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|||||||||||||||ドミノ|||||||||||||||  作者: 仙葉康大
並川七実の第三章
13/27

1on1

 ドミノ部の活動は毎日ある。活動場所は体育館のステージ上。

 バスケ部やバレー部が休みの日は、コートも使ってドミノを並べていく。

 四月が過ぎ去り、ゴールデンウィークが明けると、運動部の練習が熱気を帯びてきた。

 もうすぐインターハイの予選が始まる。

 昼休み、お弁当を食べながら、熊谷さんが珍しく弱音を吐いた。

「特に朝練がきつい。私、早起き苦手だから。それに、先輩たちもピリピリしてる」

「あー、あるある。大会前は大変だよね」

「ごめん。私ばっかりしゃべって。ドミノ部の方はどう?」

「まあ、ぼちぼちやってる感じかなー。ウチは大会までまだまだ日があるしね」

 ドミノ部の大会、全国ドミノ選手権は毎年九月に開催される。

 ドミノ部は全国的に数が少ないので、県大会や予選はなし。いきなり全国大会。

「バスケ部の県大会っていつ?」

「六月。でもまだレギュラーメンバーも発表されてない。一年でも実力があればメンバーになれるって監督は言ってたけど、実際のとこはわからない」

「なれるといいね」

「せめてベンチには入りたい」

 そんな会話を交わしたその日の放課後の練習で、バスケ部のレギュラー発表があった。

 私は体育館のステージ上でドミノを並べながら、その発表に耳を澄ませていた。

 監督がレギュラーメンバーの名前を読み上げていく。

「熊谷曜子」

「はいっ」

 すごいなあ。一年でレギュラーなんて。

 私もがんばろう。そう思って次の日から朝練を始めた。

 ドリブルの音やレシーブの音を聞きながら、ドミノを並べる。

 ステージ上には私以外誰もいない。

 呑神先輩は朝が弱いし、帰宅部の人たちは自主的に練習したりしない。

 一花ちゃんは、朝練なんてしなくていいぐらいにドミノが上手い。私以外みんなうまい。

 並べる、並べる、並べる。

 なんか一人で練習していると、中学時代のことを思い出す。

 バスケ部だった私は、休日も一人で自主練していた。レギュラーになりたいと思っていた。

 練習だけは死ぬほどした。フリースローなんて百発百中の域に達していたもんね。

 でも、レギュラーにはなれなかった。

 周りがすごすぎた。私の三年間はベンチを温めるだけで終わった。

 始業開始五分前を告げるが予鈴が鳴った。

「え? 嘘、もうそんな時間?」

 気が付くと、バスケ部もバレー部も朝練を引き上げていた。

「やばいやばい。早く片付けないと」

 ステージ上にこれでもかと並べまくったドミノをつかみ、コンテナにしまう。

「大丈夫? 手伝うよ」

 あたふたしている私に救いの手を差し伸べたのは、熊谷さんだった。

「ありがとー、めっちゃ助かる」

 速攻で片づけて教室までダッシュした。朝の空気がいつもとまるで違う味がした。

 六月に入ると、ドミノ部は体育館を追い出された。運動部の邪魔になるという理由で。

 いつもは天上天下唯我独尊な呑神先輩も今回はおとなしく引き下がった。

「まあ、インハイの予選近いしな」

 三年生にとっては最後の大会。その重みは同じ三年の先輩もわかっているのだろう。

 そういうわけで、暫定的に放課後の活動場所は屋上になった。

 雨が降った日は特別教棟4階の人気のない廊下を使わせてもらう。

「並川、お前、最近あんまドミノ倒さへんようになってきたな」

「私だって日々成長してるんですよ、先輩」

 朝練は続けていた。

 運動部にいつ出ていけと言われるか、怯えていたけど、そんなことは起こらなかった。

 一人で、静かにドミノを並べている分には練習の邪魔にならないらしい。

 六月は梅雨だからか、時間の流れもどんよりとしていてのろい。

 ドミノを並べて授業を受けて、またドミノを並べる。その繰り返しの日々。

 気づくと、バスケ部のインハイ予選、総体の県大会が今週末に迫っていた。

 大会直前だからか、今週はバスケ部の朝練も控えめだ。

 ハードな練習はせず、各々がコンディションを整えているという感じ。

 バッシュのキュッ、キュッという音を聞きながらドミノを並べていると、声をかけられた。

「並川さん、お願いがある」

 熊谷さんだった。体操着にオレンジ色のゼッケンを着ている。

「お願い? 何何?」

「私と1on1(ワンオンワン)で勝負してほしい」

「へ?」

 私は思わずドミノを落とす。並べたドミノが音を立てて倒れていく。

 色々思うところはあった。

 けど、熊谷さんはからかいや遊び半分の気持ちで言っていない。それはわかった。

 なら、私の答えは一つだ。

「いいよ。受けて立つ」

 予鈴が鳴った。始業まであと五分。

 朝練をしていた運動部の人たちは更衣室へと急ぐ。

 私と熊谷さんだけは体育館に残った。

 センターラインを挟んで向き合う。

「五本先取でいい?」

 私はうなずく。

「できれば一本目は私、ディフェンスがいいんだけど、いいかな?」

「もちろん」

 熊谷さんが私にボールをパスした。

 私は久しぶりのバスケットボールの感触を一瞬だけ味わい、ボールを熊谷さんに投げ返す。

 1on1スタート。

 熊谷さんの鋭いドリブル。抜かせない。ゴールまでまだ距離はある。シュートはないはず。

 久しぶりで体がなまってる。でも、何とか守れてる。体が勝手に動く。

 熊谷さんの視線の意図を読む。体の重心はどっちか。へそはどこを向いているか。

 攻めあぐねる熊谷さん。今。ボール奪取のチャンス。

 瞬間、私は手を伸ばすのをためらった。

 それがバレないよう、必死の表情で守りに徹する。距離をわざと開けてみる。

 シュートを打たれる。

 バスケットボールはリングに吸い込まれた。

「うわー。やっぱり熊谷さん強い」

「次は並川さんが攻める番だよ」

 そう言って熊谷さんは私にボールをわたした。深呼吸して気持ちをリセットする。

 ドリブルで前へ、前へ。熊谷さんの体はでかい。フィジカルじゃ私の方が劣る。

 それでも前へ。はじかれる。熊谷さんは全然シュートを警戒していない。

 あくまでドリブルで攻める。隙を作ると、間髪入れず熊谷さんの手が伸びてきた。

 飛んでいくボール。

「あちゃー。失敗失敗」

 明るく笑いながら、走ってボールを取りに行く。

 ボールは私と熊谷さんの手を何度も行き来して、決着のときが訪れた。

 息が切れた。

 久しぶりに本気で走った。

 1on1は、5―2で熊谷さんが勝利した。

「やっぱ現役でやってる人には敵わないよ」

「並川さんの体がなまってなかったら、負けてたかも」

「アハハ。ないない。フィジカルも技術も熊谷さんの方が上だよ。てか、なんで急に1on1やろうなんて言い出したの?」

 熊谷さんはシュートを撃つ体勢になり、リングを狙いながら答えた。

「恥ずかしいぐらい自分本位な理由。並川さんに勝ったら、自信になると思った」

「私が小龍中学バスケ部のOGだから?」

 うなずく熊谷さん。私は笑って言う。

「熊谷さんは私なんかよりずっとうまいよ。インターハイ、行けるといいね」

「がんばる」

 熊谷さんの放ったシュートはリングに強気に当たりながらネットを抜けた。


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