MIN-095「赤い対決」
遠く、遠くへ。
精霊に意識を添えて、遠く…火山へと飛ばす。
森が走り抜け、林も通りすぎ……。
(見えて来た……これはっ!)
前は、遊ぶように溶岩を外に出している大トカゲがいた。
今日もいる……もう1匹?違うもの!
大トカゲと比べると、だいぶ小柄だ。
サンショウウオみたいなのっぺりしたやつがいる。
体格の違いにもめげずに、大トカゲに襲い掛かっている。
その口になんだか力が集まり、それを大トカゲが蹴り飛ば……ヤバっ!
「うっく……」
「ユキ、どうしたの? 何かあった? 今の空を貫くような光は……」
「精霊さんがちょっと……ということは魔力を含んだブレスってとこかな……」
急に視界が戻ってきたために、ぼんやりしてしまう頭。
首を振り、しゃっきりさせたところで今いるのが執務室だと気が付く。
(そうだった、様子を見ますって精霊さんを飛ばしたんだっけ……)
手元を見ると、海鳥型の精霊が宿っていた瓶にヒビが。
精霊さんが失われたから、だね。
「落ち着いたようだね。何が起きている?」
「実は……」
ひとまずは見たままを伝える。大トカゲが人間の味方かは別にして、だ。
少なくとも、サンショウウオは敵のようなものだと思う。
あのままブレスが撃たれてたら、火口が削れてた角度だったしね。
「精霊同士の争い、か。強大な怪物同士の争いも、実は精霊が具現化したものだったのだろうか?」
「それは後にしましょう、お兄様。放置は問題、ね」
「かといって、私たちに何かできるのかなあ……」
サンショウウオっぽい奴の大きさはかなりのもの。
人間として見れば、だからどうだろう……。
映画で見るような大きなサメとかワニみたいな?
「若いのが頭を突き合わせて、悩み事か」
「長老! どうしてここに……」
突然入ってきたのは、長老さん。
魔法使いとしても優秀らしいし、何かを感じ取ったのかな?
「大地はつながっておる。精霊のざわめきは遠くまで伝わるものよ」
「一応、こんな感じのが見えたんですけど……」
再び私は説明を始める。
長老の表情に、笑みのようなものが浮かんだのは気のせいかな?
「なるほどのう。精霊には、いくつか種類がある。物に宿るもの、その場所に宿るもの。そして……」
─自立して動けるもの、そう最後に長老は告げた。
状況的に、大トカゲは火山に宿っている。
そうなると……問題はサンショウウオだ。
「場所に宿る精霊は、基本的に1体しか存在できないのじゃよ。化身、という奴じゃな。それが代替わりするとしたら、自立した精霊が産まれ、それが成り代わる時ぐらいじゃ」
「つまり、新しい方の精霊をどうにかすれば、この騒ぎは収まると」
「お兄様、言うのは簡単よ」
まったくもって、その通り。
それにしても、その場所じゃ1体しか存在できないのはなんでだろう?
「化身、といったじゃろう? あの火山といえば自分だ!と認識できないと、力が失われていく。防ぐには、先住の精霊を食うか、周囲の他の精霊から一時的に力を奪うか」
自分が自分であるために、相手を否定しないといけない、ってことか。
案外、可愛そうというか、なんとも切ない話だ。
迷惑をこうむる側としてはとんでもないけど。
「火山から引きはがしたらどうなるのかしら? 例えば先住の精霊に吹き飛ばされたり」
「あきらめずに挑むか、他の精霊を確保できる場所を探すか……じゃろうな」
「あの近くに火山は1つだけ。待つしかないのか……」
話を聞きながら、私の中で色んなものが組み合わさっていく。
取り込むのは決まった精霊でなくてもいい、今のところ大トカゲのほうが強い……。
何か、似た話を聞いたような……あっ。
「トレント……トレントも、精霊というか魔力に反応したよね?」
「ええ、それが……ユキ?」
ルーナが私の手を取り、首を振る。
何をしようとしているか、わかってるとばかりに。
だから、私もその手を握り返す。
「前にもやったけど、私にできることはしたいな。ユリウス様、人手と、魔法の道具をいくつか使いつぶす許可をください。精霊を、誘導します」
精霊な怪獣大決戦、そこに一石、投じて見せましょう!




