MIN-092「限界だってある」
「面会できない?」
「別にそういうわけではないのよ? ただ、ちょっとね」
領主の館にお手伝いに来た初日。
いつも通り、ユリウス様に報告とお話をと思ったのだけど……。
会えない、と言われてしまったのだ。
申し訳なさそうなルーナに、こちらも恐縮してしまう。
「最近、事件が立て続けに起きてるじゃない? 疲れがたまってると思うの」
「あー、体調を崩したんだ」
心配した様子で、こっくりと頷くルーナ。
そんな姿もお人形みたいで可愛らしいってそんな場合ではない。
(風邪かぁ……さすがに、病気を治す道具はないしなあ……)
薬も地球みたいなのはないだろうから……。
でも、出来ることはあると思う。
「体を温かくして、栄養のある物を食べないとね」
「栄養……落とし子の知識、少し聞いてもいいかしら?」
「うん。そのぐらいなら……お医者さんの真似事はできないけど」
やっぱりお兄さんであるユリウス様が心配みたいで、ルーナの食いつきはすごかった。
まずは部屋の確認、ということでお見舞いついでに行くことになった。
ルーナが一緒なら、駄目ってことはたぶん……ない。
「そういえば、ユリウス様の寝室に行くの、初めてかも」
「そうだったかしら? そうね……普段執務室とかだものね」
案内されたのは、これまで来たことのない場所。
大きな扉を、ノックするルーナ。
しばらくして、中から返事が返ってくる。
「入りますわ、お兄様」
「ああ……ルーナかい。おや? ユキ……」
「お加減いかがですか?」
柔らかそうなベッドに、力なく寝ているユリウス様。
顔の感じから、多分風邪か過労。
少し顔が赤いから、熱があるのかなあ?
「ははは。情けない姿を見せてしまうね」
「とんでもない。ユリウス様は大事な人ですから、放っておけないだけですよ」
本心からの言葉だけど、言ってから恥ずかしくなってきた。
今の、聞き方によっては……っと、それどころじゃない。
「ありがとう。医者は、休んでいるしかないかなというところだったよ。薬草の類も、今回は微妙だと」
「怪我や毒ではないから、かしら。ねえ、ユキ」
苦笑するユリウス様、すがるようなルーナ。
こうなっては、私に何もしないという選択肢はない。
頷いて、特別な物を用意しますよと告げる。
ルーナを引き連れて、向かうは厨房だ。
「よう、ユキ……様? ルーナ様もご一緒で?」
「ちょっとお手伝いお願いします!」
そうして用意してもらうのは、はちみつと、レモンみたいな柑橘類。
さらに取り出したるは……!
「ユキ、それ何? 網、よね?」
「うん。これねー、魔法の道具。ほらっ」
そう、赤熱のナイフだけじゃなく、氷を産み出す魚の宿った網を持ってきてるのだ。
器にこぶし大の氷がごろんごろんと。
驚くルーナと料理長さんに微笑みつつ、しっかりと混ぜていく。
本当はガラスのグラスとかだと見た目にもいいのだけど、今回は陶器みたいなの。
これはこれで、溶けにくいからいいかな?
「氷を砕いてっと……これなら飲みやすいでしょ」
「……領主相手だから許される、贅沢品に感じるわ」
「俺、私もですよ…ええ」
どちらかというと呆れた感じになってるルーナを誘い、再びユリウス様の元へ。
不思議そうな顔でこちらを見るユリウス様に、作った飲み物を差し出す。
「冷えている……なるほどね」
器を受け取り、その冷たさを感じたのか微笑むユリウス様。
ゆっくりと飲み干す音が部屋に静かに響く。
結局、用意した分を全部飲んでくれた。
「ふう……これはいいね。さっぱりしつつも、はちみつだね? なんだか優しい味だ」
「食べるのは大変でしょうから、このぐらいですけど」
物のついでとばかりに、枕元にあった桶に再び氷をごろんごろん。
タオル代わりの布を交換し、寝てもらう。
「やれることであれば、お手伝いしていきますね」
「ああ、頼むよ。ほとんどの決済はルーナでもできるはずだから……」
「ゆっくり休んでくださいね、お兄様」
こういう時、ルーナは余所行きのような丁寧な口調になるっぽい。
大事に思ってるってことでいいのかなあと感じる私がいる。
最初に見たときより、さっぱりした表情になったユリウス様。
それを見た私は、ルーナと一緒に部屋を出る。
「休めば、大丈夫そうかな?」
「ええ、多分。このところ、色々ありすぎたのよ」
まったくもって同意だ。
その筆頭は、私がいそうな気がするけど…うん。
さあ、書類とかの処理を手伝うことにしよう。
ルーナの先導で、執務室へ。
それから日が暮れるまで、延々と報告や書類と格闘するのだった。




