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9.青年のスピーチ

※作者は魚類や虫類などを貶める気は全くございません。

 あくまでこの世界のこの国においては、ということですので

 あらかじめご了承くださいませ。

 放課後の空き教室で、ロンドさんは原稿片手に教壇に立っていた。


「以上の観点より、ウェンズ運河の利用は止め、代わりに運搬には飛行船を使用するべきです。ご清聴ありがとうございました」


 ロンドさんがぺこりとお辞儀する。椅子に座った私はそれに対してぱちぱちと拍手を送った。彼はにこりと笑って。


「さて、感想を聞かせてくれるかな?」


 促されて必死に感想を考える。出てきたのは月並みな言葉だけだった。


「……えっと。凄く聞き応えのあるスピーチだと思いました。というか、すみません。初耳の話が多すぎて、ちょっと反応し辛いです」

「そうか。何が初耳だった?」

「例えば、魔動力が水を汚染している可能性があるなんて私、知りませんでした」


 魔動力とは魔道具に充填された魔力のことだ。

 例えば私のローブの留め具も魔道具の一種で、これにより念じた言葉を学園の中継地点まで送ることができる。それを可能にしているのが魔動力である。

 そのように便利な魔動力が、何かに悪影響を及ぼす可能性があるとは聞いたこともなかった。しかしそう言うと彼は「まあ最近言われ出したことだからね」と苦笑気味に言った。


「水質汚染というよりも、正確には魚類が悪影響を受けているかもしれないという仮説によるものだけど」

「本来魔力を持たないはずの魚から魔動力らしき反応が見られたなんて……驚きです」


 動物と違って魚類や虫類などは魔力を持たない。それがこの国の通説だ。だから今では基本的に食されるのはそれらだったりする。この国の人たちは魔力を持たない種を軽視しがちなので。

 それはともかく。私は眉を潜めた。


「もし、その魔動力のせいで魚も魔力を持ってしまったなら」

「恐らくだけど、ほぼ確実に凶暴化するだろうね。こう言ったらあれだが、魔力制御可能なほど彼らの精神が発達しているようにはどうしても思えない」


 「まあこればかりは起こってみないと何とも言えないけど」と淡々と言う彼に私は本日何度目かの疑問をぶつける。


「っていうかやっぱりこの役目、私には荷が重過ぎると思います。政治に詳しい知り合いか魚に詳しいクラスメイトを連れてくるので、その人達にも意見を聞いた方がいいのではないでしょうか?」


 そう言うと彼は首を傾げた。そして徐に口を開く。


「どうして?」

「だって、私はそこまで政治の成績がいいわけではありませんし……適切なアドバイスができるとは思えません」


 政治に関しても決して成績が悪いという訳ではないけれど、努力だってしているつもりだ。しかしやはりその分野が得意な生徒には劣る。きっとその人の方が画期的な意見を出せるだろう。というのは昼休みに会った時にも伝えたのだが。


「昼休みにも言ったけど、僕はアドバイスが欲しい訳ではない。どちらかというとあまりこの分野に詳しくない人が、この話を聞いてどう思うか。それを知りたくてね」

「……なら余計に私でなくても、誰でもよかったのでは?」


 私はロンドさんの真意がどこにあるのか未だに掴めず、若干警戒していた。

 実際スピーチの聞き役になるのも最初は躊躇ったのだ。何とかして引き受けずに済む方法はないだろうかと考えた。

 しかし抵抗したら『受けてくれないのならこちらにも考えがあるよ』と笑顔で返され、怖くなってしまった。もしかして制約について言いふらされるのではないだろうか。そう思った私は結局引き受けて、今ここにいる。

