MIN-080「過去から眠るもの」
「実家の倉庫みたいだなぁ……」
その場所を見た第一声は、こんなだった。
領主の館の、隅っこの方。
倉庫群の1つで、備蓄の確認立ち合いに来ているのである。
「あまり、壊れる物じゃないからねえ……」
「大事に使うのが、基本ですもんね」
メインで作業をする文官さんと、お手伝いの兵士達。
彼らが一度運び出すものたちを、確認して目録とするのだ。
多いのは、家にいる奥さんたちが作りそうな雑貨類。
続けて職人さんの家具……武具の類もあるね。
随分年季の入った感じがするけど……。
「この辺、使うのは不安じゃないですか?」
「まあ、そうだね。こういうのは、どこで何年ごろに作れたかというのが重要なのさ。鉱山の採掘であるとか、色んな資源の確保が必要になった時、役に立つ」
そういうことらしい。確かに、物流が未熟なこの世界だと、地産地消ってことになるんだろうね。
確か、このあたりには良質な鉱山がないから、材料は他所から持ってくるのだとか。
鉱山自体は、無いわけじゃなさそうだけど……うーん?
「鉄は、富も産むけど、争いも産む。古来より、鉄の作れる土地は奪い奪われだったのさ」
「なるほど! 欲しいのがあると、奪いたくなるという……」
なかなか悲しい、変わらない人間という物を感じる話だ。
鉱山というのも、私はよく知らない。
適当に掘れば出てくるって話でもないよね、きっと。
探す方法があればいいんだけど、と運び出される道具たちを見る。
いろんなデザインの物があり、小物好きとしては色々刺激される光景だ。
1つぐらい、もらって帰りたいぐらい。
「もし、魔法の道具が眠っていたら、別にしておくようにユリウス様には言われています」
「そうなんですね。今のところは……ああ、ありますね」
ちょうど、2人の兵士が頑張って運びだした箱の中に気配を感じる。
ゆっくりと開けると、中にあったのは……鐘。
ちょうど兜みたいな大きさの鐘だ。
「見張り台で打ち鳴らす類の様ですね」
「ああ、そういう……ん、やっぱり。だいぶ放置されて眠ってますけど、精霊がいますよ」
いきなりだと驚くだろうから、ゆっくり優しく力を注いでみる。
ふわりと浮かぶのは、卵。
そしてヒビが入り……出てきたのは鶏みたいな精霊だ!
試すとすごい響くといけないので、あとでやることにしよう。
他にはないかなと、確認をしていく。
「これとこれ、あ、こっちもそうですよ。っていうか結構ありますね」
「そんな記録はないのですが……一体」
最初の分は、ほとんど普通の物だった。
ところが、途中から10個に1個のペースで魔法の道具が見つかる。
正確には、精霊が宿っている物、なんだけど。
「騒がしいわね」
「ルーナ! ちょうどよかった」
様子を見に来たらしいルーナに、事情を説明する。
美少女が、無言で見渡すというのはそれだけで絵になるよね、うん。
「……そう。たぶん、長い間眠ってたからじゃないかしら? 曰く付きの年代物、になってしまったのよ」
「古いものには魂が宿る、そういうお話は私の故郷にもあるよ」
付喪神、民芸品の多い地方だと、よく聞く話だ。
私の小物好きも、どちらかというと民芸品に偏ってるかも?
こう、外国のおしゃれな感じの小物も大好きだけどね。
「これは、倉庫を順番に見ていくといい感じに出てきそうね。中央の倉庫とかでも眠ってるんじゃないかしら」
「やだ、そっちに引っ張られちゃうじゃない……」
ちょっと怖い想像を2人とみんなでしつつ、魔法の道具を探し出していく。
結局、両手で足りないぐらいの道具が見つかった。
使い道は、これからなんだけどね。
報告に行ったところ、ユリウス様には笑われた。
いい意味で、だと思いたいけど……。
「手の空いてるときに、ユキには道具の鑑定をお願いする。売れるものであれば、売ってしまいたいからな」
「お兄様、建前口調が崩れてますわ」
そういうルーナも、からかう時の口調だった。
だんだんと、仲良くなれてるってことなのかな?
偉い人と仲良くなるのは、大変な場合もあるけど……この2人なら、いいかなと思う。
ちょっと気になるのは、ユリウス様の距離が少し近くなったことかな。
「おっと。ユキがそばにいると、安心するからだろうか。精霊と同じ力を、感じると言ったらどう思う?」
「私は人間でいたいから、ちょっと困っちゃいますね」
言いながら、くじらの精霊みたいに大きくなれたりするのかな?なんて考えたりもする。
手乗りくじらとか面白いよね、うん。
「真面目な話をすると、だ。過去に強大な魔法使いがそのまま戻ってこなかった話もある」
「色んな説があるのだけど、自然と一体化してしまったという説もあるの」
急に、怖い話になってきた。
例えば、例えばだ。私がこのまま、魔法の道具を治すだけじゃない力を持ったとする。
そんな時、精霊に意識を向けすぎて、精霊と成ってしまったということだろうか。
「脅かしてしまったね。そうならないために、例の長老が間もなく到着するはずなんだ」
急に、親戚のお兄さんみたいな口調になったユリウス様。
妙に説得力があるなあと思っていると、ノック音。
「ふむ……噂をすれば、だ。迎えに行くとしよう」
ドキドキの出会いが、始まるようだった。