信じてみよう
遅い。あの男は何をしているのだろうか。始業まであと二、三分しかないというのに、まだ校門に現れない。
「おい、そこの一年、早く教室に行かんか。もうすぐ朝礼が始まるぞ」
赤いジャージを着た生活指導の教師が、校門を閉めながら言った。
「かまわないでください。人を待ってるだけなので」
「その生意気な口の利き方はなんだ。教師に口答えするな」
めんどくさい大人は無視するに限る。
「おい、なんとか言え」
肩をつかまれそうになったそのとき、閉まり切った校門を飛び越えてきた人がいた。着地した呑神狂鳴は、私に気づくと口笛を吹いた。
「なんや? 待ち伏せか? 倒山」
生徒指導の教師が怒鳴るのをスルーして、私は呑神狂鳴に歩み寄り、鞄から一枚の紙を取り出した。呑神狂鳴がのぞきこんできたところで、私はその紙、入部届を、顔面に叩きつけてやった。入部届を顔につけたまま、呑神狂鳴が言う。
「上等じゃ、ボケ。今日の放課後からみっちりしごいたるからな」
「ご指導ご鞭撻よろしくお願いします。先輩」
ドミノ部だけはやめておきなさい。お母様はそう言った。でも私は、もう一度だけ私を信じてみようと思う。呑神狂鳴がわざわざ勧誘に来る私のドミノを、おばあ様が好きと言ってくれた私のドミノを、何より、七実が目をきらきらさせてのめりこんでいくドミノの楽しさを、信じてみよう。




