MIN-084「遠くの親戚より……」
遠くで、1つの山が噴火していた。
ここからでもわかるほどの赤さは、だいぶ治まったみたいだけど……。
「たまに、変なにおいがするねえ」
「この距離なら、毒性はほとんどないと思う、多分ね」
幸いにもというべきか、火山からの噴煙は違う方向に今は流れている。
一時的に風向きが変わった時に、こっち側に煙が流れて来たんだろうね。
「聞いたことあるよ。山や洞窟だと、見えない何かにやられて死ぬって」
「うん。かわいそうだけど、わかるように小鳥なんかを籠に入れておくって……」
本当かどうかは知らないけど、学校で学んだことがつい口から出る。
そうしてる間にも、町の境界である柵に他にも人がやってくる。
「きっと近くの偵察と、間引きだね。住処と縄張りに変化があると、厄介なんだ」
「なるほど……。私たちはいいけど、隊商の人とか平気かな……」
トラックなんてない世界。
物流は、馬車とかによる移動が限界だ。
冷蔵は不可能じゃないけど、運べる量は限られる。
(ゲームとかみたいに、たくさん持ち運びできると良いんだけど)
思い浮かぶのは、たくさんのポーションとかを持てる創作の話。
今のところ、とっかかりも何もない状態なんだよね。
「しばらくは安全確認に厳しいかもなあ。ま、そういう場合の護衛に冒険者がいるんだけど」
「そうだよね! じゃあビエラに何かあればお願いしようかな」
ただ知り合いだからという訳じゃない。
ちゃんと、前に別れたときと装備が違うのだ。
前よりも、丈夫そうな防具に、予備を含めた武器たち。
「へへっ。安くしとくよ。ひとまずいいかい? 他に変なことはなさそうだけど」
「そうだね。怪物が押し寄せてくるとかあったら怖いなと思って……あれ?」
最後に一目、と火山の方を向いたとき。
ちょうど中間ぐらいに、何か光が見えた。
揺らめく光が、何個もある。
「ねえ、ビエラ。あれ、なんだろう?」
「んんー? 動いてるな。火事……じゃないなあ」
ひとまずは町に戻り、何を見たかだけは報告することにする。
ユリウス様自身はどこかで指揮を執っているみたい。
見覚えのある騎士さんに駆け寄る私。
「あのっ! ルーナたちはっ」
「ん? おお、ユキ殿。ユリウス様たちにけが人はない、安心しなさい。被害状況を確認の上、対策をというところなのだよ」
おじさんといった感じの騎士さんは、兜の隙間から笑顔だ。
こういう時、硬い顔をしていてばかりじゃ駄目ってわかってる人。
自分が見た物を伝えると、その顔も引き締まった。
「複数の火……もしや、灯りではないかな? あの山の方角には、鉱山を抱えた土地もある。何らかの兆候をつかみ、避難しているという可能性もありえますな」
じゃあ!と前のめりに言う私に、すぐにユリウス様に伝えると告げ、騎士さんは走る。
完全装備、じゃないけどしっかりした装備なのに、すごいなあ。
「あっちは別の領主の土地だよ。とはいえ、近い方を頼るのが人間ってもんだよなあ」
「難しいね……」
悩ましいけど、今は自分たちのことだ。
町に戻り、ビエラと別れて手伝いに参加する。
炊き出しを手伝ったり、不安そうな子供たちと遊んだり。
私にもやれることは多いはず。
「ダンジョンに何事もないといいのだけどね」
「刺激されて怪物が元気になったり、外に出てきたりとかあるんですか?」
ウィルくんに、ご飯をあげながら聞いてみるけど返事が返ってこない。
顔を上げると、考え込むベリーナさんがいた。
「何とも言えないわね。外のはともかく、ダンジョンのはたぶん……でも、崩れてたら境界があいまいに?」
どうやら、例のない状況の様。
確かに、このあたりは地震がほとんど起きていないらしいのだ。
アルトさんが早く戻ってきてくれれば……いや、それはそれかな?
安全を確かめるって、結構大変だと思うしね。
「夜のうちの見張りが、しばらくは必要かしら」
「柵とかも、もっとしっかりしたほうがいいのかも?」
あれこれと話していると、あっという間に夕暮れだ。
そのころには、アルトさんたちも戻ってくる。
「今のところは異常はない。深部はわからんがな」
「怪物があふれてる!ってならなくてよかったです」
幸い、外で寝てても寒くはない時期だ。
夏が来る前に、住める場所を用意しておく必要があるけど……。
(魔法で木を切ったり、加工のお手伝いできるかなあ?)
魔法の道具で、そういうものがあれば一番なんだけど……。
そうそううまくいくこともないか、と思い直す。
「慣れない状態だろうが、寝られるときに寝ておくといい」
「わかりました。そうします」
なんだか寝つける気はしないけど、横になるのも大事。
毛布をかぶり、町のあちこちに見えるたき火をぼんやりと眺めつつ、寝る。
それから数日後。
馬車の集団が避難して来た。
思った以上の規模、そして準備具合。
「何か、気になるわね……」
突然の噴火から逃げて来たというには、十分すぎる避難の姿。
ベリーナさんのつぶやきに、頷くしかない私だった。




