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|||||||||||||||ドミノ|||||||||||||||  作者: 仙葉康大
呑神狂鳴の第三章
18/27

勝機

 油の跳ねる音が小気味いい。

 土多摩の実家は商店街の肉屋で、総菜のコロッケなんかも作っている。

「はいよ、狂鳴ちゃん」

 恰幅のいいおばちゃんが、揚げたてのコロッケを耐湯袋に入れ、俺に手渡す。

「おおきに、おばちゃん」

「狂鳴ちゃんがこんなに大きくなってるなんて、私も年取るはずだわ」

「何言うてんねん。おばちゃん、まだまだわこお見えるで」

「やだね、この子は」

「いただきます」

 一口かじる。衣がサクっと音を立てて、じゃがいもと肉のうまみが広がる。

「やっぱこの味や。コロッケはここのが一番や」

「はい、もう一個」

「えらいすんません」

 そのタイミングで他のお客さんが来た。肉屋は夕暮れ時のこの時間帯から夜にかけてどんどん客が増えて来る。俺と土多摩は軒先に出て、コロッケかじりながら途方もない夕暮れ空を眺める。

「偵察のかいはあったか?」

「今のウチじゃ勝たれへんってことはわかった。お前ひとりと有象無象ならなんとかなったんやけどな。あの副部長が邪魔や、邪魔すぎる」

「去年から最も伸びたのが律田だからな。あいつは来年には俺を超える」

「そりゃ言いすぎやろ」

「そうでもない」

 そりゃ、化け物や。いや、最悪、今日の勝負きっかけでさらに伸びるで、あの女。そうなったらウチの勝機はゼロやゼロ。あほんだら。

「お前のところの後輩はどうなんだ? 倒山流の長女と活きのいいいいルーキーが入ったと聞いているが」

「悪くはないねん。でも、あの二人じゃ力合わせても律田には勝たれへん」

「ルーキーはともかく、倒山流の方が律田に勝てないとは、おかしなことを言う」

「去年の倒山一花、正確には選手権の決勝で大失態犯す前の倒山なら、お前のとこの副部長にも負けへんやろな」

「まだスランプを脱していないというのか? 朱雀高校には勝ったのだろう?」

「スランプもイップスも脱したわ、ボケ。でもな、あいつは半年以上、牌を握らんかった。腕が鈍らんはずないねん。今のあいつに昔の切れ味はない。なまくら振り回しとるだけや。やから俺でもお前でも律田でも朱雀の綺羅崎でも、個人戦申し込めば、倒山一花なんか瞬殺や」

「ならばルーキーの方は?」

「問題外。あいつじゃ逆立ちしても律田には勝たれへん。ドミノにかけてきた努力の総量が違いすぎるわ。ぽっと出の並川が、集中力と才能だけで勝てるほど、ドミノは甘くないねん。そんなこと、お前が一番よおわかっとるやろ」

 土多摩はコロッケをかじるのをやめ、鼻で笑い言う。

「つまりは三人の内、この一年間で一番努力したのは、ウチの律田だということだな」

「しゃくやけどなあ。おかげでウチは勝たれへん。お前んとこに三連敗や」

「勝ちたいか?」

 思わず笑ろうてまう。

「教えてくれるんか? 勝ち方」

 土多摩はニヤリと笑う。

「個人戦に出ればいい。そうすればお前は勝てる」

「アホ。お前が出んへん個人戦で優勝しても意味ないやろ。それとも今年は個人戦出るんか?」

「俺は勝てない勝負はしない主義だ」

「やろな」

 万策尽きたわ。

「もう一度言う。個人戦に出ろ、吞神。高校でも一度は優勝しておいた方がいい」

「まあ、その方がプロ試験も通りやるくなるやろな」

 中学時代に個人戦で三連覇はしてんけど、高校時代の成績が全然パッとせえへんかったら、俺のドミナーとしての実力が衰えてるみたいに映るからな。

「お前はこんなところで立ち止まっていい人間じゃない。さっさとプロになって世界にはばたけ」

「なんやそれ」

 胸糞悪くて俺はコロッケをものすんごい勢いでたいらげて、衣のついた手を手ではたいて言う。

「個人戦にはでえへん」

「吞神」

「二連敗やぞ。団体戦で。お前に。その悔しさ、お前にはわからんやろ」

「わかるさ。俺は中学時代、お前に三連敗した」

「個人戦でな。こっちは団体戦で負けとんじゃ。それじゃあまるで俺に他の奴等を束ねるだけの器がないみたいやないか」

「そうだが?」

 腹立つわ、こいつ。

「覚悟しとけや、土多摩。今年の選手権は何が何でもウチがもらう」

「さっきまで勝てない勝てないと言っていた奴がよく言う」

「さっきはさっき。今は今や。勝つったら勝つんじゃ、ボケ」

 無茶苦茶なことを口走って、俺は土多摩の母ちゃんにごちそうさまでしたとお礼を言い、自分チに向かって走り出す。まずは設計図を完成させる。んでもってあの二人を死ぬほど鍛えあげる。帰宅部の奴等は、まあええ。

 家に着くまでの帰り道、勝機は一つも落ちてへんかった。

 部屋にこもり、設計図を書くためにペンを握る。その手の中に勝機があると信じて。


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