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15/22

15.聖ヴェール祭当日

長くなりそうなので分割します!

なお後半は(以下略)

 今朝はいつもと同じ時間に目が覚めた。とは言えお祭りが本格的に始まるのは午後からなので、待ち合わせの時間もそれに合わせてある。

 よって午前中はまだ時間がある。朝の支度を済ませて、朝食をとった後、私は時間潰しがてら課題に取り組んだ。


「あ、もうこんな時間」


 ふと備え付けの時計を見ると、昼ちょっと前の時刻を指している。私は思い切り伸びをした。


「そろそろ支度しないと」


 呟いて、いつものように制服を着る。一応校則で学園に所属する生徒は基本的に制服を着ることと決められているので。化粧などもご法度だ。


「でも、髪型には校則はないんだよね……」


 鏡に映る肩ぐらいで揃えられた黄髪(おうはつ)を眺めながら私は少し考えて。


「ちょっとだけおめかしして行こうかな」


 髪留めと櫛を取り出した。




 待ち合わせ場所のベリーフラワーの植え込みのところに行くと、カイトが既に来ていて、手持ち無沙汰にしていた。私は急いで彼のもとへ向かう。


「ごめん、待った?」

「いや、俺も今来たところだ。気にするな」


 そう笑いながら言う彼にほっと胸を撫で下ろした。

 「それじゃ行くか」と彼が歩き始めるのに合わせて私も隣を歩く。


「まずは腹ごしらえからだな」

「そうだね。何食べる?」

「うーん……とりあえず赤イカの串焼きが食べたい」


 とカイトが言うのでまずはその屋台を探すことになった。




 赤イカの串焼きや野菜の揚げ物などを買って、食べながら歩く。大方お腹が膨れたかなというところで、ふと甘い香りが鼻腔をくすぐった。

 何だろうとそちらを見ると、ベリーケーキの屋台があって。美味しそうだなとは思う。しかし。

 ちらりと隣のカイトを見る。彼は甘いものが苦手らしいから、ベリーケーキも食べないだろう。それなのに自分が食べたいからとわがままを言って、私の買い物に付き合わせるのは気が引けた。

 そんなことを考えていたら彼もこちらを見た。目と目が合う。


「どうした?」

「何でもないよ、気にしないで」


 首を傾げる彼に曖昧に笑ってごまかす。結局私はベリーケーキの話はしなかった。

 まあベリーケーキなら私も作れるし、今度自分で作るのもありだろう。




 ご飯を食べた後は適当に見せ物の屋台や、よく分からない置き物やアクセサリーを売っている屋台を冷やかしながら歩いた。

 そろそろ日が陰ってきた頃、今晩のメインイベントで使用する魔動風船の屋台を見つけたので物色する。


「どれにするんだ?」

「うーん、どうしようかなあ」


 言いながら、どれにするかはある程度決まっていた。今後のことを考えるとお小遣い自体あまり使いたくないし、目立ちたくないから派手なものも避けたい。結局私は地味な単色の魔動風船を選ぼうとしていた。

 しかしその前に店主がとんでもないことを言ったのだ。


「前に出してはいませんが、二つで対になっている風船もあります。せっかくですしそちらにしてはいかがですか? 今ならお安くしておきますよ」

「へ⁉︎ 私と彼はそんな関係ではないですよ!」


 私は驚いて頬を赤らめる。そして急いで否定した。

 このお祭りで対になる魔動風船を一緒に飛ばすということは、それすなわち恋人同士かそれに近い関係だと言っているのも同然だ。

 こんなことを言われてカイトもさぞかし驚いているだろう。そう思って恐る恐る彼の方を見ると。


「……」


 彼は機嫌が悪そうにむっとした顔をしていた。私は思わず凍りつく。

 何故彼がそんな表情をしているのか考えて、気がついた。それはそうだ、私なんかと恋仲だと思われるなんて不愉快に違いない。

 私は視線を落とした。熱くなった頬もすぐに冷める。


「店主」


 カイトが徐に店主に声をかけた。そして。


「その、対の魔動風船。何でもいいので一セットください」


 私はばっと顔を上げる。彼の真剣な横顔が目に映った。




「待って! カイト!」


 ずんずん歩いて止まる気配のない彼を私は引き留めようとする。慌てそうになるのを何とか堪えながら追いかけた。

 彼は人気のないところまで来ると突然こちらに向き直る。私はようやく彼が立ち止まってくれたと胸を撫で下ろした。そしてカイトの手にある魔動風船に目をやりながら口を開く。


「カイト、それどうするの?」

「どうするって、飛ばすんだが? 何か問題あるか?」

「問題ありまくりだよ! 下手したらとんでもない勘違いされちゃうよ?」


 何を思ったか知らないが、彼は対の魔動風船の代金を全額支払って、二つとも受け取ってしまった。そして私に一つを渡すとさっさと歩き始めたのだ。

 彼がその意味を知らないわけがないのに。どうしてそんなことをしたのかわからず、私は混乱していた。

 しかし彼は私の発言を受けて不機嫌そうに呟く。


「そんなに……は嫌か」

「え?」


 その声は小さくて肝心の部分が聞こえなかった。聞き返そうとするも、カイトはその前に首を横に振る。そして寂しそうに笑ったのだ。


「いや、何でもない。ごめん、確かにちょっと強引だったかもしれない。ルチルが嫌なら今から返品しに行こう」


 そう言って来た道を戻ろうとする彼。私はその腕を掴んだ。


「待って」

「……何だ?」


 カイトはあっさり立ち止まってくれた。そのことに安心しながら、私は彼と目を合わせて言う。


「私は……その。嫌じゃないよ」

「何が……」

「だから、カイトと一緒に対の魔動風船飛ばすの」


 そう言うとカイトは目を大きく見開いた。そして確認するように私に尋ねる。


「それは本当か? 気を遣ってるなら……」

「遣ってないよ」

「じゃあちゃんと意味わかって言ってるんだろうな?」

「意味はわかってる。でも……」


 私がそこで言い淀むと彼は焦れたように「何だよ」と聞いてきた。私は自分の頬が熱くなるのを感じながら、目線を逸らしつつぼそぼそと呟くように言う。


「恋仲だって噂されるのは、やっぱり恥ずかしいかも。それにカイトに迷惑かけちゃいそうだし」


 するとカイトも顔を赤くして、そっぽを向いた。


「そ、それはそうだな。迷惑だとは思わないけど……」


 そこで会話は止まり、気まずい空気が流れる。

 気がついたらもう夕方で。メインイベントが始まりそうだ。


「あ、あの。カイトが嫌じゃなければ……このまま飛ばさない? 風船」

「俺はいいけど……いいのか?」

「うん。ここなら誰にも見られないだろうし、私も大丈夫だから」


 私がそう言うと彼はこちらに視線を戻して、「すまん、ありがとうルチル」と笑ったのだった。

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