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13.贈る物とお祭りのお誘い

 そうして、計画が頓挫して。結局私は小鳥から人間に戻してもらう時に、その場限りの感謝の気持ちをカーレン君に伝えるだけしかできないままになってしまった。

 それでもどうにかして彼に何かしらお礼ができないか。そんなことばかり考えていたある日のこと。その日も私は小鳥になってしまって、仕方なく彼を呼んだ。

 元に戻してもらって、いつものように服を着終えたことを伝えようと振り向いたその時。彼が何事かぼそぼそとと呟いているのを偶然耳にしたのだ。


「やっぱり『魔動力変換器』がいるな」

「え? 魔動力……何?」


 私が聞き返すと、彼は飛び上がりそうなほど驚いた。


「うわあ! 何だよ驚かすなよ」

「ごめん、そのつもりはなかったんだけど。呟きが聞こえたから気になって。それよりも、その魔動力なんとかって何?」


 私は再度尋ねる。それに対し彼は少し迷う素振りを見せた後、言いにくそうに答えてくれた。


「魔動力変換器。人の持つ魔力を魔動力に変換する魔道具なんだが……」

「何かに使うの?」

「ああ、まあちょっとな」


 そう言いながら誤魔化すように笑う彼。その様子を見て少し気になったものの、私がそれ以上のことを追及することはなかった。

 何故なら、私の頭の中はあることでいっぱいになっていたからだ。ひょっとしたらこれは彼にお礼をするチャンスかもしれない。それさえ用意すれば、彼も喜んでくれるに違いない……と、そのことで。

 だから私は彼と別れた後、早速魔動力変換器について調べてみた。結果、それが安いものでも三万メル以上すると知る。

 一瞬諦めかけたものの、いやむしろそれくらいでないと今までの彼へのお礼にならないと、何がなんでもその魔道具を手に入れることに決めて。それから……。




「……きろ」


 ぼんやりとした頭の中に誰かの声が響く。何だろうと疑問に思ったのも束の間。


「起きろ! ルチル!」

「ひょえっ⁉︎」


 突然肩を揺さぶられ、びっくりして思わず顔を上げた。すると目の前に、カイトの端正な顔があって。私は訳もわからず混乱した。


「え、え? 何でカイトがここに? ロンドさんは?」

「おい、慌てるな。とりあえずおちつ……ああ、手遅れか」


 しゅううううと煙が立ち上る。あ、不味い。そう思った時にはいつだってすでに制約が発動した後なのだ。


「ちゅん、ちち……(ごめん、カイト……)」

「そんなにしょぼくれるなよ。驚かせた俺も悪いし、それに俺がいるところで発動しただけまだましだ」


 そう言うと、少し離れて呪文を唱える彼。私はいつものようにローブの前を合わせて元に戻る時を待つ。




「で? お前何でこんなところで寝てたんだ」


 ひと段落した後、改めてカイトに理由を聞かれた。私は少し考えて、ゆるゆると首を横に振る。


「ごめん、わからない。気がついたら寝てたというか……」

「はあ? 大丈夫なのか、それ」


 「ちゃんと寝れてないんじゃないか?」と、カイトが眉根を寄せて心配気に尋ねてくるので、私は安心させるように言った。


「大丈夫だよ、授業とかで寝ちゃったりはしてないし。こんなの今回が初めて」

「そうなのか? ……でもそれなら尚更」

「そ、そんなことより。カイトはどうしてここに? 教養科だよね、ここ」


 変に追及されると面倒なことになりそうだと思った私は、適当に話題を変えた。

 彼はまだ何か言いたそうにしていたが、やがて盛大にため息をつく。そしてやれやれとばかりに私の話題転換に乗ってくれた。


「それがさ、俺のところに匿名の伝書鳥が届いたんだよ。『ルチル・アルベットが教養科一階の空き教室で眠っている』って」

「匿名の?」

「そう。わかるのは学園の公衆用伝書鳥生成器を使って送られてきたってことだけだ」


 伝書鳥生成器とは、伝書鳥の魔法を単純化して魔道具化したものである。魔法と違って映像は送れない代わりに文字情報を送ることができて、また魔法使いでなくても離れた相手と通信ができるという点で優れている魔道具だ。

 学園内には公衆用の……メルを支払わなくてはならない代わりに、誰でも自由に使える伝書鳥生成器がいくつか設置されていて。私も家族と連絡を取る時に利用していたり、結構便利だったりする。

 そんなどうでもいいことを考えていると、彼が呆れたように言った。


「という訳で半信半疑ながら来てみたら、本当に机に突っ伏して寝てるんだもんな。お前はもう少し危機感を持つべきだ」

「うっ! ごめんなさい……」


 私は無駄に心配をかけた上、ここまで足を運ばせたことに対する申し訳なさで、彼に向かって謝罪する。その様子を見た彼は、慌てたように若干早口で言った。


「まあ今後は気を付けろよって話で……俺としてもちょうどよかったし」

「え? 何が?」


 思わず下げていた頭を上げる。彼の顔を覗き込もうとするがその前に逸らされた。彼はそのまま徐に口を開く。


「あー、その。今度さ、お祭りあるだろ? 聖ヴェールの」

「そうだね」


 聖ヴェール祭、というと暑くなり始める頃に国を上げて行われる大々的なお祭りのことだ。ヴェール・パルネリアと呼ばれる昔々の偉人が賢者になった日を祝うもので、授業もその日は休みになる。

 また街だけではなく学園内にも沢山屋台が出て、この学園が大層賑わう日でもある。私も去年はサーシャさんたちと一緒に出店を回った。非常に楽しかったのを覚えている。制約も発動せずにすんだし。

 しかしそのお祭りが今と何の関係があるのだろう。私は首を傾げた。


「その聖ヴェール祭がどうしたの?」


 尋ねると彼は一瞬言葉に詰まり。やがて視線をこちらに戻し、意を決したように言った。


「だから、その……一緒に回らないか? 祭り。二人で」

「え?」


 思っていなかったことを真剣な表情で言われ、固まる。それは一体どういう意味なのだろう。何となく頬が熱くなってきた気がした。


「あれだ、深い意味は特になくて! 祭りで万が一制約発動したらまずいだろ? その時に俺がすぐ側にいれば対応しやすいし。いや勿論二人が嫌ならサーシャさんたちも誘って構わないから……」


 段々尻すぼみになっていく彼の言葉。そうだ、深い意味などない。そのはずだ。私はあくまで冷静であれ、と自分に言い聞かせながら。


「……いいよ。二人でも」


 そう言ったのだ。その瞬間彼は大きく目を見開いて、確認するように聞いてきた。


「……本当か?」

「うん」

「無理してないよな?」

「してないよ」


 苦笑気味に答えると、彼は噛み締めるように「そっか……」と呟いた。そして満面の笑みをこちらに向ける。


「ありがとう、当日楽しみにしてる」

「こちらこそ誘ってくれてありがとう」


 私も笑った。心持ち顔を赤らめながら。

 ……うん、今年の聖ヴェール祭も存分に楽しめそうだ。

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