王宮で簿記は不要のようです 第一話
巨大な空間。金と赤色を貴重とした絢爛な内装。
取り囲むように居並ぶ人々。
よく見ると彼らは異質な出で立ちであった。
藍色のローブで全身を纏い、杖をこちらに向けて構えている。
杖は一様に先端に光を走らせており、不気味な気迫を帯びていた。
ローブ衆はその大勢が疲弊した様子で、ある者は今にも倒れそうな具合である。
「─―おぉ、ついに七勇の召喚に成功したか! ワハハハハッ! 」
その野太い声が響くや否やローブ衆は杖を納め腰を下ろし低頭した。
「よくぞ我が王国へ、いや、我が世界と言おうか。7人の勇者よ! 」
でっぷりと巨大なお腹。黄金の衣装に赤いマント。宝玉の散りばめられた杖と王冠。王冠から水が出ていると思わせるくらいの汗。傲慢そうな態度。
「――王様?」
誰かがそう口にして、アキトは思わずうなずいた。
(――ん? 誰か? )
アキトは横へと振り返る。そこには6人の見慣れた服装をした男女がいた。
彼らも一様に王様に視線を向け、硬直している。
「ふっふっふ。その通り。我こそはこのシロリア王国の原点にして頂点。第48代君主。ダマスクス・ウラン・シロリアにて――」
「っておい!!初音じゃねえか! って、勇樹、それに野々花、沙羅、国光! 」
長身でラガーマンを彷彿とさせる輪島和太郎が突如驚嘆とともに声を発した。
「えっ? 和太郎君、それに、みんなっ! 」
最初に「王様?」と口にした宇都宮初音がそれに続く。
「みんな! なんだ、これはいったいどうなってるんだ? 」
幸嶋勇樹が疑問を口にする。
「わかんない、わかんないよぉ~」
仲間がいることに安堵したのか、野々村野々花が今にも泣きそうな声で弱音を漏らした。
「確か事故にあってそのまま死んだはずですが――」
草薙国光がぼぞりとつぶやく。
「そうそう、俺も事故にあって――」
ある者は安堵、ある者は今にも泣きそうに、そしてある者はひたすら熟考するようにお互いにしゃべり始めた。
ひとり蚊帳の外のアキトは彼らをぼーっと見ていた。
するとしばらくしてその視線に気づいた一人、野々花とアキトの目が合う。
「キャーっ! 」
途端悲鳴をあげて手で目を覆う。
「どうしたんだ!落ち着け、野々花――」
「あそこ! あそこの人が~」
野々花が指をさした先に残り5人の視線が集まる。
指先と視線の方向はアキトだ。
((((((え? ))))))
アキト含め全員の頭の中に一瞬、疑問符が浮かんだ。
アキトはおもむろに視線を下げる。
何一つ飾りのない肌色の健康体がそこにはあった。