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ワイバーン遊覧飛行

ホールを出た後、コーデリアさんに一般的なアカンサスでの服装を見繕ってもらった。シヴァティア連合国には多種多様な種族が生活しているので、その服装も多岐にわたる。

だから、俺みたいないかにも世界観にそぐわない格好をしている人物が一人歩いていたところで、特に悪目立ちするようなことはないようだ。しかし、その格好ではさすがに寒いだろうと思われていたらしく、

ありがたいことに昨晩のうちから用意してくれていたらしい。

用意してもらった服装は神崎が着ているのと同じような、いかにも中世風ファンタジーといった感じだ。ゲームの世界に入り込んだようでワクワクしてしまう。


アカンサスの街は駐屯地からさらに東に30分くらい歩くと着くそうだ。夜は気づかなかったが、東の方に城壁に囲まれた街らしきものが見える。


道中、三人で会話しながら進む。


「フィーは、どんな魔法が使えるんだ?」


「んー、パワーアップとか!あとは、地面ひっくり返したりもできるよ!」


「亜人種は、魔法系のステータスが低くそれ以外のステータスが高い傾向にあって、MP消費の少ない肉体強化系魔法で近接戦闘を得意とする人が多いわ。フィーはそれに加えて、土属性の魔法も人並み以上に使えるから、かなり優秀と言えるわね。」


「えへへー」


神崎に褒められてフィーは照れ笑いを浮かべる。


確かに、接近戦が強いのにさらに魔法も使えるとなると隙が見当たらない。


「神崎とどっちが強いんだ?」


俺は、ふと疑問に思ったことを口にする。すると二人は、


「カレン!」「フィーじゃないかしら」


それから、二人はお互いにムッと顔を見合わせる。


「カレンはなんでも燃やせるし、炎の壁だって作れるし、剣術だって得意だし、それに頭も良くて、いつも冷静で優しいし...絶対カレンの方が強いっ!!」


「フィーは動きが速くて、パワーも高くて、土の魔法で防御だってこなせるわ。それにいつも明るくてみんなのムードメーカーだし...絶対にフィーの方が強いわね」


言い争いながら、その実お互いをべた褒めしている...。最後の方は性格まで褒めてるし...。君たち仲良いのね。

神崎の学校では知らなかった一面を見れて、なんだかほっこりした気分になる。


いつまでもお互いに褒め争いをやめようとしないので、ドローということで仲裁に入った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そうこうしているうちに、アカンサスの街の入り口に着いた。アカンサスの街は周りをぐるっと高い城壁に囲まれており、外からは街の様子は見れない。

正面に大きな門があり、城壁の中をくぐり抜けて中に入れるようになっている。テーマパークの入り口みたいだ。神崎は入り口の兵士に事情を説明してくれている。

その間にフィーと話をする。


「ここがこの国で一番大きな街なのか?」


「うんう、あと3つ大きな街があるよ。ここはヒューマンの街。あと、エルフとドワーフと亜人の街があるよ。」


「フィーは亜人の街で生まれたのか?」


「そうだよっ!」


話していると、神崎が戻って来た。説明が終わったようだ。二人に連れられて、門から街へと入る。門の前に立つ兵士から、「ようこそ、アカンサスへ」と言われ、ニカッと笑顔を向けられた。すごい歓迎されている...。ほんとにテーマパークみたいだぁ。


街に入ると、正面に大きなストリートが通っており、ずっと奥まで続いている。左右には、市場やお店が立ち並び、ストリートと垂直方向にいつくか道が通っている。

ストリートには、馬車が何台か見受けられるが、基本みんな徒歩で移動しているようだ。そして、ストリートの一番奥には大きな中世風のお城がそびえ立っていた。あれが王宮かな?


「さて、どうしようかしら。姫路くんはどこか行きたいところはある?」


良かった。王様に謁見とかはしないでよさそうだ。自由に見て回っていいっぽい。


「つっても、何があるか全然分からんからなぁ。強いて言うなら、異世界ならではのことがしてみたい。」


「じゃあ、あそこだねっ!」


フィーが何か思いつくところがあるようだ。特に他に行きたい場所も思いつかないので、フィーの提案に任せることにした。



フィーに連れられた着いた先は、「ワイバーン遊覧飛行」なるところだった。

広場には乗りやすいようにあぶみくらを取り付けられた小型のワイバーンが数匹放たれている。特にロープなどで繋がれているわけではないが、飛んだり逃げたりする様子はなさそうだ。



「ワイバーン...。私も乗るのは初めてね...」


神崎が呟く。


「え?これに乗るの?」


俺は、絶望の声色で問うた。


「そうだよー。,..あ、もしかして高所恐怖症だった?」


フィーがやっちゃったかな?という感じで尋ねてくる。


「いや、そういうわけではないんだが...」


「良かったぁ!じゃあ大丈夫だね!さすがにワイバーンに乗ったことはないでしょ!風切って気持ちいいよー!」


さすがにワイバーン乗ったことはないので全然大丈夫ではない。俺は神崎に助けを求める。


「ねぇこれ」


「操縦士の人が一緒に乗ってくれるから大丈夫よ。もし振り落とされても風の魔法で助けてくれるわ」


え?振り落とされるの?てかなんで神崎そんな平然としてるの?もしかして乗ったことある?


