MIN-086「お茶目な気配」
「私が知る限り、こうしてコップの中に水を入れて、そこで何かを動かすようなものなんです」
領主兄妹の前で、用意された飲み物を使って実演して見せる。
「なるほど……中の物が動けば、水が動く……」
「精霊が肉体を持つように動いたから、火山が噴火したというわけね?」
推測もいいとこだけど、なんとなく、合ってるような気もする。
たぶん、何かはあの火山に住んでるか、たまの寝床なんだ。
それが動いて、火山と周囲を揺らした。
「それではどうしようもないということに?」
「精霊は宿る物が決まってるわけじゃないですからねえ。ずっとあそこに宿ってるのか、代替わりしてるのか……」
絶望した様子の代表者さんたちには悪いけど、なんでもわかるわけじゃないのだ。
精霊の年齢なんてわからないから、答えは出ない。
1つ言えるのは、今の状況をどうにかしても、後々また出るだろうなってことかな。
「昔から、火山は恵みも被害ももたらすと言われております。仮に、あの山がただの山となれば、あの土地は大きく様変わりするでしょう」
「火山灰も、畑に良いって聞きますもんね…」
思わず口にしてから、秘密だったかな?と思い直す。
代表者が、驚いた顔をしてるから、多分秘密だった、うん。
ごまかすようにルーナを見ると、ため息1つ、首を振られる。
「彼女は、文官なの。各地の伝承なんかをまとめてもらってるわ。それで、どうするのが理想かしら。原因が精霊だとしたら、交渉も難しいわね」
「ただの自然相手よりは、マシのように感じるがね」
私も考えてみるけど、いい案が浮かばない。
そもそも、どうして不定期に実体化するのか?
お腹が空いた? 何かそうする理由が?
お水のおかわりを貰おうと、席を立つ。
慌てて近寄るメイドさん……そうだ、私は親戚扱いだった。
うっかり、メイドさんとぶつかりお水がこぼれる。
「も、申し訳ありません」
「ううん、気にしないで」
必死に、濡れた私をメイドさんが拭く間、窓から外を見る。
ちょうど庭では、日常を取り戻そうと草木に水をやっている人がいる。
お水を上げ過ぎたのか、鉢を傾け……。
「あっ」
「何か粗相を?」
「大丈夫大丈夫。ありがとう」
(そうだ……そもそも、被害だと思うのが間違いなのでは?)
「1つ、仮説があります。火山で動いている何者か……恐らく精霊は、周囲の生き物のために動いてる可能性があります」
「聞かせてもらおうか」
模型をぱぱっと作れるわけがないので、どう説明したものか。
ひとまず、さっきも使ったコップと、水差しを持ってくる。
「火山の中に、どろどろした赤いのがあるのは知ってると思いますが、あれってたぶん大地の中にたくさんあるんですよね」
「過去に何回も噴火しているわけだから、恐らくそうでしょうね」
「まるで湧水ですな」
代表者のつぶやきに、大きく頷く。
そう、マグマは下の方にたくさんあって、動いている。
「そうです。徐々に、噴き出ようと出口に集まって来てるのが噴火の直前。でも、そうそう出口は開かない」
ゆっくりと、水差しでコップに水を入れていく。
結果、溢れそうになってきたところで止める。
「何もないと、この上にフタがあるわけですよ。どのぐらいで壊れるのかわからない、頑丈なフタが」
「それがどういう……まさか!」
「適度にフタを開けているというの? 精霊が?」
驚きの視線が集まるけど、私も仮説でしかないから、断言はできないんだよね。
コップの水を飲み、置けば溢れそうなコップはただのコップに。
「かもしれない、というぐらいかなあ? 大噴火だと、怪物も獣も、植物たちも燃え尽きちゃう」
「だとすると、ちょうどいい具合に穴を開けてもらえば……」
それができれば、一番なんですよねー。
でも、誰が交渉するのか? そもそも話が通じるのか?
問題点は多いんだよね。
「それは今後の研究次第ということで……。まずは食事ですよ、食事!」
「ユキ、段々地が出て来てるわよ? でもまあ、そのとおりね。とにもかくにも、暮らせないといけないわ」
「街道がああでは、お隣からの問い合わせも遅れるだろうが……まあ、想定内だ」
話し合いは続き、合間に軽食を挟むことになった。
ちなみに、ガレットの方が好評だった……そばだからかな?
一通りの話し合いが終わり、代表者たちは避難場所に戻っていく。
私は、残るように言われて一室に待機。
「まさか火山に突撃して来いとか言われないよねえ……」
「そんなことさせたら、私がアルトたちにどうにかされてしまうわよ」
呆れた様子のルーナの姿に、私も苦笑を返す。
引き連れたメイドさんにより、お茶やお菓子が用意された。
「ああ、よかった。でも情報は必要だよね? 鳥を飛ばそうと思う」
「距離がわからないのも問題よね……気を付けて」
頷き、今はお茶とお菓子を楽しむことにした。
自分が提供したレシピのお菓子でも、やっぱり料理人が作ると違うなあ。
甘味も、気持ちも充填していざ、火山へ。
そのまま倒れてもいいように、ベッドの上で集中する。
本当は海鳥のはずだから、地上だと微妙かもしれないけど……。
(お願いっ! 遠く、遠くへ!)
願いを聞き入れたように、鳥が窓から飛び立つ。
と、不思議なことに視界が変化した。
これ、鳥そのものだ!
(鳥の帰りを待つだけと思っていたけど、これならっ!)
風を切る感覚を感じつつ、ぐんぐんと加速。
ついには、精霊だからか何も感じないけど移動だけはしてるという状況に。
(見えたっ! 夕方だけど、まだ明るい!)
ついにというべきか、もうというべきか。
火山の大きさもわかる距離に近づいてきた。
赤々と燃える火口も、ようやく形が……ん?
(なんだろ、これ……)
離れた場所からの観察。
この時点で、色々と大きさがすごいのだけど……。
火口の中で、トカゲのような姿をした何かが、溶岩を外に出していた。
水鉄砲でも放つように、口からビュワーって。
思わず、その場で待機させてしまう私がいたのだった。




