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迷信

 数年前の話だ。

 僕はその頃立て続けに怪我や病気に見舞われていて、それがきっかけで医療保険に入る事を決めた。

 知人の中川さんという保険屋にその事を相談すると、すぐに見積もり書を作ってくれるとのことで、僕達は翌日に喫茶店で会う約束を交わした。


「――三浦さん。遅くなってすいません。会議が長引きまして」

「いえいえ。急に頼んだのはこっちですから」

「見積もり書、お渡ししますね」

「――おお、良いですね。予算以内です。そろそろ保険に入りたかったんですよ」

「物騒な世の中ですからね……あ、降ってきちゃいましたね。天気雨だ」

「狐の嫁入りですね」

「迷信かぁ。懐かしいですね。子供の頃ご両親に何か言われませんでしたか?」

「言われました。米を残すと目が潰れる、だとか」

「そんなのもありましたね。そういえば、男さんって変な話好きなんでしたっけ」

「大好物です」

「じゃあ一ついかがですか? 遅れたお詫びに」

「是非是非! コーヒー代持ちますよ」

「ははは。迷信といえばなんですがね?」



 十年前、今の妻と籍を入れまして。

 え? ああそうなんです。二人目でして。

 彼女は宮城県出身なもので、東京育ちの僕とは結構違う習慣を持っているんですよ。

 例えば、初詣の事を「ガンチョウマイリ」っていうんです。そうそう。元の朝に参る、です。


――四年くらい前ですかねぇ。

 うちの倅が家の中で蜘蛛を見つけまして。新聞紙で叩こうとしたんですよ。

 すると妻が――。

「朝の蜘蛛を殺したら目が潰れる」って、止めたんですよ。

 そんな迷信聞いた事がないでしょう?

 僕は思わず「朝の蜘蛛は縁起がいい、じゃなくて?」と聞いたんです。

 そうしたら「なあにそれ、聞いたことないよ」って言うんですよ。

 まあよく考えたら、迷信なんて地域によって違うんですよね。

 それで、他も違うのだろうかと思って、妻の家に伝わる迷信を色々聞いてみたんです。


――私ね、聞かなきゃ良かったと思いましたよ。


 朝に蜘蛛を殺したら目が潰れる。

 ツバメが低く飛ぶと目が潰れる。

 秋茄子を嫁に食わすと目が潰れる。

 遠くの音がよく聞こえると目が潰れる。

 夜に爪を切ると目が潰れる。

 妊娠中に葬式に出ると目が潰れる。

 カラスが夜に鳴くと目が潰れる。

 北枕で寝ると目が潰れる。


 他の迷信もね、みーんな全部、最後には目が潰れるんです。



「面白いなぁ」

「気になって調べたんですがね。宮城県民が皆そうだっていう訳じゃないんですよ。妻の家や、妻の親戚の間でだけ、この目が潰れる迷信が伝わっているんです」

「一体、誰が広めたんでしょうか」

「何だか気味が悪いですよね。まるで、誰かが目を欲しがっているみたいで」

「この話、よかったら貰ってもいいですか? イベントで話してみたいです。もちろんお金はお支払いします」

「いいですよそんな。あ、そういえば妻の曾祖母の話なんですがね?」

「ええ」

「白杖、ついていたんですよ」

「――目が見えていなかったんですか?」

「はい。妻が生まれる前からそうだったようで。亡くなった今となっては、結局それが病気だったのか怪我だったのか、誰にも分からないんですよ」

「あの。不謹慎かもしれませんが、それは――」

「ええ。私には、迷信と関係があるように思えてならないんです」


『迷信』了

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