 探るように彼の瞳をじっと見つめる。その様子に気がついたのか、彼は笑った。


「ごめん。どちらかというと、僕は君にこの話を聞いておいてもらいたかったんだ」

「私に?」


 思わず目を見開く。それを私が聞いたからどうだと言うのか。しかし彼は一つ頷くと、別の話題を出した。


「ところで、この前の話の続きなんだけど。君は教師を目指していないの?」

「え? えーっと……そうですね、目指していません」


 私は突然の話題転換に戸惑いながらも、冷静に答える。

 しかしロンドさんは納得いっていないように。


「本当に? その割に僕が教師を目指してるって言った時、食い付きっぷりが凄かったように感じたんだけど」

「うっ……」


 痛いところを突かれ、思わず変な声が漏れる。その様子を見て彼は笑った。


「その反応。やっぱり……」

「確かに、教師になれたならいいなとは思います。ですが私には制約があるので」


 彼が何か言う前に、はっきりと告げる。

 確かに目指せるものなら目指したい。だけどそう簡単な話ではないのだ。

 私には厄介な制約がある。後期課程に進学する時までに完全解除されていればいいが、その保証はない。つまり下手をすればまたバディ制度に頼る必要が出てくる。もう一度他人様に頼ってまで、進学する気にはどうしてもなれなかった。

 ちなみにカイトには初めて会った時に、このように釘を刺されている。


『俺がバディを務めるのは最長三年までだ。最悪前期課程を修了するまでは付き合ってやる。だが、それ以降は知らない』


 そうつっけんどんに言われたのだ。私としては三年間もバディを務めてくれると確約してくれたことだけでもありがたかった。なので、それに対しお礼を言ったのを覚えている。

 しかしそのことをロンドさんに掻い摘んで話すと、彼は眉を下げた。


「君が制約やバディ制度に縛られているのはわかった。でも僕はそんなことで夢を諦めるなんてもったいないと思うよ」

「ですが」

「君は我慢する必要なんてない。むしろもっと周りに迷惑をかけるべきだ」


 今度は私が言おうとした言葉をロンドさんが遮った。そしてぼそっと「そろそろかな」と呟く。


「そろそろ? 一体何の話……」

「ねえ、君が依頼を受けているのは何で?」


 何の脈絡もなく尋ねられて、私は驚いた。どうしてそんなことを聞くのか尋ね返そうとして、口を開く。


「欲しいものがあるから」


 ……あれ? 言おうとした言葉と違う言葉が口から飛び出た。不思議に思いながらも、何となくふわふわした心地のせいでその疑問は流れていった。


「自分の欲しいものすら与えてくれない家庭で育ったの?」

「いえ、家族はとてもよくしてくれます。魔法使いの家系に生まれたのにも関わらず、厄介な魔力持ちのせいで家督を継げそうにない私にも分け隔てなく接してくれて」


 さらさらと、普段言わないことまで話す私。ぼんやりとした頭の片隅でおかしいと声を上げている自分がいた。

 ロンドさんは口元に手を当てながら何事か呟く。


「家庭に問題はない、と。なるほど」

「……」

「それならどうして家族に頼まない? 君が欲しいと言えば用意してくれるんじゃない?」

「それは駄目です、それじゃあ本当の意味で私が贈ったことにならないから」


 だんだんまぶたが落ちそうになる。必死で耐えようとするも、急な睡魔に負けそうだ。


「贈る? 誰に?」

「カイトに……」


 ああ、駄目だ。私は完全にまぶたを閉じた。そして机に突っ伏す。


「ああ、もう限界か。それじゃあそのままでいいから話を聞いてくれ」

「……」

「魚類の件でわかったかもしれないが、魔力は後付けが可能だ。それでも君のような天然の魔力持ちには全く敵わない。……になる資格があるのは間違いなく」


 ロンドさんの声がどんどん遠ざかっていく。言葉が理解できない。


「あるいはこれが器の差ってやつなのかもね」

「……」

「じゃあね。君のバディには連絡しておくから、今はゆっくりお休み」


 頭を撫でられた気がして。気がついたら私は意識を手放していた。

基本的に動物=哺乳類&鳥類のつもりで書いています。

作中で表現できるか分からないのでこちらに書いておきます。

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