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負け組なはずの俺が、最強の社会保障で勝ち組人生確定!

作者: べくた〜

俺は駒田。年齢30代、下の名前は秘密だ。今この国には素晴らしいシステムがある。経済格差をはじめとする、容姿格差、健康格差、運動能力格差、社会適合指数(性格格差)を調査して合算して『幸福指数』として表し、幸福指数が低ければ低いほど多額の補助金を貰えるという、いわば様々な格差を金で解決するという究極の社会保障システムだ。俺は特に何といった障害や病気はないためそこまで多額の金が貰えるわけではないが、この醜い容姿と性格の悪さ、低身長で運動音痴、女性経験皆無という華々しい栄光のお陰で働かずに最低限度の生活は営む事ができている。

なので俺は毎日が暇だ。安いアパートに一人暮らしをしているが、毎日ゲーム三昧。たまに親が飯を持ってきてはくれるが、大体は毎日外食である。そのせいで結構ギリギリの生活だ。欲しいゲームのためにもやしとキャベツ炒めや納豆で凌ぐこともあるが、まあ長くは続かない。


「たまには遠出でもしてみるか」


急に思い立った俺は出かけることにした。俺に計画という文字はない。いつも行き当たりばったりの孤独な冒険者なのだ。


目的地に向かうまでの電車で若い男たちが何やら話している。盗聴する趣味はないが何やら幸福指数について話しているようだ。


「俺無駄にスペック高いから税金ばっか取られるんだよね。いくら高収入高身長でモテるからって酷いよなぁ」

「俺はモデルの彼女ができたってだけで増税された。腹立つわ〜」


お互いマウントを取り合っている。実に滑稽だ。だがしかし同時に愉悦でもある。彼らのようないわば勝ち組が払う税金で俺は毎日自由な生活をおくれていることを改めて認識し、いわば現代の貴族のような選民思想を味わえるからだ。

おっと、今度は何やら若い女たちが話しているようだ。


「あのブス、あいつの今月の補助金額聞いた?働いてるのが馬鹿らしくなるわ。ブスなだけでなんであんなに貰えるの?おかしくない?」

「ほんとにクソ!うちなんて子供生まれたのに補助金どころか税金増えたんだけど?」


なにやらご機嫌斜めのようだ。そういや女性は男性よりも容姿加算額が大きいんだっけか。まあ男より容姿で人生左右される機会が多いことはわかるが、男性も増額してもらいたいものだ。そうなればますます俺の生活は豊かになる。優秀な遺伝子を持って生まれてしまった哀れな勝ち組たちに黙祷。


かくかくしかじかしているうちに、温泉についた。駅を降りてブラブラしていると偶然見つけたのだ。俺はひとっ風呂浴びることにした。自宅の湯船は狭いしおいだきは無いし、なにかにつけて不便が多い。毎日ゲーム三昧で溜まっている疲れを癒すには、このようなスーパー銭湯に行くのが一番だ。


しかし、いかに(ゲームで)数多の修羅場を潜り抜けてきた冒険者であろうと、初めて来る施設は緊張する。どうやら自販機で券を買って店員に見せるシステムのようだが、券を見せるときに初めてかどうか聞かれた。この施設の勝手がわかっているかどうかの質問だったのだろう。俺は固まって何も口にすることは出来なかったのだが、これも冒険者としての防衛本能なのだろうか。店員は苦笑いをしながら通してくれてどうにか事なきを得たが、かなりの体力を消耗してしまったようだ。


これこれしかじかで苦難を乗り越えた先に待っていた秘湯は最高だ。試しに泡風呂というものに浸かってみたが、泡がブクブクと身体に纏わりついてくる。非常に心地よい感覚だ。

