MIN-081「愉快な長老」
「お久しぶりです、長老」
「うむ。少し疲れもあるようじゃが、生きているのなら何よりじゃ」
想像よりもしっかりした足取りで、お爺ちゃんが歩いてきた。
ユリウス様にも、しっかりと受け答えしている。
場所を、出迎え用だろう部屋に変え、待っていた私たち。
やってきたのは、お爺ちゃんと護衛らしい兵士達。
たぶん、こういう場所に来るわけだから口が堅い人なんだろう。
(よかった、少なくとも半分ボケてる、とかじゃないや)
この世界だと、どのぐらいの寿命かは知らないけど……。
こちらは予想通りの白髪は長く、後ろで束ねられている。
なんとなく、7つの球を集めるアレのお師匠を長身にした感じだ。
服装は、意外にもローブみたいなやつじゃなく、そこらにいそうな普通のだった。
まあ、旅をするのに、動きやすい服装でってことかなあ?
「お元気そうね、ご老人」
「おお、おお。ルーナもすっかり成長して……まあ、まだ未来はあろう」
「……どこを見て、どう思ったのか詳しく聞きたいところだけど、本題は別よ」
どちらかというと、お世話になった恩師といったユリウス様。
それに対して、完全に親戚のお爺ちゃん相手みたいなルーナが面白かった。
ふと、長老の顔がこちらを向く。
直前の会話からは想像もつかない、真面目なものだった。
思わず、腰が引けてしまった私は悪くないと思うんだ、うん。
「ほほう……なるほどなるほど。うむ……」
「ユキです。え、もう何かわかったんですか? じゃない、わかるんでしょうか?」
今さら遅い気もするけど、丁寧に言いなおしてみる。
ユリウス様にあんな会話ができるんだから、相応の立場に違いないのだ。
ゆっくりと近づいてきた長老が見る先は私……私の……。
「今も十分……それに、将来を感じさせるのう……」
「ユリウス様、この人本当にそうなんですか?」
思わず、顔を引きつらせてユリウス様を見てしまう。
そばのルーナも半笑いだし、ユリウス様はため息な顔だ。
「長老、彼女は落とし子なんです」
「わかっておる。緊張をほぐす小粋なという奴じゃ。どうれ、ユキ。この杖を握りなさい」
「あ、はい! えっと……」
歩く用というわけじゃなく、短いステッキみたいな杖。
差し出されたそれを、思わず握りしめる。
すると、一気に黄金色に先端まで輝きだした。
「なんと……!」
「嘘でしょう……!?」
驚く長老とルーナ、そして驚愕を顔に張り付けるユリウス様。
部屋の隅にいる護衛の兵士も、驚いた様子だ。
「これほどとはのう……攻撃魔法の使い手でなくて、助かったというべきか」
「やっぱり、すごいんですか?」
見るからに豪華というか、派手な結果だった。
それに、普通とかだったらみんなあんなに驚かないだろう。
何より、長老の言葉がじわりと染みてくる。
(私の使える魔法が、もしも攻撃に偏っていたら……)
考えるだけでも背筋が寒い。
下手をすると、制御できずに自爆していたかも、そう感じたのだ。
「国中探しても、10年に1人いるかいないか。100年出てこないやも、という具合じゃな」
「出来れば中央には行かせたくないの。どう使われるか分かった物じゃないから……」
「ルーナ、ありがと」
もういいと言われ、ステッキを返した私。
促され、みんな椅子に座る。
長老は黄金にまだほのかに光るステッキをまじまじと眺め、しきりに頷いていた。
「ワシが現役の頃ならいざ知らず、今となれば……英雄は不要な時代じゃからのう。得意なのは魔法の道具を治す、じゃったな。さてはて……」
改めて正面から見つめられるとくすぐったい感じだった。
それだけじゃなく、長老が私の体から出ているらしい魔力を見ているのを感じた。
私じゃない私を、見ていると思ったのだ。
「彼女の力の本質は、同化に近いと考えています」
「確かに、その一面はあるようじゃ。治すというより、戻すという方が正確じゃろうな。かつてに、戻す。他の側面も合わせ、実質は治すと考えてもよかろう。これほどとなれば、違いはない」
気になることを話すように促されたので、色々と話していく。
精霊が触れること、声みたいに感じること。
大きなくじら精霊のこと、黒い精霊のこと。
長老は、それを楽しそうに聞いてくれた。
孫の話を聞くお爺ちゃんといった感じで、私も安心できたと思う。
「よくわかった。結論から言うと、恐らく今のお主では元の世界には戻れぬ」
「……ですよ、ね」
半ば、わかっていたことだった。
来た理由も不明なら、戻るための手段も不明なのだ。
わからないことだらけだから、いつ戻れるかなんて話は出来やしない。
「ああ、勘違いするでない。お主は……現身、こちらに落ちて来たのではない可能性があるのじゃよ」
衝撃的な話が、長老の口から飛び出すのだった。