥めてくれていた息子二人は会いに来てはくれない。
…ああ、間違えたのだとようやく気付いた。気付くのが少し遅すぎた。
「…お兄様、なんか最近落ち込んでる?」
「ん?ああ…そうだな」
「大丈夫だって。気にすんなよな」
「んー…お兄様、あのね。皇后陛下はきっとすぐに病気治してくれるよ!だから大丈夫!」
無邪気なラフィネは、自分がされたことを理解していない。そして、皇后が病気から回復するのを心から祈っているし信じている。
そんなラフィネの励ましに、逆に傷を抉られて…でも、そんなラフィネが可愛くて。
次兄は、初めてラフィネの頭を撫でた。皇后は幽閉生活なので、もうラフィネを拒絶する必要もなかった。
「お兄様?」
「今までごめんな、ラフィネ。お前はこの国の姫だし、俺たちの可愛い妹だよ」
「…!!!」
「そうだな。大事で大切な愛する妹だ」
「!!!!!」
ラフィネは兄二人から、初めて姫であると認められた。そして〝大事で大切な愛する可愛い妹〟と殺し文句付きで、妹であることも初めて認めてもらえた。
それに驚愕し、そして…心の底から喜んだ。
「お兄様っ…う、うえーんっ!!!」
「な、どうした!?」
「お兄様が認めてくれたぁー!!!嬉しいっ…!!!嬉しいよぉっ…!!!!!」
「そ、そっか。今までごめんな」
「いいのぉー!!!大好き、お兄様ー!!!」
兄二人はラフィネを抱きしめて、よしよしと頭や背中を撫でてやる。
落ち込んでいた様子の兄二人は心配だったが、ラフィネはしばらく喜びと感動に泣きじゃくりながら浸っていた。
そんなラフィネを兄二人は表立って溺愛するようになる。…相変わらず、口では素直ではないが。
そんな皇子二人の様子に、周りもラフィネへの対応を改める。
ラフィネはより幸せで安全な毎日を送れるようになったのだった。
【長編版】病弱で幼い第三王子殿下のお世話係になったら、毎日がすごく楽しくなったお話
という連載を投稿させていただいています。よかったらぜひ読んでいただけると嬉しいです。