MIN-089「戻る日常と新しい日常」
「はーい、これは銀貨1枚です。えっと、もっと欲しい? うう、お姉さーん!」
「どうしたの、アンナ。ええ、なるほど……ではこっちではどうでしょう」
ユリウス様直々に、店の方で貢献をと言われてすぐ。
まるで予言のように、店は忙しくなってきた。
少しでも食い扶持を稼ごうと、避難民の一部が、冒険者となったのだ。
まだまだ真似事、といったところだけど、採取等なら武器が無くても不可能じゃない。
他にも、生活するための活動も必要だ。
例えば、釣りとか。
「普段はあまり売れない道具たちが……一時的な物かな」
「そうなんですか?」
なんとか忙しさの波が遠くなったところで、在庫の確認をする。
細かい採取道具や、背負い籠、その他もろもろが一気に無くなっている。
一見すると、良いことだけどあまり良いとも言えないんだよね。
「うん。なんでかっていうと、大体は自分で作っちゃうからだよ」
「あっ、そっか。私もお母さんのお手伝いをしながら、紐とか編みます!」
その通り、と軽くアンナの頭を撫でる。
ベリーナさんは、ウィルくんを連れて会合というか、集まりに出ている。
アルトさんはアルトさんで、日々忙しそうにあちこちに。
怪物がこないとも限らないし、いざこざも起きそうになってるらしい。
「お外の人、たくましいですね。テントがいっぱい増えてました」
「うーん、移民……住む場所の移動って自由なのかな」
そのあたりの法律みたいなのは、まださっぱりだ。
単純に考えると、税金が減る原因だから、そうそう移動は出来ないような気がする。
(災害が原因なら、特例とかあるのかな?)
うわさ話も集めていくと、どうもこの町に来た人たちは戻らないんじゃないかという話。
なぜかと言うと、住んでいた場所が火山に近すぎたのだという。
「お家、燃えちゃったって私ぐらいの子が、言ってました」
「そうだね……。うーん、畑とか大変になるかも?」
ようやく片付けが終わり、外じゃなく建物の中での営業を再開したプレケース。
来客も、いつもとは違う感じで、ちょっと戸惑うんだよね。
「よし、ローズをもふもふしよう」
「お姉さん、いいなあ。私はこのぬいぐるみちゃんにします」
微妙なストレスが溜まっているのを自覚してから、ローズの癒しが欠かせない。
カウンター裏にローズを座らせ、もふもふ、わしわしって感じ。
アンナは、ウィルくん用のあの動くぬいぐるみをお手入れ。
(ここだけ見ると、ほのぼの空間かな?)
必需品ばかりじゃなく、こういうのも必要な気がしてきた。
癒しというか、なんていうか……そう、生きてるならそれでいいっていうのは違うのだ。
次に開発というか、考えるネタが出来たところで、お昼。
売り物のパンから2人分を持ちだす。
こういうのは、経費ってやつだ、多分。
「お姉さん、私も精霊さん、見えるようになりますか?」
「わかんないなあ。アンナは魔法使いになりたいの?」
「それはあんまり? でも、出来ることが多いと良いなって思います」
やっぱり、良い子である。
それに、勉強も楽しいと言い切れる子だ。
お店の空いた時間で、勉強を教えているのだけど、呑み込みが早い。
「そうだね。アンナみたいに計算ができると、商売もできるからね」
「はい! お使いもできます!」
何かの小説とかで、民衆が知恵を付けると貴族とかは滅ぶ、みたいなのを見たことがある。
窮極的にはそこまで行くのだろうけど、まずは国民が豊かにならないとね、とも思う。
「うんうん。じゃあまだ勉強かな? 魔法は、他に先生を頼んだ方がいいと思うし」
「お姉さんがいいんだけどなあ……でも、わかりました!」
元気なアンナとの会話を楽しみつつ、来店に備える。
午後も、お客さんの波がある。
そのほとんどは、ダンジョン帰りの人たちだ。
「明日に備えて、補充補充っと。これもらうよ」
「はーい! 消耗品は、無くなる時は一気になので、ご無理せずに」
何度か顔を見た覚えのある人を見送ると、視線を感じた。
そちらを向けば、元気そうな様子のビエラだ。
「今日は何を買ってくの?」
「買い物もそうだけどさ。この辺、見てもらおうと思って」
そういって布袋から出てきたのは……宝石? いや、原石かな。
前に、地方の民芸品店とかで見たことがあるようなものだ。
「磨けるお店に持ってった方が高くない?」
「それはそうなんだけどよ。物がわからないから……」
ああ、価値がわからないってことだ。
とはいえ、私も具体的な相場までは不明。
ひとまず鑑定だけ……んん?
「なあ、どうだ? 少しは価値がありそうか?」
「価値があるっていうか……ビエラ、これどこで拾ったの?」
魔石になっている。そう告げた時のビエラの顔は、とても面白いものだった。