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|||||||||||||||ドミノ|||||||||||||||  作者: 仙葉康大
呑神狂鳴の最終章
25/27

がんばりなさい

 だるい。やる気が起きへん。

 ドミノ選手権で優勝したこともあって、今年の文化祭、開会式でドミノを披露することになった。悪い話やない。なのに、まったく燃えへん。なんでやろ。

 クラスの連中は大学受験に向けて猛勉強。俺はどないするかな。勉強したところで行ける大学なんかないやろ。なら就職か。アホ言え。俺を雇う企業なんかじきにつぶれるで、ほんま。

 授業が終わり、放課後。新内が教室にやってきた。

「どうするの?」

「なんや急に」

「急じゃないわよ。もう三日も前から催促してるでしょ。文化祭で並べるドミノの設計図。そろそろ決めないと間に合わないわよ」

「ああ、その話かいな」

「ほかにどの話があるのよ。吞神君、あなた最近少し変よ。覇気がまるでなくなっちゃって。どうしたっていうのよ。まさかドミノ選手権で優勝して燃え尽きた?」

「かもな」

「あなたのドミノに対する情熱はその程度のものだったの?」

「みたいやな」

 俺は席をたち、新内を残して教室をあとにした。

 秋晴れの校門によく知った顔を見つける。

「部外者立ち入り禁止やで、ウチの高校」

「それは心得ている。だからこうして校門の外でお前を待っていた」

「それは行儀のいいことで。で、わざわざなんの用や? 土多摩」

「いやなに、今日学校でこんなものを渡されてな」

 それは紙だった。やけど、俺ら三年にとっちゃただの紙やない。

「進路希望の紙やないか。なんや土多摩。まさかお前、俺に進路の相談するつもりかいな」

「まさか。逆だ。お前の進路の相談にのってやろうと思ってな」

「余計なお世話じゃ、ボケ」

「そういうな。俺は部活を引退した。暇だ。だから暇つぶしにお前の進路相談にのってやる」

「帰れ帰れ。帰って己の受験勉強せい」

 銀杏の葉を蹴散ちらしながら、足早に土多摩の横を通り過ぎる。

「俺は以前、お前に無責任なことを言った」

「はあ?」

 俺は振り返る。

「世界に羽ばたき、プロのドミナーとして活躍すべきだと言ったことがあるだろう」

「それも悪くないかもなって今は思てるで」

「嘘だな。今のお前はドミノに対する興味を失いかけている」

「な、なんでお前にそんなことわかるんや」

「わかるさ。会って目を見れば」

 ガキの頃からの付き合いや。お互いのことはよお知っとる。ライバル。そんなぺらい言葉じゃ足りへんぐらいの相手。そいつが言うんなら、間違いない。俺のドミノへの熱はもう冷めたっちゅうことや。

「お前はどうなんや。大学行ってもドミノ続けるんか?」

「無論だ。そしてそこにはお前もいる」

「は? なにいうてんねん」

「吞神、俺と同じ大学を受けろ」

 冗談言うなや。俺は笑いながら言う。

「受けろってお前と俺、偏差値三十は違うぞ。受かるわけあらへん」

「勉強しろ」

「なんでそこまでしてお前と同じ大学いかなあかんのじゃ」

「愚問だな。ドミノをするために決まっている」

 このアホ、ため息出てくるわ。

 俺はその場にうんこ座りして言う。

「なあ、志望校一つか二つ落としてくれへん?」

「ありえないな」

 ありえへんか。ほんま、俺の人生、ありへんことばっかり起こるよるわ。

 あきらめて立ち上がる。

「んじゃ、ボコスカ勉強したるわ。でもって、お前と俺でほかのドミナー全員ぶったおす」

「ドミノ云々の前にまずは受験に合格できるかどうかだな」

「わーっとるわボケ。ところで土多摩。玄武のドミノ部は今ヒマなんか?」

「なんだ? やぶからぼうに。まあ、選手権も終わって、みな、気が抜けていることは確かだな」

「よっしゃ、なら決まりやな」

「また悪いことを考えてるな」

「察しがええやないか」

「何年の付き合いだと思ってる? お前の考えてることなどだいたい想像はつく」

 俺が史上最凶に下卑た笑みを浮かべると、土多摩はやれやれと言わんばかりに眼鏡を押し上げた。

 次の日、文化祭で並べるドミノの設計図を提出したら、新内が顔面蒼白で聞いてきた。

「これ、本気?」

「本気や本気。こんぐらいせんと盛り上がらんやろ」

「うちの部の人数でこのドミノは無理だと思うけど」

「心配いらん」

「そう。わかりました」

「なんや、今日はえらい聞き分けがいいやないかい」

「一年のころからの付き合いですもの。あなたがやると言ったら、こっちが何を言っても聞かないのは知ってるわ」

 軽いため息をついて、新内は問う。

「ところで、進路は決めたの?」

「ああ、なんや、担任でもないのに俺の進路、気にかけてくれとったんか?」

「進路希望調査票まだ出してないって聞いたから」

「それなら今日出したで。大学受験することにしたわ」

「そう」

「驚かへんのか」

「もう何言われても驚かないわよ。大学でもドミノはつづけるの?」

「まあな」

 新内はうなずき、俺から目線を外すと、パソコンを打ち始めた。俺は言葉を探す。いや、探すまでもないねんけどな、ほんまは。何を言うべきか、そんなことはわかっとる。

「文化祭のドミノが残っとるから、引退はまだやけど、今言っとくわ。世話になった。おおきにな、新内先生」

 新内は微笑して、

「がんばりなさい」

 とつぶやいた。


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