「カブ【裏】から来られたお客様は無料で体験できるようになっておりますよ。」


操縦士の若いお兄さんがすこぶるニコニコしながらこちらを見つめてくる。

...ここでも絶賛歓迎ムードだぁ。これは断りづらいなぁ。


俺は覚悟を決めてワイバーンへと近づく。改めて見ると普通にでかくてビビる。体はばんえい用の馬よりも少し大きいくらいで、体のちょうど真ん中あたりからは立派な翼が生えている。翼長はゆうに5~6mはあるだろう。これでもワイバーン種の中では最小のものらしい。

体に毛はほとんど生えておらず、硬い鱗で覆われている。完全にジュ●シック・パーク。


俺は、操縦士さんに支えてもらいながら翼の後ろ側へと乗り込む。二人乗りの場合、翼の前と後に一人ずつ乗るのが基本らしい。


「おぉ... 高ぇ..,」


操縦士さんが前側に乗り込むのを待っている間、ふと下の方を見ると、普段とは大きく違う地面との距離に驚きそんな声を漏らしてしまう。


「まだ飛んでないわよ」


隣のワイバーンの上で既に用意が完了している神崎が呆れ声で言ってくる。

知っとるわ


「では出発致します。」


どうやら準備ができたらしく操縦士さんが振り返りながら言ってくる。俺はもう一度覚悟を決めた。




フワッと全体が浮きあがる。地面から飛び立つ時の衝撃や揺れはほとんどなく、みるみるうちに高度が上昇していく。風は感じるのにエレベーターに乗っているような不思議な感覚だ。


「ぅおおぉぉぉぉ...」


ビビり倒しながら、できるだけ下は見ないように努めるべく周囲を見渡す。隣では神崎が余裕といった顔つきで長い髪を風になびかせている。なんなの君、やっぱり乗ったことあるだろ...

かたや反対側を見ると、フィーが満面の笑みでブンブンと手を振りながら何か話しかけてきている。風の音で全く聞こえんがとりあえずサムズアップ。


「十分な高度に達しましたのでここからは高さを保ってゆっくり飛行致します。慣れてこられましたら是非とも周囲の景色もご覧になってください。」


そんなことおっしゃられましても...そう思いながら恐る恐る言われた通りに、離陸からずっと前の操縦士さんの背中に固定されていた視線を周囲に向ける。


目を奪われてしまった。眼下を見やると、城壁に囲まれたアカンサスの町が広がっており、計画的に建築された都市の町並みや行き交う人々の生活の様子を一望できる。

また、水平に目を向けると、元の世界では決して見ることのできない、様々な手段でそこを移動する人々(ワイバーンなどの生物に乗っている人もいれば、生身の状態で飛行している人もいる)、もう一つの生活区域として完全に確立されている空中の様子を目にすることができた。


「シヴァティア連合国はほぼ円形に近い国土をしており、その四端にそれぞれ4つの大都市がございます。アカンサスはその西側の都市で、成立までの歴史や人口に占める割合などがら『ヒューマンの街』とも呼ばれています。また、アカンサスの西側には高さ3000m級の山々が連なるアカネフロ山脈が連なり、様々な魔物の棲家となっています。」


周囲の光景に言葉も失って眺めていると、操縦士さんが解説をしてくれた。


西側を見ると、自分達が飛行している高さよりも遥かに背の高い山々が雄大に並び立っている。なるほど...確かにこんなに大きな山脈でこの世界観ならドラゴンが棲んでいてもおかしくないかもしれない。

逆側に振り返ると、シヴァティア国の地理を眺めることができた。東の端はよく見えないが、北と南の方には確かにアカンサスと同じくらい大きな街が見える。また、国の中央部はかなり大きな森林地帯になっているようだ。西の山脈から流れ出た川がアカンサスの街を通って、中央の森林地帯へと吸い込まれている。


その後も、操縦士さんに解説をしてもらいながら20分程度飛行した後、無事地上へと着陸した。着陸する頃には、恐怖感はとうに消え去ってしまっていた。


地面への安心感に一息ついていると、先にワイバーンから降りたフィーが目をキラキラさせながらどうだったと言わんばかりに近づいてきた。


「どうだった!?」


実際言った。


「あっちの世界では絶対見れないような景色が見れてすげー感動した。乗る前はほんとどうなることかと思ったけど乗ってみて良かったわ。貴重な体験ができた。ありがとう。...二度とは乗りたくねーけど。」


「なんで!!?」


正直なところ、もう一度乗ることにそれほど抵抗は無かったが、憎まれ口を叩かずにはいられなかった。

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