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真偽

 六年前の春過ぎのこと。

 怪談を聴くのはもちろんの事、語り手にまわるのも大好きだった僕は、その頃よく物好きを募っては怪談会を主催していた。

 怪談会というのは、文字通り怪談を持ち寄って語り合う集まりだ。大抵は近所のレンタルスペース借りたり居酒屋で行う。

 随分陰気でマイナーな趣味ではあるが、類は友を呼ぶというか、意外と年中集まりが良かった。


「三浦! お前コラ! 妖怪は居るんだよ! 幽霊はしらないけど」

「なんで妖怪限定なんですか」

「みたもん」

「もんってなんですか、もんって」

「子供の頃、一反木綿を見たんだよ。一瞬風に攫われたシーツか何かだと思ったんだけどね、違うんだ」

「ほう」

「あいつ、こっちに手を振ってきやがったんだ!」


 その日は十人程で集まったのだが、居酒屋が会場だった事もあってか、一時間も経つと酔っ払い同士の根も葉もない体験談の応酬が始まった。

 僕の隣の席は「ソーヤ七人ミサキ」さんという何とも言えないハンドルネームの女性で、僕が年下だった事もあって絡まれていた。


「へ、へえ。手をですか。すごいなぁ」

「信じてないなお前! 全く。あ、でもドッペルゲンガーも見た事あるぞ」

「いつですか?」

「もう十年前だから、中二の頃か。土曜日にお父さんとドライブをしていたら、信号で捕まってな?」

「ふんふん」

「ぼんやり前を見ていたその時だよ。交差点を右から左に、俺とそっくりの顔と髪型で、同じ服装の奴が歩いていたんだよ。もう私もお父さんも唖然としてさ」

「面白い話だなぁ」

「でしょ? でも、最近怪談師の人にこの話をしたら、笑われちゃって」

「どうしてですか?」

「ソーヤ君、顔やら髪型やらをそんなに覚えているのなら、じゃあ靴はどうだった? 身長は?って」

「なるほど、それは覚えていなかったと」

「そうそう。人間は見たいものを見たいように解釈して、小さな矛盾を見逃しがちなんだと。だから、怪談が好きならそういうのには気をつけろってさ。偉そうに! なんだこの野郎!」

「僕はそこまで突き詰めない方が好きだけどなぁ。怪談って、真偽の程は定かではないくらいが丁度良いと思うんですよ」

「私もそう思う。ぼかす位が楽しいんだよな。まあ、子供の頃は疑いまくっていたけれど」

「分かりますよ。大人になって、こういう楽しみ方が出来るようになりました」

「あ、そうだ。疑うといえばさ――」



 同じく、中二の頃の話なんだけどな?

 同級生に立花って奴が居たんだよ。肌がやけに白くて、細い奴でさ。

 いじめられていたって訳じゃないんだが、無口で無愛想なせいか、中々周囲と馴染めなかったんだよ。

 で、暫くして。

 夏休みに入って、それが明けた時だ。

 立花、ぱったり学校に来なくなったんだよ。


 自殺したんだと。ベルトで、首をくくって。


 理由までは私達も知らなかったんだけどな。きっと、何か悩んでいたんだろうな。

 それからだよ。うちの学校で、不謹慎な噂が流れたんだ。

 夜の街に、死んだ立花が出るっていう。

 生徒を見つけたらすーっと近づいてきて、首を絞めて殺されてしまうんだと。

 私、当然この噂に疑問を覚えたんだよ。

 目撃者が殺されたのなら、一体誰がこの話を広めたんだよと。ね? 変だろ?

 で、この話をしてきた奴に聞いてみたんだ。


「ねえ、この話誰に聞いた?」

「えっと、三組の○○」


 で、今度はそいつのところに行ってさ。


「――誰に聞いた?」

「一組の○○」


 っていう具合で、どんどん遡っていったんだよ。

 十数人位に聞いて回ったな、確か。もう最後の方はうんざりしてきてな。


「で、誰に聞いたの?」

「何言ってるの。ミサキちゃんが教えてくれたんでしょう?」

「……え?」


 ありえないんだよ。私がその話を知ったのは今朝だし、当然その子には話してない。そう言ったらな?


「ううん、話してたじゃん。一緒にバレーボールした日だよ。ほら、土曜日」


 土曜日。その日私、お父さんとドッペルゲンガーをみているんだよ。バレーボールなんてしていなかった筈なんだ。

 なあ。あの時私が見たドッペルゲンガーは、本当に、他人の空似や私の思い込みだと思うか?

 それとも――



「……面白い。面白いなぁ。この話」

「怪談って、突き詰めると面白くなくなるけどさ。たまにこうして、もっと変な話になったりするんだよな」

「そうだ。ドッペルゲンガーといえば、見たら死ぬって話がありますよね」

「えぇ!? そうだっけ」

「ミサキさんは、いつ死ぬんでしょうね?」

「怖いからやめろ! やっぱりなし! 私が見たのは他人の空似だ! 思い込みだ!」

「ぶれっぶれじゃないですか……」


『真偽』了

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