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MIN-008「広がる手」


 その日も、平和にお店は終わった。

 店内の整理と、在庫の確認の時間だ。


「思ったより売れてるなあ。在庫が……うそ、もうこれだけ?」


「どれどれ……なるほど。ユキのおかげかしらね」


 大きいお腹を抱えて、手にした物を光に透かすベリーナさん。

 彼女の手にあるのは、水薬、ゲーム的に言うとポーションってやつ。


「それ、専門のお店が卸してくれてる奴ですよね。魔女って感じの人」


「魔女、魔女ね。確かにあの人は魔女だわ。あの人、いくつに見える?」


 そういって、教えてくれたお店の人の年齢は……驚きで目玉が飛び出るかと思った。

 アンチエイジングなんて裸足で逃げ出すね、うん。

 どう見ても、まだ40代ぐらいにしか見えないのにさあ……。


「ポーションって、すごいんですね」


「安い物は安いなり、高い物は値段相応にすごいわよ。噂だと、手足が生えてくるのもあるらしいし」


 魔法にも、癒しの魔法があるとかいうし、この世界はすごい。

 衛生の話だとか、薬そのものはそんなに発展してないらしいけど、代わりの物があるんじゃそうなる。


 結局、例の革袋は戻ってきていない。

 さっきから話している魔女さんが、使わせてほしいということで貸し出し中。

 なんでも、出てくる水が一定の清潔な物というのがとてもいいらしい。


 これはなんとなくわかる。

 何かを作るのに、材料の品質が変わらないというのは大事だもんね。

 薬だけじゃなく、料理でもって、そうだ。


「ベリーナさん、今度私も何か作りますよ。いつも作ってもらってばっかりじゃ悪いですし」


「そう? 気にしなくてもいいのよ。私がやりにくい分、お店はすごい助かってるんだもの」


 そう言われてしまうと、その通りなのだけども。

 押し切られそうになり、慌てて首を振る。


「ええっと、それだと単にお互い様じゃないですか? こう、私がやってみたい、じゃ駄目ですか?」


「ふふ、そこまで言うなら。材料ぐらいは教えてちょうだいね」


 訳を聞くと、どうせなら自分も覚えたいとのこと。

 本当に、ベリーナさんはいいお母さんになれそうだなと思う。


 戻ってきたアルトさんを出迎えつつ、日が落ちたのでご飯。

 うーん、健康的。


 一通りが終わったら、なんだかんだとみんな寝てしまう時間だ。

 娯楽はともかく、電気がないから夜は暗い。

 月明りだけが、頼りだ。


「あっちにいたころじゃ、考えられない時間だよね」


 1人、ベッドで呟いて空を見る。

 時間はわからないけど、多分9時にもなっていない。

 人間、不思議な物で段々と寝る時間にも慣れてきてしまうのだった。


 日課となっているナイフのワンコとの遊びも終わり、何度目か数えなくなった夜を過ごす。




 翌朝、アルトさんから小さな革袋を手渡された。

 金属音がして、見てもいいということで覗き込むと……銀貨だ。


 横で見ていたベリーナさんの表情が少し変わったように思う。

 お金のやり取りが生々しいから?

 うーん、違うかな。


「あの革袋、正式に買い取りたいって話があってな。ひとまずは今日までの使用料、だそうだ」


「そういうことですか。にしては、結構高い金額ですね」


「魔法の道具は、そんなものよ。だから、ユキは気を付けないといけないの」


 言われ、しっかりと頷く。

 ナイフでもそうだけど、力が無くなった、あるいは尽きかけた魔法の道具は、普通の道具だ。

 ナイフはただのナイフで、革袋は普通の水筒にしか使えない。


 それが、これだけのお金に化けるのだ。


「どうもな……水に魔力が少し溶けだしているらしい。だから、予定より良い物が作れるそうだ。ポーションの性能があがれば、それだけ危険も減る。作れるだけ作ってしまいたい、ということだろうな」


「そうなると、私が宿ってる精霊を治したからってのは内緒のままにしないとですね」


 まさに、金の卵を産む鳥、だ。

 もふもふとか、金魚みたいなのと遊ぶのは構わないけど、閉じ込められたりしそう。


「ああ。そういうことだ。もう少ししたら、特訓しよう。自分ぐらいは守れた方が何かといいだろうし」


「わかりました。あ、そうだ。アルトさん、ルーナに魔法を教えてもらう予定になってるんですよ」


 私の言葉に、二人もぎょっとした感じになった。

 この反応、ベリーナさんもルーナの事を知ってるんだ。

 そりゃあ、そうじゃなきゃ2人で森になんかでかけないか。


「珍しく、あの子に呼びつけられたと思ったら、多分理由はユキだな」


「え? 今日はルーナところに行くんですか?」


「色々あるのよ、色々。悪い話ではないけれど」


 ちょっと悲しそうだし、聞きすぎるのも良くなさそうだった。

 簡単にこの前の湖畔デート……じゃなかった、遊びにいったことを伝えると、ほっとした様子。


「何かあっても、私たちがいる。これでも結構顔が利くほうだからな」


 微笑んで、アルトさんは出かけて行った。

 謎というのか、知りたいことは増えたけど……悪い気分じゃない。

 自分が何も影響を与えない訳じゃない、同じ場所に生きている、なんて感じてしまう。


「あ、ベリーナさん。料理の件ですけど、おやつ的な物を何か作ってもいいですか?」


「おやつ? いいわね。ユキの世界のおやつ、気になるもの」


 あまり期待しすぎないでくださいよなんて言いながら、お店を開く。

 ケーキ……は無理だから、何にしようかななんて考えつつ。


 


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