と愉悦に浸っていた俺だが、隣に怪しげな二人組が入ってきた。1人はガタイのいい筋肉質な男で、もう1人は中年であろう腹が出たつるぴかオヤジだった。


「ねえ、私たち、こんなに補助金貰っていいのかしら?結婚もしてすごく幸せなのに、なんか悪いわねぇ」

「うーん、それもそうよねぇ。というより私たちの幸福度が低い扱いなんて、おかしいわよねぇ。そっちにちょっと腹立つ!」


どうやらゲイカップルのようだ。なにやら今月籍を入れたらしい。他人ごとながらおめでたい事である。しかしゲイは未だ社会的弱者と評価され、補助金の対象になっていることに1人は罪悪感を感じているようで、もう1人はお怒りのようだった。


時が流れ、ゲイカップルは去っていった。その後は特にイベントもなく、ゆっくりと泡風呂を楽しんだ。半刻ほどたっただろうか、流石にのぼせてきたので出ようと思ったのだが、少し状況が変わった。なんと目の前に全裸の幼女が現れたのだ。父親についてきたのだろうが、一瞬目を疑ってしまった。俺は変態でありロリータコンプレックスでもあるが、残念ながらハイジコンプレックスではない。要は俺が性的な興味を示すには幾分幼すぎたというわけだ。しかし奇妙な光景ではあった。幼女好きにはたまらない光景ではないだろうか。なにせ合法的に全裸の幼女を観察できる機会などほとんど無いだろうから。


かくかくしかじかで有意義な時間を過ごせた俺は、温泉を出た後ひたすらぶらぶらと歩いていたが、公園で年配のお爺さんに呼び止められた。


「おいそこの若いの、将棋やっていかんかのぉ。教えたるで」

「よせやい、最近の若いのは将棋なんてさせへんやろ、ほっといたれ」


還暦をとうに過ぎたであろう老人たちは何やら缶コーヒーを片手に楽しそうに将棋を指しているようだった。俺は一応有段程度の将棋の心得はある。なぜかと聞かれたら俺のやっているゲームの一覧の中に将棋も含まれているからとしか答えようも無いが。まあ問題はコミュニケーションであるが、俺はなぜか年配者とのコミュニケーションだけは人並みとはいかないがおそらく小学生高学年程度には取れるので、まあどうにかなるのでは無いだろうか。その後これこれしかじかで将棋を指すことになった。


「兄ちゃんええ手指すのう、かなんで〜」


老人は笑いながら時を楽しんでいた。俺も下手なりにコミュニケーションをとりながら、雑談を楽しみながら将棋を指し続けた。


「兄ちゃんも補助金貰ってんの?」


老人がニタッとした笑みでこちらを見てくる。少しウザく感じたが、この世代の人たちは遠慮がないようだ。聞かれたから正直に答えた。嘘をつく理由などない。


「わしらの時代はこんな制度なかったからなぁ、若い人が羨ましいで。わしらの頃は資本主義言うて、金持ってる奴が富を独占しとったんや。そんで貧乏人は一生金持ちにこき使われながら働かな生きていけんかってん。もちろん運動音痴とか無能とか容姿とか話すの苦手とか全部関係あらへん。モテへんやつはバカにされるだけで金で補償なんて発想すらなかったし。まぁどうしようもない奴は生活保護いう制度があったけどそう簡単に受けれんかったし、健康面は保険があった。でもそれ以外はみんな言い訳やったなぁ〜」


老人は笑顔で話を続けたが、その目からは何か悲しげな感情が読み取れた。この老人が青年期を過ごした時代、勝ち組と負け組の間には形状しがたい格差という問題を抱えていたことは知っている。この老人がどちら側だったかはわからないが、この会話と表情から察するに、苦労知らずというわけでは無いのだろう。


俺は自らがどれだけ恵まれている立場にいるのか実感した。いや、正確には改めて、だ。

俺は確かに遺伝的には負け組かもしれないし、それを社会保障で補うのは当たり前だとは思っているが、それを素直に受け入れて税金を納めてくれる遺伝的勝ち組達に敬意を評したい。仮に彼らが革命を起こし、昔に逆戻りしてしまったら、それこそ俺なぞに居場所はないだろうから。

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