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|||||||||||||||ドミノ|||||||||||||||  作者: 仙葉康大
並川七実の第三章
14/27

朝練

 青龍高校バスケ部は県大会準決勝で、強豪の白虎高校に敗れた。

 スコアは17―89。大差だった。

 バレー部も全国大会には進めなかったので、朝の体育館はずいぶんと静かになった。

 朝練に来ているのは、私ひとり。

 どうせなら広くスペースを使おう。ステージだけでなく、コートにもドミノを並べていく。

 熊谷さん、落ち込んでないといいけど。

 昨夜、お疲れ様とLINEでメッセージを送ったけど、返事はなかった。大丈夫かな。

 ドミノを並べていく。集中するにつれて雑念が消え去り、心が凪のような状態になる。

「並川さん、おはよう」

「わっ」

 急に背後から声をかけられてびっくり。振り返る。

「熊谷さん」

 体操服を着て、バスケットボールを小脇に抱えている。

「どうしたの? 今日も朝練?」

「ううん、今日は答え合わせをしに来たの」

 熊谷さんはさびしそうに笑って言う。

「並川さん、もう一度、私と1on1で勝負してくれない? 今度は本気で」

 私はこの前も本気だったと言おうとして、やめた。勘づかれているのなら無意味だ。

 ジャンケンで最初に攻める方を決める。私が勝ったので、ボールをもらう。

 細かくドリブルを突いて、鋭く切り込む、と見せかけて、ミドルシュート。

 ボールは大きな弧を描いて、リングに当たることなく、ネットに吸い込まれる。

 次は熊谷さんが攻める番だ。私は手堅く守る。ディフェンスは得意だ。

 熊谷さんはシュートのフェイクを入れてドリブルで強引に突破しようとした。

 私は焦らずに対処する。フェイクは見え見えだった。

 ドリブルのリズムが乱れた刹那を狙って、ボールを手ではじく。

 熊谷さんの攻めは失敗に終わり、再び私が攻める番。

 ミドルシュートを警戒して、熊谷さんは距離を詰めてきた。

 ゆったりとボールをつきながら横に流れていき、クロスオーバーで一気に抜き去る。

 レイアップシュート。入った。

 つづいて熊谷さんのターン。

 大柄の彼女が放ったミドルシュートは、リングに当たり、リバウンドを私が制した。

 再び私が攻める。チェンジオブペースからのフェイダウェイで綺麗に決める。

 これで3―0。あと二本取れば私の勝ち。

 だけど、熊谷さんは息を切らして、その場に倒れこんだ。

「やっぱり、全然強い」

「ごめん」

「いいよ。本気出さなかったのは、大会前の私を気遣ってのことだと思うし。小龍中でベンチに入ってたんだもんね。私なんかが敵うわけない」

「フィジカルでは熊谷さんの方が圧倒的だよ」

「フィジカルだけ強くっても強豪校には勝てない。昨日もそうだった。私の方が身長もあるし、体格もいいのに、白虎のエースを全然止められなかった」

 白虎高校バスケ部は、インターハイ常連だ。

 そこのエースはちょっとやそっとのディフェンスじゃ止まらないだろう。

「どんだけがんばっても、環境ってあるよね。毎年全国大会に行くような学校には、やっぱり敵わない」

「そんなこと――」

 ないとは簡単には言いきれない。

「高校に入学したばかりの頃は、卒業するまでに全国制覇するぞって意気込んでたけど、昨日、わかった。ウチは全国制覇どころか、予選も突破できないって」

 熊谷さんが上体を起こした。気が抜けたような顔で言葉を継ぐ。

「なんか吹っ切れたし、これからは努力なんてせず、楽しむことを目標にしようかな。がんばっても報われないだろうし」

 努力は報われない。

 そのことは、中学時代、一度も試合に出れなかった私が一番よくわかってる。

「それもありかもね」

「否定しないんだ」

「まあ、熊谷さんの言うことも一理あるかなって」

 熊谷さんがゆっくり立ち上がる。

「並川さんが高校ではバスケ部に入らなかった理由、今なら理解できそうな気がする。私も大学では全然別のサークルに入るかも」

「そっか」

 この人を止める言葉を私は持っていない。

「じゃあ、私、教室行ってる。朝練、がんばって」

去り行く熊谷さんに私は言う。

「よかったら」

 振り返る熊谷さん。

「よかったら、私が並べたドミノ、見てみない?」

「倒すの? 見る見る」

 ステージに行き、蛇のようなドミノのしっぽに触れようとして、思いとどまる。

「熊谷さんが倒して」

「いいの?」

 熊谷さんの骨ばった指がドミノを押し倒した。

 次々と倒れていく。軽快に。

 ステージを埋め尽くしていたドミノは、数十秒ですべて倒れてしまった。

 熊谷さんが拍手する。

「すごい。あっと言う間だったけど、すごかった」

「ありがとう」

「この後どうするの? 片付けするなら手伝うよ」

「うーん、まだ時間あるから、また一から並べよっかな」

「全部倒れたのに、また一から?」

「うん」

 私ははにかみながら言う。

「まあ、並べても、結局はまた倒しちゃうんだけどね」

 熊谷さんは思うところがあったのか、重たい声音で訊いた。

「虚しくなったりしないの? 並べて倒しての繰り返しなんて」

「ならないよ。並べるの楽しいし、倒れるところ見るのも楽しいし、それに、全部倒れちゃったとしても、残るものはあるから」

 私が熊谷さんに1on1で勝てた理由。中学三年間が私に残したもの。

「報われないけど、無駄でもないよ、きっと」

 私がそう言うと、熊谷さんは一人うなずいて、ボールをつき始めた。

「まだ時間、あるよね?」

「うん」

「私も朝練していく」

「うん」

 朝日差し込む体育館で、私たちは朝練をする。

 ドリブルの音が響く中で、カタリ、という小さな音とともにドミノが立つ。

 まだ、時間はある。


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